死亡事故発生。大荒れとなったシドニー・ホバートを経験して
「ロレックス シドニー・ホバート・ヨットレース2024」は、過酷な気象条件と悲劇的な事故により、厳しい結果を生んだ大会となりました。レース中には2名の死亡事故が発生し、さらに多くの艇がダメージを受けてリタイア。最終的には104艇中30艇がレースを途中で断念するという事態に至りました。(レポート/守屋有紗)
◎シドニー・ホバート・ヨットレースのスタート
2024年12月26日、クリスマス翌日の午後1時にシドニーを出発したこのレースは、風速30~40ノットの強風予報の中でスタートを迎えました。
104艇が4つのスタートラインに分かれて並び、その周辺にはオーストラリア最大のヨットレースを観戦するために多くのヨットやボートが集まっていました。陸上の丘にも観客が詰めかけ、上空にはテレビ中継用のヘリコプターやドローンが飛び交い、地上波での放送も行われていました。
私自身は今年が2回目の参加で、昨年程の緊張はありませんでしたが、やはりこのレースは他のレースとは一線を画し、海上には普段とは異なる熱気と緊張感が満ちていました。
◎ナビゲーターとしての役割
今年はナビゲーターとして参加することになり、戦略を決定する重要なポジションを担いました。艇のエントリーリストにはスキッパーの名前の後にナビゲーターとして私の名前も記載され、昨年のレースに参加する、という目標から新たなステップに進んだことに嬉しさを感じたと同時に、チームの勝敗を分ける重要な役割を担っているという責任感も強く感じました。
◎天候と海況の過酷さ。無線から「メーデー」の呼びかけ
レース開始後から気象条件は段々と厳しくなり、初日の夜には30〜40ノットの強風が続き、波高2~3メートル、波間隔は短く、艇は上下に激しく揺れ続けました。風はますます強まり、太平洋の荒れる海況の中、多くの艇がスピネーカーを下ろし、メインセールとジブだけでサバイバルモードに入りました。
その夜、無線で「メーデー」(救助を要請する遭難信号)の呼びかけが響き渡りました。クルーがブームに打たれ意識を失ったという報告があり、緊迫した状況に陥りました。
その後、さらに別の艇からもメーデーの信号が発せられました。2件目の事故では、メインシートに打たれたクルーが体を飛ばされ、ウインチに頭をぶつけたことが原因でした。残念ながら、いずれの事故でも命が失われました。
その後も、落水事故や多くの艇の損傷、クルーの負傷が続き、数多くの艇がリタイアを余儀なくされました。ラインオーナー最有力候補だった100フィートスーパーマキシの〈Master Lock Comanche〉はメインセールの損傷でリタイア。優勝候補の72フィートマキシの〈URM Group〉(RP72)はディスマストし、昨年の優勝艇〈Alive〉(RP66)もエンジントラブルによりリタイアとなりました。
◎〈Mondo〉無念のリタイア
私が乗っていた〈Mondo〉(Sydney38)は、初日の強風ダウンウインド、2日目の強風アップウインド、3日目の強風リーチングの後、難関のバス海峡を越え、優勝争いの良い位置にいました。
でも、4日目に入った直後の夜中、依然として30ノット以上が続く中、サイドステイ(D1)が壊れ、レースの継続が不可能となり、リタイアを余儀なくされました。
タスマニア島の50マイル沖で、リタイアの手続きと緊急入港の手配を行いました。目標としていたクラス優勝を達成できなかったことは非常に残念でしたが、無事に緊急入港を経て、ホバートに入港しました。
◎レース結果と2名の追悼
レースの最終的な結果として、ラインオナーには昨年に続き100フィートの〈LawConnect〉が、IRC総合優勝は〈Celestial V70〉(Volvo Open 70)が輝きました。特に、〈Celestial V70〉はCYCA(Cruising Yacht Club of Australia)のコモドアSam Haynesが今回のレースでチャーターした艇で、2022年の自身のTP52での優勝に続いての成績となりました。
フィニッシュ地のホバートでは、12月31日、表彰式の前に、レース中に命を落とした2名のセーラーを追悼する式典が行われました。シドニー・ホバートレースで死者が出たのは、1998年の悲劇により6名の死者、5艇の沈没、60艇以上のリタイアが発生した以来となり、参加者全員にとって深い悲しみと警鐘を鳴らす結果となりました。
◎2年目のシドニー・ホバートレースを終えて
2年目のシドニーホバートを終え、改めて学んだのは、オフショアレースにおける準備の重要性と、それでも自然の力の前では思い通りにいかないこともある、という現実です。
今年は、私が乗艇した〈Mondo〉チームと〈Master Lock Comanche〉の2つのチームの準備に携わりました。〈Comanche〉では毎週のレースに乗り、整備や調整にも参加し、最高峰のメンバーとともに万全の準備を進めてきました。世界中のトップセーラーが集まりレースレコードの達成が期待される中、無念のリタイアとなりました。
〈Mondo〉では、数カ月にわたるシリーズレースを通じて、艇の準備はもちろん、クルーの連携や私自身はチームのナビゲーターとしての調整も重ねましたが、目標のクラス優勝を果たせず、結果はリタイアとなりました。
また、セールメーカーとして多くの艇の準備にも携わり、シドニーホバートという舞台に向けて、いかに多くの人々が時間と労力、情熱を注いでいるかを目の当たりにしました。それだけの努力をしても、自然相手のスポーツには予想を超える厳しさがある、その現実を改めて痛感させられた大会でもありました。
どれだけ準備をしても、自然の力の前では無力さを感じる瞬間があります。それでも私たちは前を向き、次のレースに向けて挑戦を続けます。結果を目指すのはもちろんですが、挑み続けることでしか得られない学びや経験があり、それこそがオフショアレースの本質だと感じています。
この挑戦を通じて自分をさらに成長させ、新たな舞台に立つために、これからも努力を重ねていきます。
- シドニー・ホバート・ヨットレース(公式)https://rolexsydneyhobart.com
- シドニー・ホバート・ヨットレース2024の見どころを紹介します(BHM記事)https://bulkhead.jp/2024/12/108478/