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世界の最新OPシーンを経験!後藤親子のマルタ島遠征記

 2月3日から12日まで、オプティミスト級に乗る小学6年生の次男と2人でマルタ共和国へ遠征しました。期待以上の貴重な経験を得られたので、多くの方々に共有したくレポートを記します。(レポート・写真提供/後藤浩紀 SAILFAST)

後藤親子がマルタ島で開催されたセーリングクリニックに参加しました。写真は五輪で5個のメダルを持つロバート・シェイド(BRA)と後藤晴人選手のツーショットです

 マルタはイタリア半島のつま先、シシリア島から南50マイルに浮かぶ小さな島国です。地理的にはイタリアの属国かのように見えますが、実はイギリス連邦の加盟国。したがって公用語は英語で自動車も右ハンドルの左側通行です。

 近年マルタはOP界で名うての猛者が腕を磨く虎の穴として知られ、3連覇の神童マルコ・グラドーニや昨年のチャンピオン、ウェカ・バーンブットが冬場のトレーニングを積んでいました。昨年の遠征で何度も顔を合わせて仲よくなったマルタのコーチ、イヴァン・ヴァシレフにこの「BSCインターナショナルレガッタ」に誘われ、思い切って参加してみることにしたのです。

 日本からの移動は思うほど困難ではありません。羽田からイスタンブールまで10時間。そこからマルタまで2時間なので、昨今の航空事情を勘案すれば日本から最も近いヨーロッパとも言えます。空港からヨットクラブまでは車で10分。イヴァンの迎えであっという間に目的地ビルゼブジャに到着しました。

イタリア・シチリア島の南方。地中海に浮かぶ小さな島国のマルタ島(マルタ共和国)。公用語はマルタ語と英語。通貨はユーロです
OP級のセーリングクリニックとBSCインターナショナルレガッタはマルタ島のビルゼブジャで開催さました

◎ロバート・シェイド親子も参加。新しいハンドリング技術やセッティングなど目から鱗が落ちたクリニック

 翌日から4日間、大会に先立つクリニックに参加しました。今回の遠征の目的の大半はレースではなく、このクリニックです。マルコ・グラドーニを育てたコーチ、シモネ・リッチの指導を受けられるとあって、地元マルタはもちろん、多くの国から熱心な選手が35名ほど参加していました。中には昨年のワールドトップ10も2名含まれます。

 このような機会は子供たちを飛躍的に成長させます。昨年もイタリアのモンファルコーネで開催されたクリニックにコーチとして参加したのですが、参加選手たちに効果的なアドバイスをし、競い合わせることで、みるみるレベルが上がって行くのを目の当たりにしました。レースに参加するだけでは決して得られない収穫があると期待してマルタまで来ました。

 成果は予想以上でした。毎朝9時のブリーフィングから、海上練習を終えてのブリーフィングが終わる18時まで、まったく休みなしの超過密スケジュール。微風から強風まで、江の島の南西風を越えるようなビッグウェーブも体験しました。

 セールやリグのセッティングについて、シートトリムやハンドリングについて、上半身の使い方やダウンウインドのバランスなど、講習内容は多岐に渡ります。日本では聞いたことのないテクニックやセッティングに驚くばかり。いかにわたしたちが世界のトレンドから遅れているか。目から鱗が何枚も剥がれ落ちた4日間でした。

 また今回ラッキーだったのが、受講生の父としてロバート・シェイドが参加していたことです。オリンピック7大会連続出場、5個のメダルを持つブラジルの英雄については、これ以上の説明は不要でしょう。

 息子のエリックにもその遺伝子は色濃く受け継がれ、昨年のワールドで堂々の7位。すでにボートスピードは世界最速と噂されています。わが家では昨年来エリックの動画を息子と一緒に研究して真似をしていました。まさかその本人と直接対決できるなんて夢のようです。

 クリニックとレースの間に挟まれた8日は、荒天予報だったこともありオフにするつもりでした。ところがシェイド父子から一緒に練習しないかと誘ってくるじゃないですか! こんなチャンス人生でそうありません。30ノットオーバーの強風で、海に出たのはわずか1時間だけでしたが、多くの学びを得ることができました。なにより荒天を彼らと一緒に乗りきった経験は、息子にとって大きな自信になるでしょう。

9日間のマルタ島遠征はセーリング漬けの毎日。微風から強風まで、江の島のような大波も体験しました
セーリングクリニックの講習風景。日本では知られていない技術もあり知識としても大きな収穫がありました

◎毎週のように欧州大会を転戦するヨーロッパ勢。日本の練習だけでは彼らを追い越せない高い壁がある

 9日から開幕したレガッタは、参加者が65名とクリニックから倍増し、ILCAと合わせると小さなクラブのキャパシティーを完全に越えるほどの盛況ぶり。ただ大荒れの天気がどうにも収まらず、2日間ノーレースが続きました。

 なんとか後半2日で5レースを消化してレガッタは成立。最終レースのフィニッシュライン手前でエリックがミスを犯し、ウクライナ出身で昨年のワールド4位のダニエル・ミハリチェンコが逆転優勝を果たしました。次男晴人は総合12位と大健闘。ロバート・シェイドも成長を認めてくれ、今後のためのアドバイスももらい、大満足で帰国したのでした。

 昨年は世界選手権、ヨーロッパ選手権、Regatta of Championsと多くの国際大会にコーチとして参加しました。しかし日本では文句なしの精鋭たちを連れて乗り込んでも、世界の高い壁に跳ね返されてばかりでした。何かが決定的に違うはず。その何かを掴まなければ、日本で練習を積んで世界のレースに参戦するだけでは通用しないのでは? その仮説はどうやら正しかったようです。

 たった1回のクリニックに参加しただけでこれだけ収穫があるのだから、毎週のようにヨーロッパ内を転戦してレースやクリニックをハシゴする選手たちが強くなるのは当たり前です。今後もこうした機会に日本から積極的に参加して行くべきだと痛感しました。参考までに飛行機は往復で 1人当たり17万円ほど。クリニックの参加費が250ユーロで、レースのエントリーフィーは95ユーロです。得られる収穫を考えれば高くないのではないでしょうか。

 もちろんかかる経費はこれだけではないし、最低限の英語力は必須だし、学校や仕事も休まないと行けないので誰にでも可能な遠征ではありません。それでも今回、アジアの強国タイからは3名が参加しており、このあともイタリアやスペインを転戦するそうです。世界を目指すOPセーラーたちは、親や所属クラブの後押しを受けて、こんな風に強くなっているんだと実感しました。

 今シーズンは国内各地に息子と出向き、学んできたことを共有する活動をしようと考えています。また、海外のクリニックや大会に参加したいという選手がいれば、積極的にサポートしますのでぜひお声掛けください。たかがOP、されどOPです。セーリング人生のはじめの一歩が充実すれば、きっとそのあとにも繋がるはずですから。

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