【コラム】シドニー・ホバート・ヨットレースのスタートを見てきたよ
「第80回シドニー・ホバート・ヨットレース」は、世界でも有名なオフショアレースのひとつで、クリスマスの翌日のボクシングデー(12月26日)にシドニーハーバーをスタートし、タスマニア島南部のホバートでフィニッシュする、航行距離約628マイルのレースです。1945年に始まり、今年で80回目の大会となります。(レポート/梶本和歌子 ワカコ・レーシング)

◎シドニー・ホバート・ヨットレースの見どころ
オーストラリアでは毎年スタートシーンが地上波テレビで生中継されるため、日本でいうところのお正月に「箱根駅伝」をテレビで見るような感覚で親しまれていて、国内で最も有名なヨットレースと言えるでしょう。今年のスタート艇数は128艇と発表されています。
このレースの見どころは、やはりスタートとどの艇がラインオナーを獲得するかという点で、その意味で注目されるのは、最も大きなクラスであるマキシボートです。
今年は〈ロウコネクト〉、〈マスターロック・コマンチェ〉、〈パーム・ビーチXI〉、〈SHK スカリーワグ 100〉、〈ワイルドシング 100〉の5艇がエントリーしていますが、なかでも注目は三連覇のかかった〈ロウコネクト〉です。日本でも有名な元競泳選手のイアン・ソープが乗船することでも話題となっていました。
対抗馬筆頭は、最速レコードホルダーの〈マスターロック・コマンチェ〉です。昨年はスタート後にメインセールを破損し、レースから早々に離脱してしまいましたが、今年は万全の準備を整えて臨んでいるようです。

◎寒い!小雨が降る中、防寒してフェリーに乗り込む
スタート当日のシドニーの天気は、朝からどんよりとした雲が空を覆い、時折小雨がぱらつく空模様。今は夏だよね? と確認したくなるような、肌寒い気温です。フリースにカッパ、ダウンジャケットまで持ってフェリー乗り場に到着しました。
乗船前にはキャプテンから航路の説明があり、今日はうねりがあり船が揺れるため、片手はしっかり手すりを掴むこと、船から落ちないよう注意すること、船酔いしてもトイレに籠らないこと、そしてライフジャケットの場所と着用方法について丁寧な説明がありました。
今回私たちが乗ったフェリーは3階建てで、1階にはバーがあります。最上階はオープンルーフになっていて、周囲を一望できるため、私たちは持参した防寒着をしっかり着込み、終始3階からレースを観戦しました。
いつもならバーでお酒を手に入れて、それを片手に観戦するところですが、今日は南風が20ノットほど吹いており、冷たい風が吹きつける中では、寒くてお酒を飲む気にはなりませんでした。
フェリーは11時に出航しました。13時のスタートまでたっぷり時間があるため、スタート前にダーリンハーバーからサウスヘッドまでシドニーハーバー内を巡り、シャークアイランド付近のスタートラインをぐるっと回りながら観光しつつ、レース参加艇の準備の様子を見学しました。
サウスヘッド付近では大きなうねりが入り、立っていると足元がふらつき、写真を撮るのも難しい状況でした。このフェリーは、スタート後に湾外へ出て、マロウブラ・ビーチ(サウスヘッドから南へ約15キロ)まで追走すると案内されていたため申し込んだのですが、この海況ではサウスヘッドで見送って引き返すだろうと予想していました。

◎スタート! そしてフェリーは荒れた外海へ
いよいよスタートの時刻です。 フェリーはサウスヘッドの少し北側に位置していて、スタートラインからはやや距離がありましたが、ダウンウインドスタートのため、すぐに外海へ出ていくことを想定したポジショニングだったようです。
スタートの号砲は聞こえませんでしたが、ジェネカーを一斉に張り、フルセールで帆走を始めたことでスタートが分かりました。 私はシドニーホバートのスタートを海上で観戦するのは3度目ですが、今回はダウンウインドスタートだったため、あっという間にサウスヘッドのターンマークに到達しました。ジェネカーを素早く下ろし、最初に回航したのは〈ロウコネクト〉、その後に〈マスターロック・コマンチェ〉が続きました。
このあたりで後続艇の観戦のために留まるのだろうと思っていたところ、フェリーはフルスピードで湾外へ出ていき、〈ロウコネクト〉と〈マスターロック・コマンチェ〉の激しいタックバトルを間近で観戦することになりました。
うねりは3メートル、風は20ノットほどでしょうか。正直、「本当にこの海況で追走するの!?」と思いました。全長30メートルのカタマランフェリーは激しく揺れ、両手、もしくは最低でも片手で手すりを掴んで体を支えないと転んでしまいます。
「船酔いした人はいませんか?大丈夫ですか?」と、エチケット袋を持ったスタッフが何度も確認に来るほどでした。実際に目の前で転倒する人や船酔いしてしまった人もいましたが、大半の人たちは「ワー!キャー!」と大喜び。老若男女問わず楽しんでいる様子に、さすがオージー、ワイルドだなぁと感じました。
〈ロウコネクト〉の風上側に位置して追走していた際、ファーストタック後にフェリーがコース上に入り、近い、近い! と思ったのですが、セーリングを熟知したキャプテンが、ぎりぎりのところで艇の風下側に避け、迫力ある走りを間近で見ることができました。また、乗客全員で応援すると、〈ロウコネクト〉のクルーたちが手を振って応えてくれました。
ボンダイビーチ付近(サウスヘッドから南へ約8km)まで来たところで、海況が悪いため、そろそろ引き返しますとのアナウンスがありました。心の中では「ここまで来ただけで十分です!」と思っていました。
進路をサウスヘッドに向けると、それまで手すりにしがみついていたのが嘘のように揺れが収まりました。気が付くと、小型艇もサウスヘッドを通過し、全艇が外海を帆走していました。
気象予報では、少なくとも24時間は南風が続くとのこと。この風と波、そして寒さの中で、延々とアップウインドを帆走するのかと思うと、尊敬の念とともに、全艇が無事にホバートへ到着することを願わずにはいられませんでした。










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