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【コラム】絶賛開催中!アメリカズカップが面白くなってきた

 みなさん、アメリカズカップ観てますか? おもしろくなってきましたね。ただいま防衛艇ニュージーランドの対戦相手を決める予選(ルイ・ヴィトン・カップ)がおこなわれています。これまでの予選の結果、フランス、スイス、アメリカが敗退。9月26日からイタリアとイギリスの直接対決で挑戦艇が決まります。今回のワカコ・レーシングでは、これまでのルイ・ヴィトン・カップを振り返ります。そして、挑戦艇はどちらに? 編集長はイギリス推しです。ベンもディランも五輪時代によく撮影していたので。がんばれ!(BHM編集部)

アメリカズカップ挑戦艇を決めるルイ・ヴィトン・カップ決勝で戦うイギリスvsイタリア(左からディラン・フレッチャー、ベン・エインズリー、ジミー・スピットヒル、フランチェスコ・ブルーニ)

 8月29日からスペイン・バルセロナで「第37回アメリカズカップ」の挑戦者を決める「ルイ・ヴィトン・カップ」(LVC)が始まっています。今回は9月26日から始まるLVCファイナル前にセミファイナルまでを振り返っておきたいと思います。(レポート/梶本和歌子 ワカコ・レーシング)

◎海のF1と本物のF1
 以前からアメリカズカップは海のF1と言われていますが、今大会ではイネオス・ブリタニア(イギリス)とアリンギ・レッドブル・レーシング(スイス)の2チームが本物のF1チームと提携するほど必要な技術やそのレベルが近づいてきています。特にメルセデスF1チームと提携したイネオスのデザインは100%メルセデスF1チームの本拠地であるイギリスのブラックリーで行われたと言われるほどです。

F1チームと提携するアリンギ・レッドブル・レーシングは準決勝敗退。準決勝ではイギリスに2勝。金メダル軍団に大健闘したと思います(編集長)

◎AC75のパフォーマンスが更にアップ
 今回利用されるAC75のクラスルールは前回オークランド大会から更新されてバージョン2.0となっています。クルー数が11人から8人と減り、総重量も約7.5トンから約6トンへ約500キロ軽量化されている一方で、最大ウイングスパンが4mから4.5mへ増加されているため、特に軽風でのパフォーマンスが目に見えて向上しています。
 最高速自体は50ノット程度で前回とさほど変わりませんが、アップウインドで40ノットに届くパフォーマンスは驚異的です。風域によっては風速の4倍の艇速を叩き出します。
 フォイルパッケージで言うと、イタリアとニュージーランドは他のチームより大きめのフォイルを選択していて軽風域・アップウインド重視、逆に中風域以上のダウンウインドになると苦戦しているような印象です。

第37回アメリカズカップはスペイン・バルセロナで開催されています。レース海面はサグラダ・ファミリア教会の目の前です

◎470級出身のヘルムが久々に登場
 今大会ではオリエンタル・エクスプレス(フランス)のケビン・ペポネ(2018年ワールドチャンピオン)、ニューヨーク・ヨットクラブ・アメリカン・マジック(アメリカ)のルーカス・カラブレーゼ(2012年ロンドンオリンピック銅メダリスト)の2人が470級出身者としては久々にヘルムを担当しました。
 長く同級で活動していた私としてはなんとも感慨深いです。2007年にオラクルのクリス・ディクソンとアブレア・チャレンジのティエリー・ペポネ(ケビンのおじさん)がヘルムを担当して以来かと思います。

準決勝から怪我をしたポール・グッディソンに代わってヘルムを担当したルーカス・カラブレーゼ(ARG)。東京五輪前にはアメリカ470チームで江の島に来ていました

◎最初の予想はイタリアの圧勝でしたが…
 LVCが始まるに行われたプレミナリーレガッタ(大会前の練習レース)を見た時点では、イタリアの圧勝だろうと思っていました。しかし、2度のラウンドロビンを重ねて行くうちに、イギリスのパフォーマンスが改善して行きました。
 2回目のラウンドロビンの最終日にイタリアのスターボード側のフォイルが降りなくなる機材トラブルで不戦敗を喫し、イギリスとイタリアの通算成績が6勝2敗のタイとなりセールオフとなりました。
 そこでもイギリスがスタートからリードして勝ったため、ラウンドロビンはイギリスが1位で通過となり、セミファイナルの相手を選べる権利を獲得してスイスを指名。セミファイナルのもうひと組は自動的にイタリアとアメリカが対戦する事となりました。

レースを重ねるにつれて艇の特長や有利不利が見えてきました。今回のアメリカズカップ艇は前回よりも非常に近いパフォーマンスがあり、白熱した戦いが繰り広げられています

◎強さを見せたイギリス、接戦の末勝ち残ったイタリア
 スイスを指名して戦うことになったイギリスは、スタート前の攻防で攻撃を仕掛けた際に一度ぶつかりかけたのを除くと危なげなく4連勝。後半の風が不安定で風が弱いコンディションの中、セール選択ミス(風が上がってくると思い強風用のセールを使っていた)などで2敗したものの、難なく5勝目をあげてファイナルに勝ち進みました。

 アメリカと戦う事となったイタリアは、毎レース接戦の手に汗握る展開で熱い戦いを繰り広げました。特に4レース目のフィニッシュライン手前の最後のクロッシングは、スターボード艇であったアメリカの前を僅かにリードしていたイタリアが、ブルーニの「行ける」のコールでクロッシングした時には私もドキドキしたほどです。

 「あぁこれでアメリカも終わりか…」と思ったところから、アメリカは怒涛の3連勝を見せました。
 3勝目はイタリアの機材トラブルによるものです。4レグ目のダウンウインドをイタリアがポートタックで走り、アメリカの前をクロッシングした時に、突然凄い音と共にメインセールのリーチが緩み、ハルがタッチダウンして止まってしまいました。
 メインセールのクルー部分についているアウトホール調整用のトラックが脱落してしまったようです。こういってはなんですが、こういう機材トラブルが起きるのも極限まで軽量化を測っているアメリカズカップならではないでしょうか。

イタリアがアウトホールのトラック部分が壊れ、タッチダウンしてしまう瞬間はこちら。ホントすごい音です

 次の日にはしっかりと直してレースに出場したイタリアは、スタートに成功したアメリカにリードを許しますが、1レグでの2回目のリーバウタックでタックのタイミングが遅くなり、風下にイタリアにオーバーラップされてたまらず逃げタックを打ったことで勝負を決めました。イタリアが5勝3敗でファイナルに進む事となりました。

LVCファイナルはイギリスとイタリア(写真)の戦いに。この勝者がニュージーランドと戦います

◎LVCファイナルは前回に続きイギリス対イタリア
 9月26日から始まるLVCファイナルはオークランド大会と同じイギリスとイタリアの顔合わせとなります。今回は両者のボート性能は近そうなので、プレスタートから鎬を削る戦いがみられそうです。
 「ピットブル」の異名をもつ攻撃的なジミー・スピットヒルと元ワールド・マッチレース・ツアー王者のベン・エインズリーの対決なので、期待せずにはいられません。
 13戦中先に9勝をあげたチームが10月12日から行われるアメリカズカップ本戦で、防衛者のエミレーツ・チーム・ニュージランドと対戦することになります。

◎ワカコレーシングは現地に行くよ
 10月12日から始まるアメリカズカップ本戦は現地に行って観戦する予定にしています。わたし自身、こんなにもアメリカズカップセーラーの知り合い(オリンピックサイクルやSailGPを通じて勝手に知り合いになっていますが!)がいる大会はなかなかないだろうなぁと感じ、この機会にアメリカズカップを一度は実際に見てみたいと思い、現地に行く予定です。
 10月のコラムをお楽しみに!!