ヨットレース繁盛記。パールレース後編
さてさて、連載ヨットレース繁盛記・パールレースレポートの後編です。スミコ姉さんが乗る〈ガイア〉は、三重県五ヶ所湾をスタートし、遠州灘を越えて駿河湾沖へ。目的地の利島へ向かってがむしゃらに走っているところです。さあ、パールレース後編はどんな展開が待っているのでしょうか?(BHM編集部)
第54回 パールレース・後編
幾度となくジブ、コード0、ジェネカーのチェンジを繰り返し、もうセールチェンジ何回やったか数えきれなくなった頃、低くて平らな新島が見えてきました。そこから左に目を移すと、小さな三角の鵜度根(うとね)、その隣に大きな三角、利島を発見!(文・写真/石丸寿美子)
少しセールを出せる角度になったけれど、コンスタントに22〜25ノット、AWA70度では、ジェネカーだと吹き倒されそうです。ジェネカーで上りきれなくなると嫌なので、コード0で寄せておきます。スピードもいい感じ。その後、ジェネカーで利島アプローチへ。
鵜度根と利島の間は、潮が川のように流れていて、海面が沸き立っています。いつ来てもすごい所です。そして運悪く、まさに利島にとっついたところで、急激に風があやしくなりました。
ぐるぐる振れて結局上りきれなくなり、あわててセールチェンジとなったところで不運なハリヤードトラブルが起こり、ジェネカーが途中までしか下ろせなくなってしまいましたー。ピンチです! すったもんだの末、なんとか収束。毎年この辺りでチキンジャイブをしたり吹き倒されたりと、タダではまわれない利島なのです。
利島が見えてきました。ガイアでは「おむすび山」って呼んでます
秘技?のたうちまわり!
利島をまわっていよいよ最終レグ。ヘディングを大島の西へ向けて落とします。ここからが本当の勝負どころ。大島・風早崎の吹きおろしをガッツリもらい、相模湾に入ったら、安定したシーブリーズで三浦エクスプレス航路を一気に北上…と行きたいところだけど、なかなかそう都合よくいくはずもなく、大島・千波崎の手前で風がヒョロヒョロになってしまいました。
まさかのピットストップです。そして、さっきまで晴れていたのに急に雲行きがあやしくなり、朝10時だっていうのに、夕立みたいにまた雷がゴロゴロなり始めました。
スタートしてから今まで、ずーっと潮は味方してくれましたが、ここへ来て向かい潮です。千波をかわすためにジャイブを繰り返しながら岸ベタを行きますが、極端に不安定な風の中、めちゃくやな角度で、のたうちまわります。
少し離れたところでは、まったくの無風で漂っているフネもいます。雲の下はまだ風があるので、しばらくは雨雲大作戦です。でも…。雨雲がいなくなったら、風もいなくなりました。
結果的に大島に寄りすぎたのがダメだったようです。何事もなく安定して北上できるレーンもあったようで、むむむ、少し、いやかなりやられてしまいました。
千波の浅瀬をギリギリで通過。黒潮の反流はこれでおしまい(のはず)。
わおっ、神のお導き。風がないのに5ノット出てる!
目の前に、なんだろう? 津波みたいな潮目が現れました。海面が盛り上がって小さなチューブを巻いているすごい潮目です。風が全くなくなり、ジャンボメーター(編注:マストに付いている航海計器)は風速0、スピード0を表示していますが、なんと、SOGは5.5ノット、COGは10度を表示。ビックリ! 江の島へ向いています。
対水スピード0だから、当然舵は全く効かず、ヘディングはぐるぐる、セールもバサバサさせながら、全くなす術ないけれどフィニッシュへ向かって5ノットで流さていくという、なんとも不思議な体験。潮の神様のお導きによって、このドリフト走行はしばらく(5分くらい?)続きました。
12:00のロールコールを終え、なんとかセールを張ろうとわずかな風でがんばっていると、南東の風がようやく入り始め、やっとフィニッシュへ向けて走れるようになりました。その後、徐々に南へ振れて行き、やがて22〜24ノットのしっかりしたシーブリーズが入ります。やっぱり最後はこうなりました!
もう、気力体力、全部使い切るぞーとばかりに、パンピングブラザーズとパワークランカーが交代で猛烈プッシュをしながら、執念の三浦エクスプレス航路を爆走です!
相模湾に入ってシーブリーズがズバッと入りました。フィニッシュまでもう少し!photo by 第54回パールレース実行委員会
フィニッシュの「プー」が鳴りました
見慣れた江の島の風景が近づいてきました。そして、フィニッシュの海上自衛隊・艦艇「はしだて」も見えてきました。少し前に居るのが同クラスのライバル艇と判明したけれど、悔しいけど届かず。16:01、フィニッシュのプーが鳴りました。29時間と1分のレースでした。
結果は、惜しくもIRC-Bクラス2位(11艇中)、IRC総合では9位(49艇中)でした。
うーん、やっぱり急展開の利島〜大島のレグがターニングポイントだったようです。なかなか難しいレースでした。悔しいけれど、毎回そう思惑通りにいかないのがロングレース。
色んな「タラレバ」が頭をよぎりますが、それも全部含めて勝負です。でも、今回もまたすばらしい経験となり、サイコーのレースでした。〈ガイア〉のみなさん、ありがとうございました!
日本は海に囲まれた素晴らしい国。黒潮の豊かな海、緑濃い島々。やっぱり外洋レースは、なんというか、心沸き立つのです。そんな事に思いを馳せながら、今は、アスファルトにゆらめく新宿の熱風をビロビロ浴びて、しかめっ面になっています〜。
◎ヨットレース繁盛記
(17)パールレース・前編
(16)ティンバーランドレガッタ・熱海レース
(15)初島ダブルハンドヨットレース・後編
(14)初島ダブルハンドヨットレース・前編
(13)「小田切杯」ガテン系セーリング?
(12)「SHUGYOKU CUP」毛根から脂汗が噴出
(11)大島レース・後編
(10)大島レース・前編
(9)「京急カップ」春の珍事なのです
(8)「テーザースプリングレガッタ」春テーザーに久々参戦
(7)「SportsCode CUP」ブローチング祭りだ!
(6)「MUSTO CUP」春っていいよね!
(5)「HMYC会長杯」春の嵐で退散です
(4)「SAILRACING CUP」クラブレースで悲鳴
(3)「Sailors for the Sea Cup Clean Regatta」心臓が剛毛で覆われる
(2)「新春烏帽子岩レガッタ」烏帽子岩へゆく!
(1)新連載「ヨットレース繁盛記」スタート!
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