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【コラム】モスワールドに見る世界のトップセーラーと世代交代の波

 今月のコラムは、モスワールドを振り返ります。1月のニュージーランド大会の記憶が新しいモスワールドですが、今年は7月にイタリア・ガルダ湖で開催されました。モスワールド出場を計画していたワカコレーシングでしたが、直前に和歌子選手が骨折。今年はベッドの上でモスワールドの情報を集めて、観戦していたそうです。(BHM編集部)

モスワールドで優勝したエンゾ・バランガー(FRA)。並み居る強敵を下して初優勝を飾りました。ヒゲがあるのでおじさんにも見えますが24歳です

 7月6日〜13日、イタリア・ガルダ湖のマルチェーシネで「モスワールド」が開催されました。今年の大会には25カ国から137艇がエントリーし、日本からは行則啓太と岡田奎樹の2名が出場しました。本来であれば、ワカコレーシングも現地に赴く予定でしたが、私が5月に足首を骨折したため、急遽渡航を断念することとなりました。(レポート/梶本和歌子 ワカコ・レーシング)

◎山に囲まれたフォイリングの聖地、ガルダ湖

 ガルダ湖は「フォイリングの聖地」として知られ、世界的なセーリングスポットの1つです。私自身も470級時代から何度かガルダ湖でレースに参加した経験があります。

 この湖は南北に細長く、雪解け水が流れ込むことで水温が低く保たれています。また、湖は高い山々に囲まれており、山肌が太陽によって温められることで水温との気温差が生じます。これにより、朝は北風、午後には南風が吹くという特有の風パターンが形成されます。

 波が立ちにくい湖面は、まさにフォイリングに理想的な環境です。昨年、18ft級でガルダ湖のレースに参加していたケーガン選手からは、「最近は風があまり吹かなくなっている。温暖化の影響ではないか」という話を聞いていました。

 実際、最近では気温の上昇により周辺地域でスコールのような雨が多く発生し、それが風の発生を妨げているようです。今年のレースでも、天候が不安定で雨が多く、さまざまな方向から不規則な風が吹き込んだ結果、風がぶつかり合って無風状態になる場面が多々ありました。

アメリカズカップ、SailGP、五輪メダリストが集まるモスワールド。日本からは行則啓太(日本モス協会会長、ノースセールジャパン所属)、岡田奎樹(パリ五輪470銀メダル)が出場しました

◎モスワールドに出場した豪華すぎるスターセーラーたち

 今回のモスワールドは、エントリーリストを見ただけでも、非常に豪華な顔ぶれが揃っていることがわかります。

 アメリカズカップのセーラーでは、トム・スリングスビー(AUS)、ポール・グディソン(GBR)、ジャイルズ・スコット(GBR)、ディラン・フレッチャー(GBR)、アーナウド・サロファギス(SUI)

 SailGPからは、ディエゴ・ボティン(ESP)、セバスチャン・シュナイター(SUI)。といったトップセーラーたちが出場していました。

 おそらく、次のアメリカズカップに向けて自らをアピールする目的もあったのでしょう。すでに契約が決まっている選手(チーム・ニュージーランドやルナロッサに所属する選手たち)は出場していませんでした。

 こういった視点でエントリーリストを見るだけでも、ついご飯をおかわりしてしまうほどの面白さがあります。

 さらに、470級金メダリスト:シメ・ファンテラ(CRO)、49er級金メダリスト:イアン・ジャンセン(AUS)、前回覇者:マティアス・クーツ(NZL)、前回2位:ジェイコブ・パイ(NZL)

 加えて、昨年と今年のフォイリングウィーク、プレワールド大会、そしてワールドの前哨戦すべてで優勝していたエンゾ・バランガー(FRA)も出場し、今大会の優勝候補として注目されていました。

 個人的には、前回7位だったライアン・リトルチャイルドやジャック・ファーガソンといったオーストラリアの若手、そして長年モス級に乗り続けるベテランのブラッド・ファンク(USA)に注目していました。

470出身セーラーでは2012年リオ五輪金メダリストのシメ・ファンテラ(CRO)が出場しました
SailGP、アメリカズカップで活躍するトム・スリングスビーは、モスワールドチャンピオンです。それ以前はILCA(当時はレーザー級)の王者でした
前大会で2位、今年3位のジェイコブ・パイ(NZL。19歳)。ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ、そしてヨーロッパでは20代前後のモス乗りが活躍しています

◎モスのトップセーラーは世代交代の流れ

 今大会は、初日から一度も崩れることなく、エンゾ・バランガーが圧巻のパフォーマンスで優勝を果たしました。2位には最終日で順位を上げたトム・スリングスビー選手、3位にはジェイコブ・パイ選手が入りました。

 近年の優勝者であるポール・グディソン(3回)、トム・スリングスビー(2回)、ディラン・フレッチャー(1回)、そして前回優勝のマティアス・クーツを抑えての勝利は、まさに誰もが納得の結果だと言えるでしょう。

 また、若手選手の台頭も目立ちました。3位のジェイコブ・パイ、4位のライアン・リトルチャイルド、7位のジャック・ファーガソンと、世代交代の流れを象徴する大会でもありました。

【エンゾ・バランガー選手の経歴】
2014年 オプティミスト級ヨーロッパ選手権 優勝
2017年 ユースワールド 420級 4位
2019年 470級ジュニアワールド 12位
2021年 ナクラ17級、モス級で活動開始
2021年 モスワールド 38位
2022年 モスワールド 9位
2024年 ユースアメリカズカップ フランス代表(ヘルムスマン)として出場
2024年 モスワールド 6位
2025年 モスワールド 優勝

 エンゾ選手は、オプティミスト級からスタートし、420級、470級を経て、フォイリングの魅力に引かれてナクラ17級とモス級に転向しました。

 2024年にはユースアメリカズカップに出場し、フランスSailGPチームのドバイ大会にもトレーニング参加。現在はモス級に専念しており、今後はアメリカズカップやSailGPへの挑戦も視野に入れているとのこと。来年のモスワールドでも王座を守りたいと意気込みを語っています。

 来年のモスワールドはオーストラリア・パースで開催される予定です。モスワールド終了後は、艇を手放す選手が多くなる時期でもあります。モス級を始めるには、今がチャンスと言えるかもしれません。ご興味のある方は、ぜひ情報をチェックしてみてください。

モスワールド2025 最終日のハイライト映像