外洋レースにはドラマがある。國米 創、2度目の1人乗りレースに出場
フランスで2025ミニトランザットを目標に活動する國米 創(DMG MORI セーリングアカデミー)から、ひとり乗り外洋レース「MINI en Mai」のレースレポートが届きました。このレースはフランス北西部のラ・トリニテ・シュル・メールをスタートして島やブイをまわってスタート地へ戻る440マイルのレースです。國米選手は今回もアップダウンのあるレース展開で、逆転劇もあり、トラブルあり、さらに竜巻まであらわれる外洋レースらしいドラマがあったようです。(BHM編集部)
前回のレース、Pornichet Select(ポルニシェ・セレクト)のフィニッシュから11日後にMINI en Mai(ミニ・エン・マリ)のレースがスタートしました。回航や整備、レース前準備を入れるとそんなに時間はありませんが、整備の量が少なかったため、まだ余裕のある日々をおくることができました。(レポート/國米 創)
このレースは元々500マイルの予定でしたが、風が落ちる可能性もあったため440マイルに短縮されました。さらにレース前に発表された禁止ゾーンが多く、レース中でもコース変更の可能性があり無線の聞き落としがないようにしないといけません。
レースは13マイルのインショアレースから始まりました。風速2〜6ノットのなか、スタートラインに85艇のミニが並び、ダウンウインドでスタートしました。レースの中でもスタートが一番危ないと思っているので、特に気を張って挑みました。この時、残念ながら中山さん(1034)が他艇と接触してレースをリタイアする決断をしました。この情報を知ったのもレースが終わったあとのことでした。
◎20ノットの風のなか突然ダンという音が鳴り、ツィーカーが飛んでしまう
湾を出ると先ほどとは変わって20ノットの風が入り、アップウインドに変わりました。まだ、まわりに船がたくさんいるので気にしながら走りました。ジブとメインで下の船もすぐには目視できないからついさっき確認したばっかでも意識的にこまめに目視するようにしました。
1時間ほどアップウインドを走り、陸に寄せてポートタックを走っているときにいきなり「ダン!」というごつい音が鳴りました。何かが飛んだと思い、マスト、バックステー、フォアステーとすぐにその場で確認したが何も異常がなく、下に行って確認をしたらジブシートのツィーカーが飛んでいました。ジブの形は最悪でしたが風も強かったので走りにはそんなに異常がなかったのでそのまま続行することにして走りに集中することにしました。
コースで最初の選択肢は、グロア島の陸側を通るか沖側を通るかでした。目視できる限り前を走っている船は沖側を通っていましたが、たまたま風が右に振れてジェネカーを上げてタイトリーチングで陸寄せをすることにしました。
レース中は自分の順位がわからないからこの選択肢が正解か当時はわかりません。自分が先頭集団にいると気がついたのはその日の夜中にAISでまわりの船を確認した時でした。名のある選手が近くにおり、インショアレースでも先頭にいたし、順位てきにも後ろにいるはずがない、など自分で自分に語りかけて確実ではないが多分高い確率で先頭にいると認識しました。
◎陸寄せコースでごぼう抜き、一気に上位グループへ。しかしマークを間違えてしまう
潮の流れが強い場所をしばらく走り、経験と知識の多い選手が島や岩の間を最適なセール選択で上手く走り抜けいきました。レース中ですが「そういう走り方とセールチョイスがあるのか、覚えておこう…」と心のなかで少し感心してしまいました。
北に向かってアップウインドを走り、マークを回った後はダウンウインドになりました。この時にレースでの致命的なミスであるマークを間違えてしまいました。
今回の搬送指示書などの書類やレース前ブリーフィングはフランス語で翻訳などをして理解していたつもりでしたが、聞き逃しや理解できていなかったところがあったのかもしれません。特に今回のコースはブイの指示が多くて複雑でした。改めて次回からはもっと入念にコースの把握をしようと思いました。
北マークを回った後はダウンウインドでした。16〜22ノットの風の中ダウンウインドを24時間以上走りました。この間に故障したジブのツィーカーを直そうとしました。その時にできる最大限の処置をしましたが、ダウンウインドを走っている時にまた壊れてしまい、このレースでは修理を諦めました。
◎竜巻が見えたので近づかないようにする。アレクソンはセールを全て下ろしてキャビンに避難する
レ島に近づくと天気の変化が激しくなりました。近くにスコールが見えて晴れたり大雨が降ったりの繰り返しでした。陸の方を見たら雲から白い糸みたいなものが垂れているのに気がつきました。すぐに竜巻だと気がつきなるべく近くにいかないことと、今後自分の近くに発生しないか雲とまわりをよく見ながらレースに集中しました。
レース後、チームメイトのアレクソン(アレクサンドル・デゥマンジュ)に竜巻を見た話をしたら本人は実はその近くにいたと言っていました。彼は竜巻が近くにあるとわかった瞬間、全てのセールをダウンして船に固定して本人は船内に避難してハッチを閉めて通過するのを待ったと言っていました。風は45ノットまで急速に上がり正直怖かったと語っていました。僕も今後同じようなシチュエーションになるかもしれないのでこの体験談と対処法はとても勉強になります。
レ島の回航は橋の下を通りました。アレクソンは島を回航した時に、フィガロ3で別のレースをしていたDMG MORI セーリングアカデミー一期生のロール・ギャレーとすれ違ったと言っていました。こんな広い海で出会うのも不思議だなとレース後に話し合いました。
島をまわった後はゴールまで100マイル以上のアップウインドです。風も10〜16ノットほどでたまにスコールの突風で20ノット入りました。
◎序盤に壊れたツィーカーで10度以上角度が取れなくなり沖出しの策に出る
ここにきて最初に壊れたツィーカーに苦しめられました。ポートロングでしたが、トリムができなかったから他の船よりも10度以上高さが足りず、スピードもなくてヘルムにもパワーを感じませんでした。試行錯誤した結果、3日前は風が左に振れる予想だったのでそれを信じてスターボードで沖に出てラッキーだったらジェネカーで走れるかもしれない、というギャンブルにでました。ギャンブルだけどこれが最良の選択だと思いました。タックを減らして長い一直線でシフトを待つ。
上手く風が振れてくれて、タイトリーチングを走ることができました。最後の大きな選択肢は島のどこを通ってゴールをするかでした。内側を通るにはベアしすぎる、今の角度が最速で真っ直ぐ行こうと決めましたが岩が多いところを通過しないといけませんでした。
いくら他の船が通っているからといっても自分も同じように通れる自信がなかったので、オーバーセールでしたがスタートしたときと同じ入り口から入ってゴールしました。
PROTO:11位/25艇
総合:18位/87艇
時間:3日6時間30分9秒
1位選手の時間:2日22時間22分12秒
今回のレースはとても長く、コースミスや海域の情報不足で順位を落とすことが多いレースでした。次のレースは早くも5月30日いにスタートです。今回の反省を活かして実戦で経験を積んで、小さくても一歩ずつ前進していけるようにしたいです。
- 大西洋横断を目指す國米 創、シングルハンド・オフショアレースに初参戦https://bulkhead.jp/2024/05/104133/
- 若手育成プログラム「DMG MORI セーリングアカデミー」のあらたな挑戦(1)https://bulkhead.jp/2024/03/103218/