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琵琶湖の風を制し、京都府立医科大が西医体総合連覇!

 8月9〜11日、滋賀県立柳が崎ヨットハーバーで「第77回西日本医科学生総合体育大会ヨット競技」(以下、西医体)が開催されました。(レポート/西医体ヨット競技実行委員会、写真提供/原田俊法)

滋賀県立柳が崎ヨットハーバーで開催された第77回西医体。西医体は西日本の医学部生によるヨットレースです。今年は13校が集まりました

 470級は14大学、スナイプ級は14大学が参加し、両クラス合わせて13校になり、今年は大阪医科薬科大と関西医科大が合同チームで参加するなどの変化が見られました。

 昨年度の広島西医体の「見せるヨット」が非常に好評であったことから、今年もOB、OG、選手の家族やサポートメンバーが楽しめるような大会にするために、多くの方々の協力を得て本大会ではトラッキングとメディアボートの導入、びわこ大津会館でのトラッキングの上映などの新しい試みが行われました。

 今年は風の振れはもちろん、微風、軽風、強風と強弱も激しく、時にはレース中に大雨が降るなど、選手はもちろん運営泣かせのコンディションの中、6レースが行われました。

◎波乱の神経戦となった初日

 レース初日は練習期間とは打って変わって風が弱く、陸上待機の後に午後から入り始めた弱い北風の中、1レース目が行われました。

 470級は広島大の前田/平尾が本部船側から抜群のスタートを決め、ファーストブローをうまく掴みフリートを牽引。続いて地元・京都大の堀/秋山が、3回生/2回生ペアながら素晴らしい走りを見せました。

京都大の堀/秋山

 1上では少し出遅れた京都府立医科大の橋田/溝渕がダウンウインドの走りで猛追し、2上で堀/秋山を捉えると、徹底的に抑え込み2位を堅守しました。前田/平尾は2位以下が抑えあっている間に快走し、ダントツでトップホーンを鳴らしました。

 レース中に風が落ち、トップフィニッシュに55分を要する神経戦となりましたが、圧巻の走りを見せた前田/平尾ペアの影響で半数以上の大学がDNFとなる波乱の幕開けとなりました。

 スナイプ級は1上は右側の微かなブローをうまく使った大学が上位に入り、中位艇団とは大きな差が生まれました。1下レグでは上位艇団で42条違反やプロテストでの2回転の頻発により混戦となり、上位争いはまだまだ読めない展開です。

 2上では京都府立医科大の西川/貴志が、2位の神戸大の新井/幾島に大きな差をつけ勝負ありかと思われましたが、新井/幾島がダウンウインドで上手く風を掴み、流し込みで西川/貴志を捉え、数秒差で新井/幾島がトップホーンを鳴らす劇的な幕引きとなりました。

 2上を4位で回航した広島大の安原/土井がスピードで集団から抜け出し3位フィニッシュし、1レース目終了時点で総合では京都府立医科大と広島大が同点となりました。

 また、注目は関西医科大/大阪医科薬科大合同チームの中谷/木村組でした。2上6位から追い上げ、和歌山県立医大の福田/石津をかわし、トラッキング上でも1秒差以内の僅差で4位フィニッシュをするなど、多くの見所がある1レース目でした。

関西医科大/大阪医科薬科大の合同チーム

 2レース目は、風待ちの後180度回った南からの6〜12ノットの強弱ある風の中で行われました。470級はスタート前に左にシフトした風を見逃さなかった広島大と京都府立医科大がスタート直後にタックして、全艇の前を切る花道を飾りました。

 2レース目も左右からのブローを的確に捉えた広島大が1上から独走し、1レース目と似た展開となりました。

 シフトをうまく捉えた宮崎大の楢崎/常岡が1上2位と素晴らしい走りを見せましたが、他大学も追い上げ、強弱の激しい難しいコンディションであったことも影響して、2位以下は混戦となりました。

 浜松医科大の菅野/深谷は、 1下までは苦戦していましたが、2上で右の風をうまく使い、3位まで順位を上げる好レースを見せました。

 スナイプ級は京都府立医科大がポートスタートを決め、全艇の前を切り大きなリードを確保した状態でレースが始まりました。

 レース中に風が段々と強くなり、1上2位の浜松医科大の鈴木/伊藤が、浜名湖で慣れ親しんだであろうオーバーコンディションでの底力を見せ、3位を突き放し京都府立医科大に続く2位でフィニッシュしました。

ポートスタートを決める西川/貴志

 2レースを終え初日が終了しましたが、どちらのレースもとても難しいコンディションで、選手達の顔つきは2レースのみに終わったとは思えないほど疲弊していたのが印象的でした。

◎雨の中の激闘となった2日目

 2日目は強風予報でしたが、前線が停滞し、琵琶湖では雨が降るばかりで風が全く吹かず、長い風待ちから始まりました。一時20ノットの風が見られましたが、午後から選手達が沖に出ると風は弱まり、5ノット程度の南風と雨の中、第3レースが行われました。

出艇する本レース出場ペアを鼓舞する各大学の部員たち

 残念ながら雨が強まり風が落ち、40〜50度ほど振れてしまったためノーレースになりましたが、470級は浜松医科大が1上1位回航でした。記録には残りませんが、全マークトップと独走していた広島大以外で初めてマークをトップで回航し爪痕を残しました。

1上を1位回航する浜松医科大の菅野/深谷と、後ろから猛追する広島大の前田/平尾
広島大の4回生ペアの福長/田原が上手く風を掴み1下で暫定首位
神戸大3回生ペアの香山/藤原も1上トップから1下で暫定2位と、下級生の活躍が見られるレースでした

 風待ちのあと、6ノット程度の南風の中で3レース目が再び行われました。470級は雨雲の影響によりトリッキーなコンディションでしたが、実力のある選手が順当に前を走り、広島大がトップフィニッシュを決めました。

 見応えがあったのは2上での抑え合いです。1上で出遅れた京都府立医科大と浜松医科大が上位に浮上する中、広島大は自分のコースを引きながらもリスクヘッジして、1位を確実なものとしているのが印象的でした。

2位を死守する京都府立医科大の橋田/吾妻

 また、滋賀医科大の宗/宮崎は安定したクローズのボートスピードで、1上3位と素晴らしい走りを見せます。上位校にダウンウインドでは抜かれてしまいましたが、あせらず自分の走りを続け5位フィニッシュの好ゲームを見せました。

滋賀医科大の宗/宮崎

 スナイプ級は、スタートで少し出遅れたものの右に大きく展開し、優れた軽風のスピードで挽回した宮崎大の河原/宮田が1上トップと快走しました。

 続く京都府立医科大の西川/瀧口は、風の変化に合わせたジャイブで距離を詰め、宮崎大を捉え下マーク付近で逆転に成功します。

 トップ争いはフリートから抜け出したこの2艇に絞られました。京都府立医科大はホームのアドバンテージを活かし、2上で上手く風を使って宮崎大を大きく突き放し、2位に約7分差のダントツのトップフィニッシュを決めます。宮崎大も隙を見せず2位を堅守しました。

 このレースでは、金沢医科大の奥田/湯川がスタートで集団に埋もれたものの、シフトに合わせたタックでじわじわと順位を上げ1上3位と奮闘しました。

 金沢医科大は、今年は3月に琵琶湖に遠征に来たり、早くから前入りして、気合い十分で琵琶湖の風に慣れようとした成果が見られたのではと思います。

 宮崎大の河原/山本/宮田は、昨年度の広島西医体から大きく力を付け、軽風のボートスピード、大胆なスタートとコース引きが光っていました。好レースを連発し、今大会のスナイプ級のダークホースと言っても過言ではない活躍を見せました。

宮崎大、河原/宮田
金沢医科大の奥田/湯川。琵琶湖のシフティな風を上手く掴み、1上3位に浮上

 2日目は1レースのみで終了となり、470級は広島大、スナイプ級は京都府立医科大が、エースの獅子奮迅の活躍で独走しました。

 470級は、京都大と浜松医科大が同点で3位。スナイプ級でも和歌山県立医大と浜松医科大が同点で3位と熾烈なメダル争いを予感させます。

 総合成績では、気まぐれな風に多くの大学が翻弄される中、地元京都府立医科大が両クラスで全レース2位以内と、抜群の安定感を見せ合計10点で抜け出しました。

 メダル争いでは、浜松医科大も大きく崩さない走りで27点で2位。広島大はスナイプ級での失格を抱えながらも前田/平尾の爆走により29点で3位、京都大も31点で4位と最終日に入るであろうカットレース次第では、まだまだ読めない展開となりました。

◎白熱のメダル争い、運命の最終日

 レース委員会は予告時間を1時間繰り上げ、なるべく多くレースするために尽力しました。朝から良い南風が入り、予定通り9時半から4レース目を行うことができました。

 470級は広島大と浜松医科大が集団から抜け出しました。リードを着実に広げた広島大がトップフィニッシュし、浜松医科大が続きます。京都府立医科大の橋田/溝渕は得意のダウンウインドで追い上げますが及ばず、3位フィニッシュとなりました。

 このレースは1上のシフトと風の強弱が大きく、浜松医科大もスタート後はかなり苦しい位置にいましたが、いい風を背中から受け大きく順位を上げることに成功します。

 スナイプ級は、良いスタートを決め、右からのファーストブローを掴んだ宮崎大が集団から抜け出しました。しかし、乗員を松下/内藤組に交代した京都大は、ブランケットギリギリのポジションで耐え、辛抱強いレース展開で、右からのブローに乗って宮崎大の前を切って1上トップに出ます。

 和歌山県立医大の福田/石津も見事なマークアプローチで1上3位、そして広島大の安原/土井が続き、1位〜4位までが僅差で回航しました。

 ここまで抜群の安定感を見せていた京都府立医科大の西川/貴志は、上位集団から出遅れ、1上を5位で回航しましたが、ブローを見逃さず、ダウンウインドで3位まで追い上げ、京都大と宮崎大に迫ります。

 京都大は京都府立医科大を抑えにかかりますが、隙をつきスピードで抜け出した京都府立医科大が逆転し、2上を1位で回航するとそのままトップを譲らない勝負強さを見せました。

 京都大の松下選手は2年前の猛者揃いの琵琶湖西医体でスナイプクラス入賞を勝ち取った選手です。昨年の西医体でも活躍した実力を発揮して3位以下を突き放し、こちらも地元の意地を見せました。

京都大の松下/内藤

 このレースでは、神戸大の菊池/幾島がスタート後苦しい展開で1上7位となりますが、優れたスピードとコース引きでレグを重ねることに順位を上げ、宮崎大に僅かに及ばず4位フィニッシュ。3回生スキッパーを5回生クルーが牽引し、ペアとしての底力を発揮しました。彼らのこの追い上げが後のスナイプの順位に大きな影響を与えました。

 停滞前線の影響か再び雨雲が現れ、大きく風が振れる中、風が安定した瞬間を見計らってスピーディーな運営で5レース目が行われました。

 470級は京都府立医科大がスタート後に素晴らしい走りを見せますが、京都大とケースを起こし720度回転で大きく順位を落としてしまいます。

470級スタートシーン(写真手前から、京都府立医科大、京都大、広島大)

 その間に多くの船がオーバーセールをする中冷静にコースを引いた広島大が1上マークで首位に立ち、それに京都大、浜松医科大が続きます。

 2上2下では、浜松医科大が京都大に迫り、デッドヒートを繰り広げますが、2上回航後に風を見極め即ジャイブをした京都大に軍配が上がって2位でフィニッシュします。

 このレースでは神戸大の杉山/中嶋が、艇団に対する巧みなポジショニングと無駄な距離を走らないコース引きで1上で4位と奮闘しましたが、42条違反などで順位を落とし悔しいレースとなりました。

 杉山選手は昨年もスキッパーとして出場し、最終レースまで京都大との470入賞争いを繰り広げた実力のある選手です。今年は琵琶湖の風と藻に翻弄され、実力を出し切れず悔しい思いをしたことだと思います。

神戸大の杉山/中嶋。西医体に複数回出場経験のある実力ある選手

 スナイプ級ではアウター側からベストスタートを決めて左のシフトを掴んだ京都府立医科大が大きくリード。続く広島大も苦しいポジションながらもスピードで艇団から徐々にバウを出し、2位で上マークを回航すると思われましたが、京都大がレイラインを正確に見極め、広島大の内側でタックを打ち、上マークを2位で回航しました。

 そのまま地元の京都府立医科大と京都大がフリートを牽引し、広島大の安原/土井は京都大から徹底的にマークを受け苦しい展開となりますが、迫り来る神戸大、関西医科大/大阪医科薬科大をかわし3位でフィニッシュします。

 関西医科大/大阪医科薬科大の山根/中谷は1秒差の4位フィニッシュ。広島大を最後まで脅かし、昨年から大きく力を付けた姿を見せました。

 5レース目を終えカットレースが入り、順位の変動がありましたが、残り時間から考えると実施できるのはあと1レースです。京都府立医科大の総合優勝およびスナイプ級優勝、広島大の470級優勝は決定的となり、メダル争いに注目が集まります。

 470級は、京都府立医科大、浜松医科大、京都大の三つ巴のメダル争いとなり、混戦のスナイプ級は2位から7位まで7点差と接戦で、これらの大学のほとんどはカットレースを抱えているため全く読めない展開となりました。

 風が徐々に強くなる中、235度からの南風で運命の最終レースが始まりました。470級は銀メダルを死守したい京都府立医科大と浜松医科大の激しい争いが、2上でのタックマッチからも見受けられました。

 浜松医科大が銀メダルを獲得するためには、京都府立医科大との間に艇を挟みトップフィニッシュするしかありません。京都府立医科大との競り合いの間に広島大はトップを独走し、銀メダル争いは京都府立医科大に軍配が上がりました。

 京都大は1上で出遅れてしまい、必死に追い上げますが浜松医科大には及ばず4位フィニッシュとなり、浜松医科大が銅メダルを獲得しました。広島大の前田/平尾は、全レースで1位という驚異的な成績で、470級完全優勝を達成しました。

完全優勝を果たした広島大、前田/平尾

 大阪医科薬科大/関西医科大合同チームの日比野/奥野は、1上4位と健闘し、産業医科大の原崎/吉岡組も風が上がる中、1上から大きく順位を上げ6位フィニッシュするなど、普段はあまりレース経験がないであろう選手たちが西医体を通して上達する姿が見受けられました。

 スナイプ級は京都府立医科大、宮崎大、神戸大がいいスタートを切り、宮崎大が1上2位と銀メダル争いでリードします。京都府立医科大、宮崎大、神戸大、広島大が続きます。

 このまま京都府立医科大が抜け出ると思われましたが、右から入ったブローを上手く掴んだ神戸大と広島大が宮崎大を抜き、トップの京都府立医科大とゲートマークをほぼ同時に回航するという一進一退の攻防が繰り広げられます。

 左のゲートマークを選択した京都府立医科大は、ブローに乗りリードを確実なものにして上マークを回航すると、強風リーチングで2位に大差をつけそのままトップフィニッシュしました。

カットレース以外は全て1位。京都府立医科大の西川/貴志

 神戸大の香山/藤原は、琵琶湖のレースに何度も遠征した成果か、不安定な風に対応した安定感のあるボートスピードと、大きくリスクを取らない堅実なレース展開で混戦から抜け出して2位でフィニッシュ。宮崎大と僅か1点差で神戸大がスナイプ級銀メダルを獲得しました。

 和歌山県立医大の福田/石津は、1上は5位とトップ集団の中では後方に位置しましたが、そのままリードを広げることを許さず虎視眈々と勝負の機会を伺い、リーチングで広島大と宮崎大を抜き、2マークを3位で回航しました。

 その後ランニングレグで宮崎大と競り合いますが、最後の流し込みで宮崎大が逆転して3位フィニッシュするという、最後まで目を離せない熱いレースとなりました。

 福田選手は、2年前の琵琶湖西医体で西尾勇輝選手のクルーとしてスナイプ完全優勝を達成し、今大会はスキッパーとして安定したレースを展開し、来年以降の活躍が楽しみな選手の1人です。

 470級スナイプ級ともに、広島大と京都府立医科大が5点と驚異的なスコアでクラス完全優勝を飾り、京都府立医科大が総合二連覇を達成し、今大会は幕を閉じました。

 総合連覇は、2011〜2012年に神戸大が達成したのが最後で、その時の舞台も奇しくも広島と琵琶湖でした。何かの縁を感じさせます。

 総合成績は470級、スナイプ級ともに確実にスピードで前に出る地元京都府立医科大が圧倒的なスコアで総合優勝。470級の前田/平尾が圧巻の走りでチームを牽引した広島大が総合準優勝。

 下級生主体のチームながら好レースを連発し、両クラス共に大きく崩さなかった京都大が総合3位。実習のスケジュールの関係で5回生の琵琶湖入りがレース初日となりましたが、逆境にも負けず堅実な走りが実を結んだ浜松医科大が総合4位という結果に終わりました。

第77回西日本医科学生総合体育大会ヨット競技 総合成績
第77回西日本医科学生総合体育大会ヨット競技 470級成績
第77回西日本医科学生総合体育大会ヨット競技 スナイプ級成績

◎2026年も医学部生たちの熱い戦いに期待

 6レース実施と予定より少ないレース数となりましたが、微風、軽風、強風と各コンディションでバランスよくレースが行われました。大きく苦手な風域がなく、とめどなく変化する風に素早く対応できる、実力のある選手がシリーズを通して上位に立ったことから公正な運営が行われたことが窺えます。

 医学部運動部は、コロナ禍以降、部員の減少や、技術の継承が途切れたり厳しい環境にあります。かつての優勝校である兵庫医科大や香川大が不参加だったことなどからも、現状は厳しいと言わざるを得ません。

 悪いニュースばかりではありません。2年前からの奈良県立医科大のスナイプ級での活動の再開といった嬉しいニュースもあります。兵庫医科大と香川大が西医体に復帰し、西医体ヨット競技がさらに盛り上がることを心から願っています。

 来年の西医体は、浜松医科大主幹の下、8年ぶりに浜名湖で開催されます。医学生セーラー達の熱い戦いが見られることを期待しています。

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