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地球一周のビッグスケール!数字で見るヴァンデ・グローブ

 今年11月10日、世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」がスタートします。このヨットレースの「異常さ」をご存知の方は多いことでしょう。世界で最も過酷な条件でおこなわれる超人ヨットレースです。今回は、世界で類を見ないスケールでおこなわれるヴァンデ・グローブを数字の側面から紹介します。(BHM編集部)

11月10日、単独無寄港無補給世界一周「ヴァンデ・グローブ」がスタートします。テクノロジーが進歩して、船が速くなっても地球一周の過酷さは変わりありません。海の上では昔から変わらず自然と人間の戦いになります

◎これまで完走できたのは、わずか「114人」
 1989年フィリップ・ジャントー(仏)の提案で始まったヴァンデ・グローブは、4年ごとに開催される単独無寄港無補給世界一周ヨットレースです。これまで9大会実施され、2020-21年の第9回大会までに200人が出場しました。しかし、フィニッシュできたのは35年の歴史の中でわずか114人です(宇宙に行った人の数よりも少ない数字です)。完走率57パーセントは、このヨットレースの過酷さを物語っています。優勝選手だけでなく完走した選手すべてが賞賛されるのもよく分かります。

◎過去に「3人」が命を落としている
 これまでヴァンデ・グローブでは3人が命を落としています。第3回大会のゲリー・ロウフス(カナダ)は、南氷洋を走行中に嵐に遭遇しました。無線での交信「波はもはや波ではない。まるでアルプス山脈のようだ!」というメッセージを最後に消息不明。遭難したヨットは半年後にチリ沖で発見されました。同じ海域を走っていた後続艇の証言では80ノットの嵐だったことがわかりました。この大会以降、転覆テストなどのルールが作られ、死者は出ていません。

ヴァンデ・グローブでは事故やトラブル、遭難を避けて通れません。2009年に転覆して救助されたジャン・ル・カム(上写真)が2020年では遭難したケビン・エスコフィエを救助した、という助け合いはヴァンデ・グローブならではのエピソードです

◎地球一周「2万4300マイル」を競う
 ヴァンデ・グローブのコースはレ・サーブル・ドロンヌ(フランス)がスタートし、大西洋を南下して南氷洋へ。希望峰(アフリカ大陸南)、ルーイン岬(オーストラリア大陸南西)、ホーン岬(アメリカ大陸南)を超えて、再びレ・サーブル・ドロンヌへ。総距離は2万4300マイル/4万5000キロに及びます。南氷洋では氷山との衝突を避けるための走行禁止区域・アイスゾーンとチェックポイントが設けられます。

世界一周のコース図。起点はフランスのレ・サーブル・ドロンヌです。いまはルーティングアプリが高性能になっているため、ほぼ全艇が同じようなコースを走ることになります

◎出場できるのは「40人」のみ
 ヴァンデ・グローブに出場するには出場資格を得なければなりません。通常は指定大会を完走して規定のマイル(走った距離)を稼ぎます。航空会社のマイレージのようなものです。次回大会で出場できる上限は、泊地のスペースやレースの安全を考慮して40艇と発表されていて、マイルを取った「早い者勝ち」で出場が決まります。日本からは白石康次郎選手が3度目の出場を目指しています。

※例外として本大会のために作られた新艇(現在14艇が新艇)、大会組織委員会が持つワイルドカードを得た選手は出場権利を得られます。

ヴァンデ・グローブで採用されているIMOCA(インターナショナル・モノハル・オープンクラス・アソシエーションの略)。元々はオープン60と呼ばれていたクラスです。前大会のオーシャンレース(旧ボルボオーシャンレース。上写真)でも採用され世界展開する勢いあるクラスです

◎過去最高記録は「74日3時間35分46秒」
 ヴァンデ・グローブの大会記録は、第8回大会でアルメル・レ・クリーチ〈Banque Populaire VIII〉が達成した74日3時間35分46秒です。実際に走った距離は距離2万7455マイル、平均速度15.43ノットで世界一周を達成しました。白石選手は第8回大会でディスマストによりリタイア。前回大会では94日21時間32分56秒(33艇中16位)でフィニッシュしました。ちなみにフルクルーによる世界記録は2017年〈IDEC Sport〉による40日23時間30分30秒です。

ヴァンデ・グローブ優勝記録
74日3時間35分46秒の大会記録を持つアルメル・レ・クリーチ。過去3回ヴァンデ・グローブに出場して2位、2位、優勝というスーパースターです。現在はウルティムクラスで活動しています

◎ヨットレースを見に訪れる観客「225万人」
 大会期間中、レ・サーブル・ドロンヌの港町はヴァンデ・グローブ一色となります。第8回大会は、スタートやフィニッシュを見るために225万人が見学に訪れ、スポーツイベントとしても成功を納めました(第9回大会はコロナにより規制)。また、レースの様子は世界190カ国でテレビ放送され、フランスでは13のチャンネルで放送されるほどの人気ぶりです。編集長は「フランス人は外洋ヨットレースを国技のようなものと考えている」と現地の人に聞いたことがあります。

大会期間中、レ・サーブル・ドロンヌのさん橋は見学者で大混雑します(さん橋が沈まないか心配です)。船と選手の間に仕切りはあるものの、目の前にスター選手がいて気軽に声を掛けることができます。この感覚は世界でも特別でフランスらしい一面といえます

◎ヴァンデ・グローブの優勝賞金は「約2500万円」
 ヴァンデ・グローブで優勝者には賞金160000ユーロ(約2500万円)、準優勝には140000 ユーロ(約2000万円)、3位には100000ユーロ(約1500万円)など完走者全員に賞金が授与されます。とても大きな金額ですが、60フィートIMOCAの規模を考えると優勝してもセール代ぐらいでしょうか。ちなみにヴァンデ・グローブのエントリー費は20000ユーロ(約300万円)、デポジット(保証金)も20000ユーロです。デポジットは赤道を超えたらチームに返金されます。

第10回 ヴァンデ・グローブ 基本データ
日時:2024年11月10日スタート
開催地:レ・サーブル・ドロンヌ(フランス)
総距離:2万4300マイル(4万5000キロ)
出場:40選手(うち女性6名)
国:11カ国。フランス、イギリス、スイス、ドイツ、イタリア、ベルギー、ハンガリー、日本、中国、米国、ニュージーランド
初出場:18選手(最年少は22歳女性)
新艇:14艇
※2023年12月現在44選手が参加を表明しているため、上記は候補者のデータになります。正式なエントリーは5月スタートする予選最終レース「ニューヨーク〜ヴァンデ」後に発表されます。

ヴァンデ・グローブ出場を表明している44選手。この数は過去最高の数です。しかし、出場枠は40なので出場できない選手がでてくることになります。そのため選手たちは予選レースでマイルを急いで稼ぐ必要があるのです
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