【バルクヘッドマガジン特別企画】白石康次郎インタビュー・前編
世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」を完走して5度目の世界一周を達成した白石康次郎さん。白石さんと〈DMG MORI Global One〉の記録は90日21時間34分41秒、総合順位は24位でした。バルクヘッドマガジン編集長がフィニッシュ後の白石さんをインタビューしました。(BHM編集部)

◎世界一周から戻って体重が10キロ痩せてしまった
バルクヘッドマガジン編集長:フィニッシュして3日が経ちました。白石さん、いまの体調はどうですか?(インタビューは2月12日におこなわれました)
白石康次郎:体調、ちょっと悪いんだよね。フィニッシュしてからノロ(ウイルス)にかかって大変。いま治りかけ。チームメンバーの半分がノロにやられちゃった。ぼくも昨日までダウンしていたけれど、今は大丈夫です。
編集長:そうだったんですか。チームのみんなも大変でしたね。世界一周が終わって体重はどれぐらい減りましたか?
白石:8キロぐらい減ったかな。陸に戻って、さあ太ろうかなと思ったらノロにかかってさらに痩せちゃった。今10キロぐらい減ってる(笑)。
編集長:ひどい目にあいましたね(笑)。フィニッシュして、今どんなことを感じていますか?
白石:率直に言うとね、フィニッシュできて本当によかったなと思っています。やっぱり走り切るということがあらためて大切だなって実感しています。
編集長:フィニッシュの後、水路のパレード(フィニッシュ後の船は水路を通って港に入ってくる)もさん橋にも大勢の人が迎えてくれていましたね。
白石:人気のヴィオレット(史上最年少23歳でフィニッシュしたヴィオレット・ドランジュ)と一緒のフィニッシュだったからね。すごい、すごい、すごい人数でしたよ。何万人いたんだろう。
編集長:それに、フィニッシュした2月9日は日曜日でしたね。
白石:そう、日曜日の午前中でよかった。予想していたフィニッシュは、月曜日になってた。ぼくもチームも月曜になるかなって思っていたんだけど、風が思うように吹いてくれて。日曜日に入れたのですごくラッキーでした。5時のタイムリミットがあったから。
編集長:それは、どういうことです?
白石:夕方5時以降に入るとあの水路は閉まっちゃう。で、入港は翌朝になる。月曜日になっちゃう。
編集長:一晩、沖で待ってなきゃいけなかったってことですか?
白石:そういうこと。潮の干満差でね。水路のゲートがあるわけよ。あそこは24時間入れないから。ぼくは11時半にゴールだったから、確か一時間ぐらい待って入港しました。

◎最後の一週間、アゾレス諸島を越えてからのコース選択
編集長:最後の1週間、アゾレス諸島を越えてからコースの選択はとても記憶に残っています。アゾレス諸島を左からまわって、それから北に行くか南に行くかの決断はどんな理由があったんですか?
白石:基本的にコースを決めるときは、公式発表される気象予報の情報を参考にしています。GFS(気象予報モデル)が6時間に1回更新されてて、ECMWFが12時間に1回更新される。その情報をもとにルーティングするんだけど、そのときは毎回違ったルートが表示される。北行け、南行けって毎回違う。アゾレスの北を回って1週間後って本当わからない状況で、それだけ難しい予報だったってことだよね。
編集長:北か南で悩んで結局南ルートを選びましたね。
白石:最後に北行けってなって、みんなバーッて走り出したけど、やっぱり南がいいなと思って南へ向かった。行くんだったらアイルランドまで行くんだと思っていた。すると一度北へ向かった周りの船も南コースに戻ってきた。結果、先に南に向かったのは良かった。
編集長:風はリーチングに変わったんですか?
白石:予報はリーチングだったけど、実際はアップウインドに近かったかな。60度とか70度で走っていたから。そこでね、うまくスピードに乗って走れた。
編集長:そのあたりはトラッキングを見ていて面白かったです。結構タック繰り返していましたね。
白石:そう、タック、タックで南へ行った。南行くといってもちょっとバックするコースになるんだよね。ジグザグだから1回戻る。勇気がいるよね。だって一旦フィニッシュから遠ざかるんだから。
編集長:実際にそのポイントで抜かていましたからね。
白石:そうそう。でも最後はやっぱり一番早かったです。最初にコースを変えたのが良かった。

◎今回のヴァンデ・グローブでリタイア艇、トラブル艇が少なかった理由
編集長:白石さんは、4年前とはまた違った感覚を受けたんじゃないかなと想像しますが、どうでしたか? 体力的なものとか、精神的なものとか。
白石:うーん、後半が大変だったね。ホーン岬(南アメリカ大陸南端)から本当に長かった。みんなも言ってるんだけど、とにかく難しくて後半は長かった。それに南氷洋はよく荒れた。荒れてて、よく吹いて、波がすごかった。でホーン岬からちょっと手間取った。難しかったです。
編集長:毎週テレビに出演したり、白石さんも船上から動画を配信したり、ヴァンデ・グローブの認知度はずいぶんあがったと思います。個人的には記録更新だけでなく、スピード記録も生まれで、女性が6名出場て話題の豊富な大会だったと思います。
白石:前回(2020-21年)はコロナもあったからね。前回とは内容が全然違っています。
編集長:序盤にバテントラブルがありましたね。
白石:ちょうど取材中でね、ワイルドジャイブしてバテンを5本折ってしまった。でも、予備で持っていたバテンがぴったりだったのよ。折れたやつを上に持ってったりして、ちょうどぴったり5本直せた。セールは破いてなかったので良かったです。
編集長:それは良かったです。
白石:今回もこんなところが壊れるんだとか、こんなことあるんだとか、いろんな初めてのトラブルがありました。ラッキーだったのは何にも衝突しなかったこと。ラダーもホイールもキールも無事でよかった。そんなに飛ばしてないからね。だからいつもどおり安全第一で走れたという感じです。
編集長:それは船の準備がしっかりできてたということですか?
白石:はい、よくできてました。前よりも全然良かったですね。
編集長:今回はリタイア艇が前回よりも少なくかったですね。でも記録は更新されているということは、船の性能があがって、頑丈になったということでしょうか?
白石:いや、それは違う。前回大会(2020-21年)はコロナだったんですよ。ぼくたちは新艇を作ったけれど、ヴァンデグローブの前は1レースだけしか出られなかった。そのために作られたレースが、ヴァンデ・アークティックというレースです。
編集長:そうでしたね。
白石:ほかのレースは全部キャンセルされました。ヴァンデ・グローブ本番がテストを兼ねるみたいな感じ。それはみんなリタイアするよね。で、今回は本番前に10レースに出場した。ヴァンデグローブの前に10レースです。
編集長:そんなに出ましたか。
白石:みんなそれぐらい出てるわけ。その10レースで〈MACIF〉も2位の〈ARKEA〉もみんな船を壊してた。トマ・ルイヤン〈VULNERABLE〉なんてファストネットで沈みそうになって救命ボートまで用意しそうになったから。要するに10レースも試せたということ。それは圧倒的に違う。で、ヴァンデグローブには準備万端でみんな出場できたんです。完璧な状態で船を直すことができたから、リタイアも少なく、素晴らしい記録が出たということです。
編集長:なるほど。その通りですね。
白石:ぼくも大西洋を2往復して、それで船の性能とかもいろいろわかって、今回のヴァンデ・グローブに臨んだので、まあ当然そうなるだろうという感じでした。(→インタビュー後編へ続きます)

◎第10回 2024-25 ヴァンデ・グローブ 基本データ
日時:2024年11月10日スタート
開催地:レ・サーブル・ドロンヌ(フランス)
総距離:約2万4300マイル(4万5000キロ)
出場:40選手(うち女性6名)
国:11カ国。フランス、イギリス、スイス、ドイツ、イタリア、ベルギー、ハンガリー、日本、中国、米国、ニュージーランド
初出場:18選手(最年少は23歳女性)
新艇:14艇
リタイア艇:7艇
トップフィニッシュ艇:シャルリー・ダリン〈MACIF Santé Prévoyance〉64日19時間22分49秒(大会新記録)
- 白石康次郎インタビュー後編https://bulkhead.jp/2025/03/109302/