全日本ミドルボート選手権を振り返る(2)
X35はIRC/ミドルボートクラスで有利なのか?
この大会では〈ワイレア〉が全日本ミドルボート二連覇を遂げました。X35は細かい規定のあるワンデザイン艇で、ISAFが認定する国際クラスです。イタリア、スペイン、ドイツや北欧で人気があり、毎年の世界選手権やドイツのキールウィーク、ちょうどいまスペイン・パルマで開催されているコパ・デル・レイでも単独クラスとして採用されています。(BHM編集部)
スピネーカーの〈ワイレア〉(X35。手前)に対してジェネカーの〈ミワ〉(SYDNEY36CR)。ダウンウインドでは走らせ方、ターゲットアングルが異なるため大きな差がでてきます。photo by Junichi Hirai
全日本ミドル参加艇のIRCレーティング(TCC)とクラス分け
全日本ミドルのレース展開を振り返ってみます。スタートは予想通りに大混戦。当然、技術のあるチームが好スタートを切りますが、2、3分も走ると〈センチュリーファーストGP〉をはじめとする高いTCCの艇が頭を出し、クリアエアをつかみます。この場面で一番うまく抜け出して、いい風をつかんでいたのが〈ワイレア〉です。スタート後のX35(同型艇の〈シュビシュバ〉も同様)のアップウインドは他艇と明らかに差があるように見えました。
「X35は、オールラウンドに走れるボートだと感じています。それとボートのセッティングが、世界選手権のような国際大会を繰り返してきているので、信頼の高いチューニングデータが揃っている。上りも下りもターゲットボートスピードがはっきりしているからモード(フッティング、ピンチング)も使い分けしやすい。そのモードの使い分けを濱口オーナーがうまくドライブしてくれたことが、勝利につながったと思います。ただ、相模湾のクラブレースでは、X35がメルジェス32に負けることもあり、IRCの全日本ミドルで戦った場合どうなんだろうか、という興味はあります」(ワイレア・本田敏郎トリマー)
レーティングの順番でいえば〈ワイレア〉は上から9番目。総合2位となった〈ミワ〉(SYDNEY36CR)と非常に近く、MUMM36やJ/V35CR、A35は先行しなければなりません。しかし、第1上マークをトップ3以内で回航する場面もあり、そうなると他チームが挽回するのは相当きびしい。X35のアップウインドの性能が、昨年と今年の全日本ミドルで有効に働いたといえます。
また、編集部が興味深かったのは大幅に改造した〈ジェスト8〉(FARR36)です。結果は総合8位ですが、軽風戦となった初日と最終日だけの成績を見ると【初日:2位、23位。最終日:1位、1位、4位】の結果。船齢17年にもかかわらず、軽風仕様のスペシャルボートに仕上がっています。船齢24年の〈ホライゾン〉(YOKOYAMA30R)が総合3位に入ったことに驚く方も多いでしょうが、古いボートでも戦えるのがIRCレーティングのポリシーであり、ボートの性能を引き出せば対等に戦えることが結果に反映されたと思います。
MUMM36が元になる〈ジャスト8〉の改造内容は、マストを約1.5メートルサイズアップ。リグを大幅に変え、メインセールのエリアは大きくした反面、ジェノアをオーバーラップ100パーセント以内のジブに変更。また、スピンポールをやめてバウポールを取り付け、スピネーカーからジェネカーへ。ジェネカーにすることでフォアデッキまわりの作業性が簡易になるメリットもあります。リグ変更により全体的にパワーアップしましたが、レーティングは以前のMUMM36(ワンデザイン艇)と同じ数値に抑えてあります。
軽風シリーズとなる場合が比較的に多い日本のクルーザーレースでは、ターゲット風域を絞ることは有効な考え方だと思います。〈ジャスト8〉の場合、オーバーパワーとなる中風以上のコンディションが課題。同チームは、8月中旬に開催されるジャパンカップに出場しますが、それまでに何かしらの対策を考えるとのことです。
ミドルボートクラスは、関東、関西を中心に盛りあがっています。今回、出場できなかったチームも、「もし、自分たちが出ていたら」と考えて、レースを分析するのもおもしろいでしょう。また、いまから来年の全日本ミドルに向けて、構想を練っているチームもいるはずです。その準備のためには、なるべく早い2013年全日本ミドルの開催地と開催時期の発表がのぞまれます。
リグ、セールプランを大幅に変更した〈ジャスト8〉(FARR36)。photo by Junichi Hirai
◎2012全日本ミドルボート選手権(成績、航跡が公開されています)
http://www.tosc.jp/mb/
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