ヴァンデ・グローブに出場する白石康次郎に聞いてみよう!(2)
11月10日、世界一周「ヴァンデ・グローブ」がスタートします。世界で最も過酷と言われるこのヨットレースに白石康次郎〈DMG MORI Global One〉が出場します。今回は、前回に引き続きバルクヘッドマガジンの読者から集めた質問を白石選手にぶつけてみました。(BHM編集部)
◼︎◼︎◼︎ヨットがうまい人に共通しているのことはありますか?◼︎◼︎◼︎
編集長:前回に続きまして白石さんへ質問です。「ヨットがうまい人に共通しているのことはありますか?」
白石:うーん、センスですね。うまいなと思う人って、同じ風を受けていても差がでるし、初めて乗っても差が出ることがある。どうしてセンスを感じるのかというとぼくがセンスないから。フォガロ(ベネトウ・フィガロ3で走るワンデザインヨットレース)でレースした時、速い選手ってアップウインドでも速いんだよね。オリンピック選手だって、同じ船なのにあんなに差がつくじゃない。
編集長:オリンピック選手は同じ船と思えないぐらい速いですね。バルクヘッド読者の感覚で言う「うまい」はヨットの操船が上手な人、ヨットレースが上手な人なのかもしれません。でも、海や船のうまいには、ほかにもあると思います。ヨットに乗って遭難した時、どんなことがあっても生き延びる人は究極の上級者ですよね。
白石:ぼくの場合はセンスで勝負できないから、持ち前のエンジニアの素質で勝負しています。リタイア率が低い。これまでレースでフィニッシュしていないのは1回ぐらいじゃないかな。どんなトラブルにでも対処できる。センスがないからそれ以上は努力です。
編集長:ヨット上手つながりでもうひとつ質問です。「白石さんはオリンピックで金メダルを取りたいと思ったことありますか? もし出場するならどんな競技で出場してみたいですか?」
白石:ゴルフだよ。ヨットじゃかなわないから。マスターズに出たいんだけど招待状が届かないんだよね。住所変更したからな(笑)
◼︎◼︎◼︎夢をかなえるために大切なことは?◼︎◼︎◼︎
編集長:次の質問です。「夢を見つけるために大切なことはなんですか? 夢をかなえるために大切なこと」とは違いますか?
白石:違います。夢を見つけることっていうのは自分を知ることなんで。自分を知るためには2つ方法があって1つは瞑想(めいそう)ですね。目って外に向かってついているから内側が見えないんですよね。だから一番いいのは瞑想です。もうひとつはいろんなことを経験すること。自分は何が好きか分からない、でも止まっていても分からない。どんなきっかけでもいいから、自分がやってみたいと思ったことにとにかくチャレンジしてみる。その中で「ああこれはワクワクする」とか、「これは面白そう」とかっていうのが現れる。それが夢なんです。
編集長:夢を見つけるためには瞑想とチャレンジ?
白石:今の世界で夢が見つかってないわけだから、いろんな世界へ勇気を出して踏み出す。こういうことで夢は見つかるんじゃないかな。
編集長:それでは夢をかなえるためには、どうたらいいんでしょう?
白石:技能と忍耐と仲間が必要だよね。もう行く方向が決まったなら、それを叶えるための技能と忍耐も少しだけ必要になる。なぜかといえば、すぐに上達できないからね。音楽にしても最初はドレミから始まる。基礎や体力も必要になる。資金についても、いきなりお金が湧いてくるわけじゃない。いろんな人に協力してもらわなければならない。人に信頼してもらうには時間が必要になる。待つことも大事です。
編集長:白石さんが話すとリアリティがハンパないです。20代の頃からヴァンデ・グローブに出るんだと言い続けてたのを知っていますから。
白石:世界一周なんて忍耐だけで耐えきれる代物じゃないです。忍耐と楽しみを見つけないといけないから。でも楽しみの方が力が大きい。ぼくの世界一周はヨットのセンスも金もなく、英語も話せないし、船酔いも激しい。これだけセンスのない人間が世界のトップレースに出続けられるのはなぜかというと、ワクワクするものがあるからだよね。普通の人は30年も40年も耐えられない。
編集長:続けることが大事なんですか?
白石:いや、続けなくていいよ。ダメだと思ったらあきらめる。ただ、ぼくの場合、目標はぶれなかったな。
◼︎◼︎◼︎最近、注目している人はいますか?◼︎◼︎◼︎
編集長:次の質問です。白石さんが「最近注目している人はいますか?」。最近、出会った人とか、交友関係でエネルギーをもらった人とか、どなたかいますか?
白石:会ったわけじゃないんだけど、大谷翔平選手はすごいなと思います。ぼくが興味を持っているのは、野球の実績ではなくて、、、これまで誰の言うことを聞かなかったということ。
編集長:MLBでピッチャーもバッターでも結果を残している大谷選手ですよね?
白石:きっと、あらゆる人から二刀流をやめろって言われてたんだろうと思う。でも、彼はやめなかった。恩師だろうがコーチだろうが、いろんな人に反対されても、これをやりたい、と自分の信念に従った。あれだけの身体と才能があるんだから、参考になる人ではないんだけれど、一番評価してるのは、ホントに誰の言うことも聞かず自分のやりたいことをやり続けたこと。それが一番かな。
編集長:他人の言うことをどこかで聞いちゃっていたら、今の大谷選手はないですからね。
白石:ないよね。投手でもできるしバッターでも立派。でも彼の真骨頂っていうのはツーウエイだよね。しかも両方で成績を出す。二兎を追う者は一兎をも得ず、という考え方がほとんどだと思うんだけど。だから、両方でいい結果を出す、というのはAかBかどちらかを選ばなきゃいけない、という常識を破った人なんだよね。その根本の常識を破ったんだよね。だから誰の言うことも聞かない。そこを貫いたのが素晴らしい。
編集長:人の言うことを聞かない、というのも難しいですよね。
白石:自分を信じる、って言うとキレイにまとまるんだけど、彼の場合は、自分を信じてたとしても、ものすごい雑音があったはず。だって、どっちかだけでも通用する選手なんだから。おまえは投手として成功する、バッターなら通用する。これを言う人は必ずどっちかじゃなきゃダメって言う人だよね。両方でトップになれるって言う人はいなかったと思う。そこがおもしろなと思います。
◼︎◼︎◼︎航海していて実際に環境問題を感じることはありますか?◼︎◼︎◼︎
編集長:「航海していて実際に環境問題を感じることはありますか?」。むかしと違ってきているとか。環境の変化とか。
白石:ぼくは昭和42年に東京で生まれて、45年に鎌倉に引っ越して来たんだけど、その頃の海は最悪でした。ものすごい汚かったです。鎌倉の海はまっ茶っちゃでした。黒い海しか想像できないし、小学校で遊んでると光化学スモッグで肺が苦しくなって。川崎にはぜんそくがあり、多摩川は油が泡を吹いてた、という状態だったんです。
編集長:鎌倉の海も汚れていたんですね。
白石:大きく変化したのは、やっぱり海がきれいになったことかな。あんなにきれいな今の東京湾を見たことないですよ。それは大きな変化で、すごく良くなったと思う。でも、今はペットボトルが一番手ごわい。今の公害は無味無臭。見えないし、気が付いたときには相当やばい。「深海6500」に乗ったパイロットが海底でスーパーの買い物袋を見ました、って言ってたからね。でも臭くないし油がつくわけでもないし。それと今、気象も気になっています。
編集長:どんなことでしょう?
白石:日本は北緯で20度くらい下がってるようなイメージがある。グアム、サイパンあたり。ゲリラ豪雨、夏の気温とスコール、ホントにフィリピンとかあっちの方に日本があるんじゃないかと思うくらい。今年の台風のコースもそうだんだけど。だから今までの常識で測れないものになってきている。今までのデータが役に立たない。
編集長:オフショアヨットレースでも感じていることなんでしょうか。
白石:今年6月のニューヨーク〜ヴァンデ(大西洋横断レース)はものすごくまれに見る気象だった。だから、これからの風、気象は今までにないことが起きる。毎年過去のデータが役に立たないと思う。すさまじいスピードで変化している。そういうことは感じています。それはもう、40年、45年近く海に出ていて、その変化はすごく感じます。
◼︎◼︎◼︎この先、ずっとヨットの冒険を続けていきますか?◼︎◼︎◼︎
編集長:では、最後の質問です。「この先、ずっとヨットの冒険を続けていきますか?」
白石:はい、冒険は続けます。ただ形が変っていくと思います。ぼくはDMGMORIセーリングチームの選手ですが、いずれクルーになったりサポートに回ったり、あらゆる可能性があります。ただ、これからもワクワクするような冒険を続けていきたいと思ってます。
編集長:今回は長い時間、質問に答えてくれてありがとうございました。ヴァンデ・グローブまであと1カ月です。安全でたのしい航海になることを祈っています!
- ヴァンデ・グローブに出場する白石康次郎に聞いてみよう!(1)https://bulkhead.jp/2024/08/106114/