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フランスで外洋ヨットレースを学ぶ國米 創インタビュー・後編

 先日、公開した國米 創選手のインタビュー後編です。國米選手はDMG MORI セーリングアカデミー(DMG MORI セーリングチーム)に所属して、フランス・ロリアンを拠点に大西洋横断、世界一周を目標とする外洋ヨットレースを学んでいます。(BHM編集部)

國米 創(こくまい はじめ)。1994年7月21日ハワイ生まれ岡山育ち。岡山県邑久高から福岡第一高ヨット部でインターハイ、法政大ヨット部でインカレを経験し、その後マッチレースやキールボートで活躍。2017年ユース・アメリカズカップ挑戦。2021年東京五輪フィン級代表選考で敗れる。現在DMG MORI セーリングチーム所属

編集長:國米選手はDMG MORI セーリングチームで、どのような作業を担当しているんですか?

國米:ぼくはデッキ・ハードウエアと白石康次郎さんのセーリングパートナーを担当しています。最初の頃は本当に大変でした。デッキの艤装なんて、日本では見たことも触ったこともないものです。でも、ここはプロチームなので「わかりません、知りません」は通用しません。

編集長:IMOCAの艤装品はすべてが大きいし、ウインチひとつ見ても日本のそれとは規模が違いますね。そういう時はどうやって仕事を学んでいくんですか?

國米:もちろん人に聞くし、自分でも勉強します。デッキ・ハードウエアというのは、ロック、ジャマー、ウインチ、ペデスタルの整備、それにコンストリクターを作ったりします。コンストリクターはスプライスと同じ原理で外皮のなかにロープを入れて、ジャマーの代わりにロープを止めるものです。

編集長:DMG MORI セーリングチームには日本、フランス、イタリア、アルゼンチン、スペイン国籍のメンバーがいて、英語とフランス語でやり取りしています。そういう場でコミュニケーションを取って学んでいくというのは大変でしょうね。

國米:チームに入っていちばんの大きな変化は自分が選手ではないということ。白石さんが最高のパフォーマンスを出せるように準備するのが仕事です。いままでぼく自身が選手だったので、自分が勝つために船を整備していました。失敗しても自分にかえってきます。でも、いまはぼくのミスは全部白石さんに降りかかる。さらに命に関わるかもしれません。だから作業のひとつひとつが慎重になります。

DMG MORI セーリングチームでデッキ・ハードウエアを担当する國米選手。白石康次郎さんと衣食住をともにして、外洋ヨットのイロハを学んでいます

編集長:國米選手は、三瓶選手の挑戦の後、2025年大西洋横断ミニトランザットで本スキッパーとして活動することが決定しています。ミニトランザットの魅力はどんなところでしょうか?

國米:ミニトランザットはヨットに乗ったことのない人でも挑戦できる外洋ヨットレースの登竜門です。船は全長6.50mというキールボートとしては小さいタイプ。その船で4,050マイルを走るという日本には例のない1人乗り外洋ヨットレースです。

編集長:ミニトランザットには船外機を積んではいけない、GPSの地図が表示されてはいけない、衛星通信を積んではいけないなど、原始的ともいえる装備で走る特別なルールもありますね。

國米:そうしたことはIMOCAとは正反対だし、MINI6.50だからできる特別なジャンルです。ミニトランザットの挑戦は本当に楽しみにしています。

編集長:國米選手は、インターハイ、学連、キールボートレース、ユース・アメリカズカップ、オリンピック活動を経験して、いまフランスで外洋ヨットレースを学んでいます。いろんな経験を通じて感じることはありますか?

國米:フランスでIMOCAの世界に足を踏み入れていちばん驚いたのは、いろんな職種の人たちがこの世界に挑戦しているということです。日本でぼくが持っていたイメージは、子供の頃からヨットで成績を上げて、その先の世界がオリンピックやアメリカズカップのようなプロの世界があるということ。でも、IMOCAではこれまで家の排水管の工事をしていたとか、別のジャンルでマーケティングしていたとか、まったくヨットをやったことのない人が集まってくる。

編集長:それは、それぞれの専門知識を生かした仕事が外洋ヨットレースにはある、ということ?

國米:それもありますし、そうじゃなくてもチャンスがあります。知らないならそこから勉強すれば良いことですし。ぼくが感じているのは、フランスの外洋ヨットの世界はヨットがうまいからといって活躍できるわけではないし、ヨットを知らなくても「電気に詳しい」「天気に詳しい」とか専門知識を持っている人の方が強い。

編集長:國米選手や三瓶選手のような活動に興味を持っている日本の若者もいると思います。もし、そういう道に進みたいとしたら、どんなことが大切になるんでしょうか?

國米:そうですね。「学連ですげーヨットやってました」というよりも、大学で勉強もがんばっていました、という方がチャンスがあるように思います。それぞれ勉強してきた自分の専門を持っていることが大切かもしれません。

編集長:若い日本のセーラーは具体的にどうしたらいいんでしょうか?

國米:ぼくみたいに「人を見つけたらすぐに声をかける」がいいです(笑)。ぼくたち(DMG MORI セーリングチーム)は若い人たちと関わりたいんですが、ぼくたちから見つけることはできません。でも、みなさんはぼくたちを見つけることができます。そして声をかければ良いんです。そして、ヨットだけでなく、もうひとつの得意を持つこと。それが武器になります。

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