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【コラム】ニュージーランド・モスワールドに参加して

 1月4〜9日までニュージーランド・マンリーで開催された「2024モス級世界選手権」。この大会に出場し、女子3位になったワカコ・レーシング/梶本和歌子選手のレポートです。世界の変化は想像以上のスピードで進んでいるようですね。日本にいては想像できないびっくりレポートを紹介します。(BHM編集部)

モスワールドに出場した日本選手一同。左から後藤、梶本、杉山、行則、岡田、西山の各選手

◎時代が変わった?モスワールドに参加して感じた3つの驚き

 夏のニュージーランドは日差しが注ぐと暑く感じましたが、日が陰ったり、パラパラと雨が降ったりと天候が目まぐるしく変わる、まるでイギリスの初夏ととても似ている気候でした。(レポート/梶本和歌子 ワカコ・レーシング)

 最初に驚いたのは参加者が若いという事です。私は過去に2014年のヘーリング大会から2017年ガルダ大会まで参加していたのですが、その頃は30〜50代が多い印象でした。今回は18歳から30歳までの年齢が多く、参加選手の平均年齢が一気に若くなりました。

 次に驚いたのは、参加選手の半分以上はMackay Boats社の最新作Bieker V3だったことです。Mackayのあるニュージーランドで開催された事が理由に感じますが、新艇ばかり、中には現地で受け取ったセーラもいて本当に驚きました。調べてみると、参加艇の半分はこのV3でした。

 若いのにどうやって買うのかな、なんて思ってロバート・フライさんに質問したところ、『裕福な親御さんが買うんだよ』という返答でした。いろいろな意味で恐るべき、若きモスセーラー達(オリンピック組も多く含まれます)です。

 そして驚きの3つ目は、サポートボートの多さです。以前はモスワールドでサポートボートを付ける人はほんの数名だったと記憶していたのですが、今年は20艇を超えていました。

 これはもうオリンピッククラスのサポート体制だなと思うほどです。そんなことを言っている私も、ニュージーランド在住の岡田爽良選手と小泉維吹さんに助けられてサポートボートを借りることができたので、海上サポートしてもらいました。

 強風シリーズだった今大会を振り返ると、初日にマストを折ってレスキューされたり、いてくれて良かった思う反面、参加するコストがさらに高くなるのはどうなんだろうと複雑な気持ちです。

年始にニュージーランド・マンリー(オークランド北部)で開催されたモスワールド2024。強風シリーズとなった今回のワールドでは若手選手が大活躍しました

◎突風と共に船が勝手に起きたと同時にマストが折れる

 世界選手権は1月3日の開会式に始まり、1月4日から6日まで予選シリーズが行われました。風の予報は通りで強風が吹き付けました。

 基本的に晴れているのですが、雨雲が来るとパラっと(たまにザッと)雨が降るような天候です。雨雲が来ると雨が降るのと同時に風も吹き上がるパターンで、暗い雲が風上側から見えてくると、グッと雨と強風に対して身構えるような気持ちで望んでいました。

 大会初日、20ノットオーバーで1レース目を終えた後に雨雲が来てさらに風が強まり、この雨雲が通り過ぎるまでAPが掲揚されたので、私は船を横倒しした状態で次のスタートを待っていました。

 そして、突風と共に船が勝手に起きたと同時にマストが折れてしまいました。さいわいサポートボートがいたので、なんとか帰着するものの2レース目はリタイアとなりました。

 この日は強風で、Aエリアは2レース、Bエリアは1レースのみを行い終了となりました。

 私はスペアマストを持っていなかったので、マストを売ってくれる人を探しますが、ニュージーランドのメーカーC-Tech社のマストは売り切れで買うことができず、また同じ型のマストを持っている人も見つからず万事休すかと思いました。

 ダメもとで隣に船を置いていたロバート・グリーンホージ選手にマストに話をしてみたところ、私のマストを使いなさいと快く貸してくれました。さらに、CSTの新しいAirdropというタイプのマストだったので、私のブームが合わないのも承知していて、ブームも一緒に貸してくれました。

 彼はその日の1レース目の最中にヒザをひねってしまい、不幸にもそれがとても状態が悪く、今シリーズをリタイアすることを決めていたようでした。

 思いがけないオファーと、感謝を胸に再びレースに復帰できました。この時、岡田爽良選手もブームエンドが割れて壊してしまい、私と同じように2レース目がリタイアとなりました。

 2日目も相変わらず強風が吹き続けます。前日に同じレース数が行えなかったため、フリートは同じままで行われました。

 私自身、この2日目からやっと強風のボートスピードに対して攻めて走れるようになりました。毎日毎日同じコンディションだからということが影響しているのかもしれません。

 ダウンウインドで平均スピード28ノットが簡単に出る中でセーリングをコントロールするのは船に対する信頼度や自分のセーリング技術の正確さ、恐怖心の克服、周囲に対する判断スピード、何より自分を信じて走らせるなどレースをしていくと培われていくものだなと実感しました。

 若い世代の選手たちは、ワールド前哨戦のオセアニア選手権2日間で得た経験でワールド初日にはうまく乗りこなせるようになっていて、技術的に伸びているように感じました。私はこのレース感の成長スピードが歳とともに遅くなっていると感じ、若い世代にうらやましさを感じました。

レース初日にマストを折った私(梶本和歌子)。総合女子3位でした

◎今までの常識を覆すスピードでユース選手がトップを独占

 予選最終日となる3日目は、スタート時間が早められた事と、若干風が弱くなり強風レガッタで周りも慣れてきて高速レースがさらに加速したと感じました。

 2日目にマティアス・クーツ選手が37ノット越えを叩き出したと思ったら、オーストラリアのハリー・プライス選手が39ノット(約時速70キロ)!を叩き出し、今までの常識を覆すほどのスピードでトップの選手たちはレースしていました。

 私はこの3日目に、風のシフトが上手く噛み合って上マークを4番で回航したものの、あっという間にダウンウインドで置いていかれました。

 速さの理由は、先月にもお話ししていたスティール製バーティカル(編注:メイン・ラダーフォイルを支える船体から垂直に伸びたボード。現在はカーボン製が主流)の登場だと思われます。トップの選手はほぼそのメイン・バーティカルを使っており、テストでは平均スピードが数ノットも速くなったとマティアス・クーツは話していました。

 また、行則啓太選手の話ではスピードが速くなったことと、アップウインドの角度も良くなったと体感で感じていたようです。さらに、マティアスを含む一部の選手はラダー・バーティカルもスティール製を使っていて、こちらに関してはあまり速さに影響しているようには感じていないと言っていました。

 その理由は、ラダー・バーティカルはすでに現行のカーボン製でも細くなっているからあまりスピード差が生まれない事と、それ以上に細くしたらラダーがストールしやすくなるからということでした。

行則選手(写真右)のメイン・バーティカルはスティール製です
杉山選手の出艇の様子。ウィングにサイドトロリーを付けてこの状態で船を置くエリアから浜まで約400メートルの距離を移動して出艇、着岸をしていました

◎トップ10のうち7位までユース選手。今後の活躍がたのしみです

 予選が終わり、1、2位はまたもマティアス・クーツとジェイク・パイの2人、女子はハティー・ロジャースが37位でギリギリゴールドフリートに滑り込み、この時点で女子優勝を決めました。

 レイデイを挟んで、1月8、9日決勝シリーズが行われました。リードするマティアスは決勝1レース目にサメにヒットしてラダー・バーティカルを折るトラブルでリタイア。

 対してジェイクはトップを取りその差を縮めていくのかと思いましたが、マティアスは一度帰着してからフォイルを変えてレースに復帰し安定したレースを展開しました。

 最終日は今までとは打って変わって北東から7〜12ノット軽風となり、マティアスとジェイクの2人の優勝争いに絞られ、ジェイクが軽風が得意なのでトップに迫れるかどうかという戦いでした。

 最終日のマティアスは安定した成績で見事に優勝。19歳という最年少でのモスワールド優勝となりました。2位がジェイク・パイ、3位には最終日に見事な走りをしたオーストラリアのオット・ヘンリーが入りました。

 3人ともユースカテゴリーであり、トップ10のうち、上位7位までユース選手という結果になりました。昨年のユースAC40の活動や49er級での活動も多くの選手がしており、この中からオリンピック・メダリスト、ACセーラーへ成長していくであろう彼らの今後が楽しみです。

 日本チームは残念ながら、全員シルバーフリートになりましたが、行則選手はシルバーフリートから走りが非常に安定して上位を獲得し、シルバーフリート2位、岡田選手はハンディキャップ表彰2位となりました。

 私自身はシルバーフリートでニコル・ファン・デル・フェルデンとシネム・カートベイと抜きつ抜かれつの結果、ニコルとシネムの間の女子3位となりました。

 そして、忘れることなかれ、私と後藤選手(編注:2人はロンドン五輪前、ナクラ17級でペアを組んでいました)との熱いバトルは、なんと最終レース前まで同点で迎え、最終レースを私の2つ前に先着した後藤選手に軍配が上がりました。後藤さん、次回ガルダワールドも行きましょう!

 最後に、私のようなヘッポコモス乗りにも惜しげなく情報を教えてくれて練習セッションにも混ぜてくれるし、困っている時にマスト&ブームまで貸してくれたシドニーのモス仲間に感謝したいと思います。

 次回のモスワールドは、7月にイタリア・ガルダ湖で開催されます。

優勝マティアス、2位ジェイク、3位オット、凄すぎるユース世代。これから先の彼らの成長が楽しみで仕方がないです
ディエゴ・ボティン(パリ五輪49er金、SailGPスペイン)。エクスプロダーで出場し、次のガルダにはさらに速くなって帰ってくることでしょう
女子優勝のハティーロジャース(GBR)。2021年のSailGPインスパイア大会で女子優勝、昨年のユースAC40、女子AC40のチームに参加しました
私(梶本)と現役ビルダーの古谷さん(82歳)。モスワールドに来ると次の船を作る新しいアイディアがどんどん生まれてきて楽しいそうです。帰国したら次の船に着手するそう。楽しみですね!
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