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【コラム】五輪の可能性もあり。世界で人気のウイングフォイル

 ここ数年、国内外を取材していて「海の様子が変わった」と感じることがいくつかあります。そのひとつはウイングフォイルの登場です。みなさんの中にも同じように感じている方は少なくないでしょう。急激に世界的に普及しているウイングフォイル。道具の進化、軽量で持ち運びが楽、これまでのセーリングと比べると比較的安価で簡単に始めやすいといった理由があるようです。今回のワカコレーシングでは、シドニーでも人気のウイングフォイルについて紹介します。(BHM編集部)

第1回フォーミュラウイング世界選手権に男子71選手、女子20選手が出場。9月イタリア・サルディニアで開催されました

 ウイングフォイルは、ワールドセーリング(WS)のステータスとしてまだスペシャル・イベントの位置づけですが、9月にサルディニアで第1回フォーミュラウイング世界選手権も開催され、オリンピックへの採用も近いと噂されています。今更という気もしますがウイングフォイルを紹介したいと思います。(レポート/梶本恆平 ワカコ・レーシング)

◎100年以上の歴史があるウイングフォイル
 ハンドヘルドのセール(ウイング)自体は古くから存在していて、アイススケートと組み合わせた「スケート・セーリング」は北欧で100年以上の歴史があります。

 水上でもウインドサーフィンの黎明期にはハンドヘルドも提案されて試されていましたが、抵抗の大きいボードに直接動力を伝達するためにユニバーサルジョイントなどを介してリグとボードを連結しないと機能しなかったようで、ウインドサーフィンのようには普及しませんでした。

スウェーデンのスケートセーリングで使用されたウイング(1905〜1915)。引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Skate_sailing

参考
スケートセーリング https://en.wikipedia.org/wiki/Skate_sailing

ウィンドウェポンhttps://www.surf-magazin.de/en/windsurfing/scene-and-events/time-travel-drifted-off-and-almost-drowned-a-day-with-the-wind-weapon/

 2000年代初頭にフットストラップを付けたトーイング・サーフィンでビッグウェーブサーフィンに革命を起こした、レイアード・ハミルトン、デイブ・カラマ、ラッシュ・ランドル達が水上スキーヤーのマイク・マーフィーとボブ・ウォーリーが開発した座って乗る水中翼の水上スキーであるエア・チェアーを改造して、スキーブーツを付けたトーイング・サーフィンやウインドサーフィンが試みられてはいたものの、停滞していました。

 この状況を変えたのがフォイリングの発展です。2016年にレッドブルアスリートでウインドサーフィン、カイトサーフィン、SUPサーフィン、SUPレーシング、ビッグウェーブサーフィンとなんでもこなすウォーターマンのカイ・レニーが SUPフォイルとフォイルサーフィンのクリップを公開したあたりから、停滞していたボードスポーツのフォイリング開発が再加速していました。

 氷上のスケートとまでは行かないものの、フォイリングによりボードの抵抗が劇的に低減されて、水上でのハンドヘルドセールの使用が実用的になっていました。

 最初にこれに気付いたのはカイトのレジェンドでもあるマーカス・オースティン(通称フラッシュ・オースティン)で、2018年3月にコンセプトを実証するクリップが公開されました。翌年の2019年にはディオトーン、ナッシュといったカイトメーカーがパイプフレームではなくブラダー(風船)をフレームに使ったハンドヘルドのウイングを発売して、世界中にブームを巻き起こしました。

参考
レニー兄弟によるフォイリング史の振り返りhttps://www.youtube.com/watch?v=tXd30vjvJso

フラッシュ・オースティンによるウイングフォイルの原点https://www.youtube.com/watch?v=Xb1XbqxmusY&t=3s

ウィキペディアhttps://en.wikipedia.org/wiki/Wing_foiling

2025第1回フォーミュラウイング世界選手権の様子

◎オリンピックも視野に広まるウイングフォイルの現在

 オースティンのビデオから7年後の現在(2025年)、IWSAとGAWという2つのメジャーな競技団体が存在していて、それぞれがワールドカップを開催しています。

 IWSAはコースレーシングに特化しているのに対して、GAWはサーフ・フリースタイル、フリーフライ・スラローム、ウェーブ、ビッグ・エアーという多種目が行われていて、ウインドサーフィンでいうところのPWAのような立ち位置です。

 IWSAの方はフォーミュラ・ウイングをWSにクラス申請しており、オリンピッククラスを目指していると考えられています。また、iQFOiLを開発したスターボード社がX-15というワンデザイン・クラスを開発して、こちらもオリンピックを目指してロビー活動をしています。

 一方で、先日殿堂入りしたばかりのアメリカズカップのレジェンド、ポール・ケイヤード(USA)がUSセーリングのハイパフォーマンスプロジェクトを離れた後に設立した支援組織「アメリカ・ワン・レーシング」では、近年ウイング選手のサポートを始めているのも注目すべき動きです。

 また、パリ五輪のiQFOiL男子で銀メダルを獲得したグラエ・モリス(AUS)が、サルディニアのワールドに出場して6位に入って見せたところを見る限りでは、iQFOiLとの共通性が高そうです。

 そういう意味では、iQFOiL男女を置き換えるのが理にかなっていそうですが、競技人口の伸びないカイト男女やナクラ17混合、あるいは映像映えのしない470混合と置き換えられる可能性もあるのではないかと予想しています。

 2028年LA五輪のイベント(競技種目)とエクイップメント(船、道具)は決定しているので、登場は早くても2032年のブリスベン五輪からとなりそうです。

 スケジュールとしては、2025年中に最低4つのレビュー対象となるイベントが決まり、2026年中にそれらのイベントがレビューされます。レビューの結果によっては、2027年中に新エクイップメントのトライアルが行われ、2028年に新エクイップメントが採用されます。

 現在IWSAで使われている機材を見ると、フォイルが60万円、ウイングが2枚で100万円、ボードが25万円なのでトータルで200万円ほどで一式を揃えることができます。

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