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3度目のヴァンデ・グローブに挑戦、白石康次郎インタビュー

 世界に数あるヨットレースのなかで最も過酷とされるのが、単独無寄港世界一周「ヴァンデ・グローブ」であることに異論はないでしょう。その地球を一周するスケールの大きさ、危険と隣り合わせの異常さについては、1月のバルクヘッド記事でも紹介しました。そんなクレイジーなヨットレースがヴァンデ・グローブなのです。2024年11月10日にスタートする白石康次郎選手に話を聞きました。(BHM編集部)

2024年11月、ついに世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」がスタートします。現在、白石選手は日本国内でトレーニング、3月終わりに渡仏して4月末にスタートする大西洋横断トランザットCICの準備に入ります

BHM編集長:今年11月、ついにヴァンデ・グローブがスタートします。白石さんは、今年のヴァンデ・グローブをどのように予想していますか?

白石康次郎:今回は14艇の新艇が登場します。これは過去最高の数で、もちろん新艇組が優勝候補になるんだろうけれど、船のトラブルが多くなっているのも事実です。オーシャンレース(フルクルー世界一周レース。DMG MORI セーリングチームも次回2027年大会に出場予定)でもヴァンデで使われてきたIMOCA60が採用されるようになったでしょう。ほかにもIMOCAのレースが増えていて、いまオフショアレースはIMOCAバブルになっています。とにかく忙しくレースしています。

編集長:昨年のオフショアレースでは、出場艇のディスマストをはじめトラブルが多かったですね。その辺はどのように考えていますか?

白石:これは大きな問題なんです。昨年はオーシャンレースで2チームがマストを折ってしまった。昨年12月のジャックヴァーブル復路「リターン・トゥ・ラバース」でも〈コルム〉がマストを折った。われわれは予備マストを持っているけれど、ほとんどのチームが予備を持っていない。作っているけれど生産が追いついていない。マストはワンメイクだから借りることもできるけれど、そもそも物がないというのが現状です。

編集長:昨年の〈DMG MORI Global One〉はバウ形状を変える大改造がおこなわれ、新設計の大型フォイルで船のパフォーマンスが向上しました。いまはどんな改造をしているんですか?

白石:建造から5年が経って、いろいろな部分にダメージがでてきていて、それを補強しています。大きな補強はスターン部分で、ハニカム構造の強度が弱いという例があり、ハニカムを剥がして、コア材をカーボンを貼る。それとリターン・トゥ・ラバースで、ウォーターバラストが壊れてコクピットが水浸しになってしまった。バッテリーの位置だとかそういう部分を考え直しました。それに、マストや電気系統など強化しています。

編集長:昨年末には約1カ月で大西洋を往復(約8000マイル)するハードなレースに出場しました(ジャックヴァーブルとリターン・トゥ・ラバース)。白石さんの身体は大丈夫ですか?

白石:身体も壊れてるよ(笑)。リターン・トゥ・ラバースは具合が悪くて、帰ってきたら体脂肪が8パーセント落ちて、体重は10キロも減っていた。実はデング熱にかかっていました。レース中、熱はないって報告していたんだけど、チームメイトは「どうせ測っていないんだろう?」って。そう。本当に測ってなかったからね(笑)。でも、熱が出ていたとしても戻ってこなければならなかったし、完走するしかなかったんでそのまま走りました。

編集長:レースのサイクルも短くなってきていますね。それによる負担も大きいのではないでしょうか?

白石:そう。4年に一度のヴァンデ・グローブとルートデュラム、2年に一度のトランザット・ジャックヴァーブル、リターン・トゥ・ラバース、ファストネット。毎年開催されるデフィアズミット、コロナ禍に作られたヴァンデ・アークティックやバミューダ1000も定着しているし、さらにオーシャンレース(4年に一度)が入るようになった。もうスケジュールはパンパンです。4年前から計画を始めないととてもじゃないけれど間に合わない。早いチームは2028年用の船を作り始めています。

編集長:IMOCA(船)、選手、チームは限界に挑戦しているということなんですね。

白石:船が進化してよりパワフルになっている。だから、船は走らせるたびにドッカン、ドッカン、壊れていく。壊れたら修理して、の繰り返しです。いまだに船は完成していません。レーススケジュールもタフになってきています。

編集長:2月パリでヴァンデ・グローブの発表会があり出席されていましたね。ここではどんなことが発表されたんですか?

白石:パリのユネスコ本部でヴァンデに出場するスキッパーとして出席しました。いや、まだ正式決定していないから、現時点で挑戦しているスキッパーが全員集まった。発表の内容は、これから環境問題についてがほとんどでしたね。よりエコな大会になっていくという話です。

編集長:次のレースは4、5月に連続しますね。4月28日にスタートする大西洋横断「トランザットCIC」(3500マイル)と5月29日の「ニューヨーク〜ヴァンデ」(3600マイル)の2つの大会です。

白石:ヴァンデ・グローブの最終クオリファイレースになっているので、もちろん出場します。ただ、すでに出場資格を確定しているチームは、スタートだけで出てレースは止めてしまうかもしれない。マストが折れたらヴァンデ出場が絶望的になるから。われわれは、出場資格を得る目標があるし、レースを完走して船の最終調整に入ります。

編集長:IMOCの進化、船と人間の限界への挑戦が、今年のヴァンデ・グローブなんですね。4月にスタートするトランザットCICとニューヨーク〜ヴァンデの活躍を楽しみにしています。

【こぼれ話】白石康次郎が見るレース中の外部援助問題
「いま、前回のヴァンデ・グローブで完走したクラリス・クレマーが、コースや気象についてサポートチーム(夫)からアドバイスをもらっていたのでは? という匿名による内部告発が問題になってるけど、それを証明するのは難しいんじゃないかな。レース中は陸にいるサポートと連絡を取り合うけれど、コースはスキッパーが決定しなければいけなくて、陸から情報をもらってはいけないことになっている。でも、いまは衛星通信で普通に陸上と連絡が取れてしまう時代です。今回どういう結末になるのかわからないけれど、こうしたレースに関係する具体的なニュースが話題になるのは、外洋ヨットレースが人気のフランスならでは、と感じますね」

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