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【コラム】激闘の和歌山インターハイ2025を振り返る

 毎年夏に開催されているインターハイ。ご存じのように高校生セーラーが最高の目標にする大会で、今年も熱戦が繰り広げられました。今月のコラムでは、高校時代にインターハイ優勝の経歴もあるワカコレーシング(ロンドン五輪470女子日本代表、SailGP日本。シドニー在住)がインターハイを振り返ります。いまでは海外に住んでいても、トラッキングやSNSを通じてレース展開を追えるようになりました。時代は変わりましたね。(BHM編集部)

和歌山で開催されたインターハイ。写真は最終レースまで激闘を演じたILCA男子の加原弦季(左)と遠藤海之流

 8月12日から16日まで、和歌山県で「令和7年度全国高等学校総合体育大会ヨット競技大会(第66回全国高等学校ヨット選手権大会)」が開催されました。(レポート/梶本和歌子 ワカコ・レーシング)

 全国から予選を勝ち抜いた420級男子47艇・女子31艇、ILCA6級男子32艇・女子23艇が集い、難しいコンディションの中で熱戦を繰り広げました。

◎和歌山の海の印象
 和歌山の海面は西側以外を山々に囲まれ、風が乱れやすいことで知られています。突然風が振れて沈してしまうこともあれば、ダウンウインドで無風になり、次の瞬間には後方からブローが襲い一気に順位が入れ替わることもあります。

 今年も全体的に軽風で風の振れが大きく、GPSトラッキング観戦でしたが、観ている側も最後まで気の抜けないレースが多くありました。

インターハイが行われる和歌山県和歌浦湾。山に囲まれているため陸風の時は風が振れる傾向があり、湾の入り口から吹き込む海風は比較的安定しています

◎ILCA6男子 ― 死闘の最終レース
 春のユースワールド予選で激戦となったILCA6級男子ですが、今インターハイでも激しい戦いを見せてくれました。

 初日は加原弦季選手がブラックフラッグで出遅れる波乱の幕開けとなりました。前半は遠藤海之流選手がリードしましたが、後半は加原選手が追い上げて最終レースを前にトップフィニッシュであわや順位を含めて同点となる展開でしたが、最終レグで伏兵の井上航汰選手に逆転を許し、一点差を詰め切らないまま最終レースを迎えることとなりました。

 最終レースでは加原選手が先行するも2回目のアップウインドで遠藤選手が逆転します。ダウンウインドで再び加原選手が詰め寄り、最後のレグではラフィングマッチが展開されました。

 加原選手が風上側からオーバーテイクに成功し、最終レースを先着し、同点となりますが、1位獲得数の差で遠藤選手が2連覇を果たしました。総合3位に入った井上選手も得点差が近く、2人がこれ以上順位を落としていたら、逆転優勝の可能性があり、その意味でも最後まで息を呑む展開でした。

 優勝争いを演じた遠藤選手・加原選手そして若鍋雄大選手の3選手はいずれも神奈川ユース所属です。神奈川ユースは、レーザー級で北京五輪代表で、元JSAFナショナルコーチの飯島洋一コーチが指導してきた強豪チームです。

 近年ではILCA6級でオリンピックキャンペーンを行っている現ナショナルチームの冨部柚三子選手がセーラー兼コーチとして練習に参加したり、昨年からはナクラ17級で東京とパリオリンピック代表の飯束潮吹コーチも指導に加わり、体制が強化されています。そんな中で、3選手が切磋琢磨した事がこの活躍に繋がっていると思います。

一人乗り艇(ILCA6)がインターハイに採用されてから、人数が足りずヨット部が作れなかった高校が、ヨット部を作ってインターハイに出場できるようになりました。上記写真の神奈川の高校は団体ではなく選手個人が主体となって活動しています

◎津工業高校の初制覇
 420級男子では津工業高校が快挙を成し遂げました。霞ヶ浦高校のコンバインド5連覇を阻み、個人、コンバインド(団体)ともに初優勝です。

 霞ヶ浦高校のエース選手の池田航介選手は、OP時代から全日本優勝、OPワールドに出場するなど、輝かしい戦績を持ち、同世代のトップ選手と目される存在です。

 そして霞ヶ浦高校といえば、彼の兄、池田海人選手など名選手を輩出してきた、インターハイ、国スポ、全日本選手権を数多く制してきたセーリングの強豪校です。

 対する津工業高校のエース選手のヘルムの岡田海洋選手は、OP時代からナショナルチームには入っていたものの、池田選手にOP時代ではリードされていたと思います。

 津工業高校顧問の先生の勧誘で、三重県へ。津工業高校は、OBにロサンゼルスオリンピックを目指して活動している黒田浩渡選手などがいますが、インターハイでの優勝はまだありません。昨年の国スポでは岡田海洋/渡邉陽斗が優勝、春のJOCでも優勝し、ユースワールドの代表に選出されるなど、実力を確立してきました。

 最後のインターハイに臨んだ岡田/渡邉組は、初日から安定したスコアを重ね、首位をキープ。最終日は2位の池田航介/浅野悠真を徹底的に抑え、17位と18位のフィニッシュで見事頂点に立ちました。総合3位には1年生であり、岡田選手の弟である岡田 晴と2年生の山住愛翔が霞ヶ浦の2番艇の角森未岬/本多 剛をギリギリかわして表彰台に滑り込み、コンバインドでも優勝となり、快挙を達成しました。

 数年前、船やセールに地元企業のロゴが入っているのを見て「珍しいヨット部だな」と思ったことがあります。外部支援を積極的に取り入れ、海外レース遠征、国内レース遠征など多くのレース参加を実施し、今回の優勝に結びついたのではないでしょうか。

 全国の強豪に仲間入りした津工業高校、来年以降も活躍が楽しみです。

強豪・霞ヶ浦高を従えてフィニッシュラインへ向かう津工業高。津工業高は個人、コンバインドともに初優勝を飾りました

◎種目変更と固定開催の意義
 420級採用から11年、ILCA6級採用から7年が経ちました。国際規格艇の導入によりユースワールドや世界選手権への挑戦がしやすくなり、ILCA6級ではヨット部に所属しなくても個人でインターハイを目指せるようになりました。その結果、国内全体のレベルが確実に上がっていると感じます。

 インターハイのヨット競技は2034年まで和歌山での開催が決定済みです。経費削減やチャーター艇制度による公平性の面でメリットがある一方、高校生にとっては「また同じ場所か」という声もあります。

 私自身、かつては毎年開催地が変わることを楽しみにしていました。異なる海面への対応力もヨット競技の醍醐味のひとつだからです。ただ、近年は異常気象で風の傾向が変わりやすく、「和歌山=同じ条件」とは言い切れなくなっています。固定開催にもまた、経験や戦術の継承という価値があるのかもしれません。

◎未来への期待
 インターハイで輝いた選手の中には、今年12月のユースワールドに出場する選手もいます。和歌山の海で培った力を、世界の舞台でどう発揮するのか。

 そして来年のインターハイでもまた、新たな物語が生まれるでしょう。楽しみにしたいと思います。

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