【コラム】元五輪470日本代表が振り返るパリ五輪(2)
日本が銀メダルを獲得したパリ五輪。ワカコ・レーシングの梶本和歌子さん(ロンドン五輪470代表。シドニー在住。いまは世界選手権に向けてビーカーモスを特訓中)にパリ五輪を振り返ってもらいました。前編と合わせてお読みください。(BHM編集部)
◎ママでもある女性選手の活躍がうれしかった
49erFX級のフランスチーム(Sarah Steyaert / Charline Picon)はベテランでもあり、クルーの選手は東京オリンピックRSX級銀メダルから転向し、2人ともママでの挑戦でした。軽風で抜群の走りをして、その貯金で最後までなんとか逃げ切り銅メダルを獲得しました。(レポート/梶本和歌子 ワカコ・レーシング)
またILCA6ではオランダのマリット(Marit Bouwmeester)が圧倒的なパフォーマンスで予選シリーズで東京オリンピック金メダリストのデンマーク、アンマリー(Anne-Marie Rindom)を下して金メダルを確定。
彼女はロンドン銀、リオ金、東京銅、そして出産を経てパリ金メダル。4大会連続メダル獲得に加えて、セーリング女子で最高の成績を持つ選手となりました。
この3人の選手は30代後半の選手たちで、ママでも活躍できると言う事を証明してくれました。ベテランの女性選手の活躍は次に続く選手の励ましにもなりますね。何より、同世代の私にとって、身体能力の維持や家族の事であったり、さまざまな事が想像できるので本当にすごいことだなと思いました。
◎フィニッシュラインを間違えてしまった49erFXのドラマ
パリ五輪の49erFXは、オランダ、スウェーデンのどちらが金メダルを取るか?が見どころのでした。
メダルレースではオランダがトップ、2位がアメリカでしたが、2下のマークを回って最後にリーチングフィニッシュでしたが、リーチングレグを走らずにそこでフィニッシュと思ってしまい、止まってしまいます。
後続の船は正規のコースをまわってフィニッシュ。それを見て慌てて走り出し、オランダはなんとか4位でフィニッシュして金メダルを獲得しました。
でも本人達は、定かではなく、フィニッシュしてコーチボートにつけた後も不安な顔でコーチに聞き、コーチがSIらしき書類を取り出し確認している姿がなんともハラハラしました。
オランダの選手も喜んでいいのか泣いたらいいのかどっちかわからない時間が数分続き、最後には金メダルだとわかって喜びを爆発させていましたが、なんとも言えない時間が続いたことが非常に印象に残りました。
実は昨年タイで行われたアジア選手権でも同じような出来事がナクラ17級のメダルレースで起こりました。
トップで走っていた中国の選手がボトムマークを回らずにそのままリーチングフィニッシュラインを切り、メダルレースが失格になって総合でもトップだった選手でしたが、それで優勝を逃しました。その大会がオリンピック代表選考であったため、その選手は代表も逃してしまいました。
なぜこのようなことが起こるのかと言うと、普段のレース、メダルレースはゲートフィニッシュが一般的でリーチングレグを49er、49erFX、ナクラ17級は走ることがありません(ナクラはオフセットマークがあるため、上マーク回航後少しのリーチングレグはあります)。
きちんとSI(帆走指示書)を読まないといけないなぁ、と思う例でした。
◎次回は2028年ロサンゼルスオリンピックです
パリ五輪は日本の20年ぶりに470級の銀メダルを獲得という快挙で終わりました。日本はiQFOiL男子、49erFX、ナクラ17でもオリンピックへ出場しました。
このパリオリンピック出場するだけでも470級以外のクラスはとても大変な道のりでした。また国枠を獲得できなかったクラスの方が多かった事も事実です。
今回のサイクルで色んなクラスで第一線を退いてしまう選手が多くいると予想しています。特に470級以外のクラスは貴重な経験がバトンタッチしていく事が途切れてしまうのではないかと危惧しています。
どうかオリンピック出場した選手も途中で敗れてしまった選手も、世界大会で戦った経験を次の選手、世代につなげて欲しいと強く願っています。
日本はどうしても立地的な環境から情報や練習環境が獲得しにくい現状は今も昔も変わらないと思います。それをなんとか工夫しながら練習や資金面でもやっていく必要があるでしょう。個人的には、五輪活動経験者が次の世代へ「伝える場」が必要なのかなと思います。
ロサンゼルスオリンピックはどんな風が吹くのか、楽しみですね!
- 【コラム】ワカコ・レーシング(連載記事)https://x.gd/hlcJv