フランス〜アイルランド往復、國米 創が1000マイル予選に挑戦
フランス・ロリアンを拠点に大西洋横断ミニトランザットへ向けてトレーニングする國米 創選手(DMG MORI セーリングアカデミー)から1000マイル予選のレポートが届きました。1000マイルを走る、と言ってもなかなか想像できないと思いますが、距離にすると東京湾を出発して沖縄本島をさらに越えるぐらいです。この距離を6.5メートルの小さなヨットで走ります。國米選手は無事に1000マイルを走り切れたでしょうか?(BHM編集部)
◎フランス・ロリアンをスタート。イギリスを越えてアイルランド沖を目指す
大西洋横断レース「ミニトランザット」に出場するために避けて通れないのが1000マイル予選です。これはクラスAレース(1000マイル以上レース)に出場するために必要なマイルで、予選と書いてありますが、これは他艇とレースする予選ではなく、1人で行かなければいけません。(レポート/國米 創)
この1000マイル予選はコースが決められていて、先に北に行くか南に行くかは各自の判断で決められます。ぼくの場合、風がいい時に北コースをクリアしたかったので先に北上することに決めました。目標は安全に確実にクリアすることです。
◎ラダーにクラックが入っているのを見つけて落ち込むが、空に向かって大声で叫び不安解消する
最初の2日間は予報よりも風が強く、25〜28ノットのアップウインドとリーチングでした。ジブとメインだけのリーチングで100マイルの距離を8時間半ほどで走り、気にしていたイギリス海峡では、コンテナ船をうまく交わして通過できました。
今まで順調でしたが、イギリスを越えた時にティラーに異常を感じました。チェックをしたらラダーにクラックが入っており、ラダーピンを指している穴が大きくなって、水流でラダーが左右に動いているのを目視しました。
それを見た時のメンタルはとてもマイナスになりました。前回のレースに引き続き船にダメージを負ってしてしまい、特に今回は1人でフランスからも遠く、ラダーを1つ失ったらどうやって戻るかなどを考えました。
不安要素で頭がいっぱいで色々考えていましたが、一発空に向かって思いっきり叫び、その瞬間のストレスと不安を消し飛ばしました。
こういう時こそ、冷静にダメージを分析して船内にある物で補強可能か、このまま行っても大丈夫かのリスクマネジメントをしました。その晩は多めに寝て、たくさん考えた結果、このまま続行しても大丈夫、続行するしかないと決めました。それ以降はラダーをこまめにチェックしながら走りました。
◎風が弱く潮がきついのでアンカリング。鼻歌混じりで風が入ってくるのを待つ
スタートから2日で無事アイルランドのマークをまわり、4日目にはフランスに戻ることができました。
ここからは微風セーリング予定でした。このタイミングで着替えたり、カッパやブーツを乾かして身体をキレイに拭き、気持ちと身体を後半戦のためにリセットしました。
フランス・ビスケー湾南側のブイとレ島をまわった後も微風が続き、ついには潮の流れに負けるくらい風が落ちたのでアンカリングすることにして風が入るまで待つことにしました。
この時セールを全て降ろしており、何も外部の音がなくてとても不思議な感覚でした。月明かりの下で自分の鼻息しか聞こえず、自分の息すらこの静粛の邪魔になっている気がして思わず静かに呼吸をしていました。3時間ほどアンカリングしたら7ノットの風が入ってきたので出発することにしました。
風向がよければ12時間で帰れるので昨晩を最後の夜だと信じて張り切って最後しっかりセーリングしようと心のなかで決めていました。
次第に風が上がり、朝の風が嘘だったかのように一気に28ノットまで風が上がりました。アップウィンドで波が3〜4mあり、ダメージのあるラダーを使うポートタックでのセーリングだったため、ジブとメインをすぐにリーフしました。
心のなかでは早く帰るぞと決めていましたが、この予選の目標を再確認してメインをより小さい2ポイントリーフにしました。さらにオートパイロットだとラダーにダメージを与えやすいと思い、風が落ち着くまで自分でヘルムを握ってサバイバルモードに切り替えました。普段より3ノットほど遅いけれど、船への負担を減らすことを最優先しました。
◎1000マイルを7日間で達成。母港に戻るとチームメイトが迎えにきてくれました
15時間の強風を耐え抜き、風が落ち着き、次の日の21日午後16時に無事ロリアンに戻ることができました。ハーバーに到着するとチームメイトが迎えに来ていただき、達成感と幸福感でいっぱいでした。
1000マイルから帰ってきてから予定していた帰国まで1週間しかなく、片付けとクラス協会に提出するレポートで日々追われていました。
海から帰ってきたとき、もうアイルランドまで行くのは勘弁してほしいなと思っていましたが、不思議とすぐにまた海に戻りたい気持ちが湧きました。
あんなに大変な思いをしても、それ以上の大変な思いをするかもしれなくてもまた外洋に出たいこの気持ちは正直自分のなかにあるとは思いませんでした。ぼくの今年のシーズンは終わりましたが来年大西洋を渡るのがとても楽しみになってきました。
今年の残りはIMOCAに戻り、白石さんのヴァンデグローブのサポートに戻ります。その前に、日本で夏休みを楽しんできます。ひとまず、〈DMG MORI GLOBAL ONE 1046〉お疲れさまでした!
- 外洋レースにはドラマがある。國米 創、2度目の1人乗りレースに出場https://bulkhead.jp/2024/05/104378/
- 大西洋横断を目指す國米 創、シングルハンド・オフショアレースに初参戦https://bulkhead.jp/2024/05/104133/
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