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【コラム】どうなる???第38回アメリカズカップ(後編)

 8月に発表されたAC38のプロトコル。その内容は前回のコラムで紹介しました。同時に競技規則および技術規定も公表され、アメリカズカップの変わる部分、変わらない部分がだんだんと分かってきました。詳細は前回のコラムをご覧いただき、今回はワカコレーシングが、「それで、どうなっていくの?」という部分に迫ります。(BHM編集部)

参考リンク ◎【コラム】どうなる???第38回アメリカズカップ(前編)

2017年大会でチームニュージーランドの秘密兵器として登場したサイクラー。写真で下を向いている2人の選手は、周囲を目を配ることもなく必死にペダルを漕いで発電しています。このサイクラーは次大会から廃止されます

【変わりゆくアメリカズカップ】
 今回のプロトコルを決めるにあたり、前回大会で使用された全レース艇の性能差を分析したところ、ハルに起因する性能差はほぼなかったため、ハルを再使用することがプロトコルに取り入れられたと説明されています。(レポート/梶本和歌子 ワカコ・レーシング)

 しかし、各チームの新艇がお披露目される時のあのワクワク感がなくなってしまうと思うと、またひとつ「アメリカズカップらしさ」が失われたように感じます。

 また、今回のプロトコルで示された「サイクラーの廃止」は、前大会で導入されたフォイルアームの電動制御をさらに推し進めるものです。体力に頼らず、ゲームのようにボタンやレバーだけでヨットを操ることに抵抗を覚えるセーラーも多いのではないでしょうか。

 思い出すのは前回大会でのレース中の一場面です。スタート前に「油圧が足りないからタックできない」「ジャイブできない」といった会話が、セーラー同士のコム(ラジオ)で交わされていました。これは、サイクラーがペダルを回して得た油圧を使ってセールをコントロールしていたためです。連続してマニューバを行えばサイクラーの体力が限界に達し、油圧供給が途絶えてしまいます。

 このように純粋な体力勝負もスポーツの大きな魅力の一部だと思うので、その要素がなくなってしまうのは少し残念な気もします。もしかしたらバッテリー容量を使い切ってしまわないようにといった新たなパワーマネージメント要素が出てくるのかも知れませんが、息が上がる苦しさのように共感できるものではないため、味気なく感じられるかもしれません。

 2026年から始まるプレリミナリー・レガッタでは、AC40の2艇目中1艇にはユースAC、およびウィメンズACに出場資格のあるセーラーでチームを構成しなければならないというルールがあり、これらのセーラーとシニアチームの距離が近づき、以前よりもステップアップが容易になるような配慮がなされているのは歓迎すべきでしょう。

 ユースAC、ウィメンズACにも良い刺激となり、こちらもより一層レベルが上がったレガッタになるのではないでしょうか。

ルナロッサ・チームディレクターのマックス・シレナから紹介されるピーター・バーリング。希代の天才セーラーも、まるで転校生のような気分でしょうか
AC38でもユースAC、ウィメンズACで採用されるAC70の小型版、AC40。前大会ではユースもウィメンズもイタリアが優勝しました

【どうなる? アメリカズカップのこれから】
 現在、アテナ・レーシング(イギリス)のほか、ルナロッサ(イタリア)が参加を表明しています。オリエント・エクスプレス・レーシング(フランス)も参戦が有力と見られています。通常エントリーは既に締め切られていますが、レートエントリーは2026年1月31日までとなっています。どのタイミングで公表されるかは分かりませんが、遅くとも来年の初頭には全参加チームが判明するでしょう。

 参加するチームが確定すると、次は誰が乗るのかが気になる所です。ピーター・バーリングがルナロッサへ移籍しましたが、国籍条項が緩和されたので、彼がルナロッサのヘルムを持つことになるのかもしれないなど、楽しみが膨らみます。

 まだあまり表立って活動している様には見えないAC38キャンペーンですが、水面下では各チームが着々と準備を進めていることと思います。レコンプログラム(スパイ活動をしない代わりに、チームの活動情報を報告・公開すること。また、他チームからのリクエストにも応じなければならない)が今回も導入されるので、AC75での活動が始まると色々な話題が上がってくるでしょう。AC38の続報が楽しみです。