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世界を目指すHOPEセーラー。第5期HOPE育成プログラム開始

 4年に一度開催されるオリンピック。国際オリンピック委員会(IOC)は、2028年米ロサンゼルス、2032年豪ブリスベンでの開催を発表しています。銀メダルを獲得したパリ五輪の記憶があたらしいセーリングですが、ロス、ブリスベン、またその先の五輪を目指す選手たちは地道な活動を続け、一歩一歩前進しています。(BHM編集部)

バルクヘッドマガジンが日本セーリング連盟2025年度HOPE育成プログラムを取材しました。12〜22歳が参加するこのプログラムはユースワールド、種目別ジュニアワールドの優勝を第一の目標にしています

 日本セーリング連盟オリンピック強化委員会は、オリンピックを目標に国際大会で活躍する選手を育成する「2025年度HOPE育成プログラム」を開始しました。

 このプログラムは、年間を通しておこなわれる合宿形式の集中型トレーニングで、セーリングの理論、競技力の向上、体力強化だけでなく、ルールや気象、食事(栄養)、英会話、メンタルの部分まで「国際大会で勝つための基礎」を学びます。

 2021年にはじまったHOPE育成プログラムは、今年で5期目を迎えました。対象となるのは12〜22歳までの若手選手です。2025年度は公募選考で選ばれた5名の中学生が加入して合計23名が在籍しています。

 HOPE選手を指導するのは、オリンピック強化委員会に所属するJOCナショナルコーチがつとめ、専門分野の指導に応じてその道のスペシャリストがサポートします。

 HOPE育成プログラムの活動拠点となるのは強化拠点となる和歌山、沖縄座間味、鳥取境港です。2月1日から11日まで沖縄座間味で開催されたプログラムをバルクヘッドマガジンが取材しました。合宿の様子を写真と共に紹介します。

合宿時の練習はコンディションによりますが、陸上のフィジカルトレーニングと海上練習の割合は半々といったところ。海上は3、4時間で集中しておこなわれます
座間味島のメリットは海面を選べるところ。フラット海面で練習したいなら古座間味、阿嘉島、慶留間島周辺で走ることができます
国内ではレースしないコンディションでも海外大会では当たり前におこなわれます。座間味の練習で沈することは日常茶飯事。練習するための持久力も必要です
420に乗り始めたばかりの中学生セーラーを指導するのは、パリ五輪で岡田/吉岡のコーチを務めた土居一斗コーチ(リオ五輪470代表)。銀メダリストコーチが大声をあげて指導します
クジラの生息地として知られる座間味島では練習中にクジラのジャンプを目撃することも
練習前後のウォーミングアップ、クールダウンも重要なトレーニングです。正しいやり方を専門のトレーナーが指導します
朝、晩には全員の前で担当者が気象を発表します。合宿期間中には気象担当の岡本気象予報士の講習会がオンラインでおこなわれました
座学ではメンタル、栄養、英会話、ドーピング講習、スポーツマンシップ、法令遵守、社会的責任等を学ぶインテグリティ講習もあります。また、ルールは毎日おこなわれ、毎朝小テストが実施されます
悪天候で海に出られない日などには16kmの長距離ランがおこなわれタイムを計ります。島内はクルマの往来も少なく効率の良いトレーニングができます
ローイングマシンなどトレーニング機材も充実してきました。こうした機材もトレーナーの指示で正しい使い方を学びます
朝昼晩の食事は栄養士が調理してくれます(お昼のおにぎりは自分たちで用意します)。体重増加の選手、減量など選手に合わせた食事です

◎バルクヘッドマガジンが考える沖縄座間味島でトレーニングする意味

 沖縄座間味島は日本セーリング界の伝説、小松一憲さん(モントリオール、ソウル、バルセロナ、アトランタ五輪日本代表、五輪監督、五輪コーチ、現早稲田大コーチ。1993-94年ウイットブレット世界一周レース優勝)の現役時代から五輪を目指す日本選手のセーリング拠点として知られてきました。レースの少ない冬場にこの地でトレーニングする理由は単純明快で、どこよりも厳しい環境で練習できるからです。

 バルクヘッドマガジンは2017年頃から座間味島でおこなわれている日本ナショナルチームを取材してきました。ちょうどリオ五輪が終わり東京五輪へ向かい始めた頃です。日本470の強化合宿が中心でしたが、そのハードな練習内容と大波と強風のなかでセーリングする様子に度肝を抜かれたのを覚えています。

 透明度の高い海と青空が広がる座間味島(慶良間諸島)は、クジラ、ウミガメ、そしてサンゴが生きる自然に恵まれた国立公園です。この場所は、五輪を目指す日本チームにとってこの上ないトレーニングの舞台となっています。

 日本の470が世界選手権でメダル(2018年吉田 愛/吉岡美帆=金、磯崎哲也/高柳 彬=銀、2019年吉田/吉岡=銀、2023年岡田奎樹/吉岡美帆=金、磯崎哲也/関友里恵=銅、2024年岡田/吉岡=銅)を獲得した背景には、座間味島を含む厳しい環境で、だれよりも練習をしてきたという土台があるのです。

 12歳から22歳までの選手が参加するHOPE育成プログラムは中・高・大学生が中心です。まだ、セーリング技術は未熟であり身体のできあがっていない時期でもあります。海上練習だけでなく陸上でおこなわれているフィジカルトレーニングも重要になるのは言うまでもありません。

 HOPE選手は、座間味の強風、大波のなかでパフォーマンスを出すまでのセーリング技術や体力はまだ足りていないのが現状です。それを身につけるためのトレーニング、いわばセーリングに必要な最低限の技術、体力、知識を身につけ、世界で勝つための強い意識を持つことがHOPE育成プログラムの目的のひとつだと感じています。

 HOPE育成プログラムの活動は、短期間で結果がでるものではありません。いま12歳のHOPE選手は10年後、20年後にも活躍する可能があり、その成長過程にあるのです。座間味で経験した強風、大波は、彼らを大きく成長させてくれるでしょう。バルクヘッドマガジンは、だれでもできることではない目標に向かって活動するHOPE選手を応援しています。

国立公園に指定される座間味島周辺はダイビングのメッカです。上空からはこんなに美しい海が広がりますが、練習に集中している選手たちは景色を見ている余裕はなさそうです
2月におこなわれた座間味合宿に参加したHOPE選手。大会や遠征などがあり、途中で抜ける選手もいますが、合宿形式で練習することでお互いを刺激しあって成長しています
2025年度HOPE選手一覧 ※2025年2月現在の名簿です
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