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ファストネット灯台をまわった! 2人乗り600マイル「ミニファストネット」

 6月15日、フランス・ドゥアルヌネで「ミニファストネット」が開催されました。この大会はファストネット灯台(アイルランド)を回って戻る600マイルの外洋レースです。このレースは一見シンプルに見えますが、潮が非常に強いコースであることと、コンテナ船の往来が多い海域を通過することから、特に夜は気の抜けないレースになりました。(レポート/國米 創)

大学生のDMG MORI セーリングアカデミー生、遠藤功大と一緒に「ミニファストネット」に出場しました。背景に見えるのはかの有名なファストネット灯台です

 このレースは2人乗りで、今回は日本からのDMG MORI セーリングアカデミー生の遠藤功大と出場しました。彼は現役東大生で学連ヨット部でスナイプに乗っています。短い期間でしたが、レース前に2人で練習と整備をすることができ、スタート地点までの回航が最後の練習になりました。

 この時が僕と遠藤の初めてのナイトセーリングで、正直に言うと個人的に不安がありました。これからレースをするのにこの練習量で大丈夫なのか? 自分のことで精一杯なのに船の安全と、遠藤に教えながら、安全を確保することができるだろうか?

 なんてったって、僕は前回のレースはリタイアしてしまい、遠藤にとって初めてのレースです。考えれば考えるほど不安が増していきました。

 今回のレースは微風レースが予想され、どの気象モデルを見ても違うことを言っていました。コーチはレース前に2時間かけてコースの話をしたあと、最後に「正直どうなるかわからないから馬鹿デカいコインを持っていって、コイントスでコースを決めなさい」とジョークを言っていました。

スタート地はフランス・ブルターニュ地方のデュアルヌネ。イギリスを越えてアイルランド沖のファストネットロック(岩礁。イギリスの有名外洋ヨットレース「ファストネットレース」の折り返し地点)を回航する600マイルのコースです
チームメイトのアレクソン艇(プロト艇1048番)にはDMG MORI セーリングアカデミーの澤田皓希が同乗して総合3位を獲得。また、ミニトランサットを目標に活動する高原奈穂(シリーズ艇)も出場しました。写真はスタート前日のインショアレースより

◎不安を感じながらスタート。相棒を信頼することで気持ちが落ち着いた

 スタート日は風が12ノットほどのアップウインドでした。ドゥアルヌネは陸に囲まれていて、湾を出るまではどこに走っても陸や他艇と鉢合わせる潮の強いピンボール状態です。

 遠藤とはうまく連携しながらセールチェンジや動作をすることができましたが、どうしても自分でやった方が早い時もあり、彼への指示でつい声を荒げてしまうこともありました。

 オフショア、キールボートの基礎知識を優しく丁寧に教えたいけれど、それは今後、彼のシングルハンドのためになるのか? 今のうちに失敗を経験して、厳しくしながら僕がカバーしていくのがいいのか? ひとつひとつの動作で頭を悩ませていました。

 最初の睡眠をとる時、すぐに飛び出せるようにと考えながら寝ました。長く同じ船でオフショアをやっていると、寝ていても少しの変化で目が覚めるようになってしまいます。

 風が上がったのを感じて目が覚めて、外に出ようと起きあがろうとしたら、外からジブを上げる音やトリムするウインチの音が聞こえました。陰から遠藤が自分で船を動かそうとしているのを見たら、自分は心配しすぎていると思い、もっと安心して信頼しようと思って再び眠りました。

 30分後、目を覚めして周りを見たらさっきまでいた船が前の方を走っていて、AIS(船舶自動識別装置)にも映らなくなっていたので「うぉい!」って言いましたが、内心では思わず笑ってしまいました。

スタートから3日を過ぎてもまだイギリス沖。序盤戦は風が弱く、潮が強くスローペースで走りました

◎パンツを履き替えてすぐ海中に潜ることになってしまい凹む

 イギリス海峡に出るまで半日がかかり、予報通り2日目の太陽が出る頃に風が完全にストップしました。

 2日目は風がなく、先のことを考えながらゆっくりと時が過ぎました。どうしようもないので交代しながら長めの睡眠をとり、なるべく船を止めないようにイギリスを目指してました。イギリス付近も潮が強いため、そこに到着するタイミングを予想しながらコースを考えました。

 3日目になってもまだイギリス付近にいました。これはさすがに長すぎると感じました。今までイギリス海峡を渡った中で一番時間が掛かりました。昼過ぎには風が戻り、シリー諸島の間を抜けて、ようやくアイルランドに向かうことができました。

 2日と6時間が経過しても、まだ160マイルしか進めておらず、先は長く感じました。これから風も落ちることが予想されていたので、風があるうちにどれだけアイルランドに近づけれるかが、この時の目標でした。

 4日目についにアイルランドが見えてきましたが、また風がなくなり、2日目と同じ状態に。。。久しぶりに下着を着替えて少し眠ると、遠藤から大声で呼ばれて外に出ました。キールが釣り網に引っかかってしまいました。海に潜らないと外せない状態です。

 日本でも同じですが、海外でも急に網が現れ、キールに引っかかるのはよくあることです。せっかく着替えた下着の命は5時間でした。この時、遠藤はたくさん悩んでいたようですが「何も問題ない」と伝えました。

 その後のセーリングで、「はじめ(創)さんを起こした時、結構情けない声で起きるのを知って面白かったです」と言われましたが、全く嫌な気持ちはしませんでした。

 むしろお互いの絆がさらに深まった気がしました。目上と思われるより、これくらいの関係性の方が安心できるので、こう言ってもらって本当にうれしかったです。

ようやく走り出しました
GOPROで夕陽を撮影する遠藤

◎ここまで来てファストネット灯台を見ずには帰れない

 4日目の夕日が近づいてきて、時計を見たら22時でした。フランスにいても日が長く感じるのにアイルランドに近づくと完全に暗くなったのは0時を越えてからでした。

 遠藤と「次に太陽が出る頃にファストネット回っているだろう」と話し、レッドブルを飲んで陸と立ち入り禁止ゾーンの間を他艇とレースしていました。

 ファストネットに近づいたときには朝5時になっていました。少しずつ明るくなっていましたが、曇り空のせいで普段より暗い朝でした。その時思いました。

 このまま行くと早く着きすぎて、ファストネットを見られない。

 24時間のうち、6時間が暗いから、なんだかんだ見ることができると軽い気持ちでレースをしていたら、まさかの暗いタイミングで到着してしまいました。

 「5日もかけてファストネットへ来たのに見ないで帰るのは絶対に嫌だから少し待とう! 抜かれたら後で風が上がるはずだから追い抜こう」と遠藤に言って、彼も同意してくれたのでジャイブを増やしたり、少し長く低く走って時間を稼ぎ、なんとかファストネットを少しだけ見ることができました。

 有名な灯台を見た瞬間、「これが折り返し地点か。これから帰らないといけないのか…」という気持ちになったのは正直なところです。

AISに映るファストネット

 それでも行きよりも風があり、順調に順位も上げて、2日ほどでドゥアルヌネに戻ることができました。途中、風が落ちたり、夜は雷が鳴ったり、バラエティー豊かな帰り道でした。

 最後の2時間ほど風が入り、このレースの最高風速21ノットの風でダウンウインドを走ってゴールしました。この風が数日前に来て欲しかったです。。。

 今回はとても長いレースでしたが、遠藤と一緒にレースができてとても楽しく、学びの多いレースでした。こうして自分がまだ他人に教える自信がなくても、オフショアを発展させるには、今の未熟な状況と心境、体験を伝えることも大切だと感じました。

 あらためて、応援していただいた皆様ありがとうございました。そして遠藤お疲れさまでした! 次のレースは7月18日に始まります。これを最後に次は大西洋横断「ミニトランサット」です。今、大きな整備の最終チェックをしていて、次のレースを最終チェックレースとして、しっかり取り組んでいきます。

夜が明けファストネットが見えてきました
遠藤が日本から持ってきてくれた麻婆豆腐で丼を作ってくれました
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