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パールレース総合優勝〈KLC HORIZON 6〉レポート【レース編】

 今回は今年のパールレースをどう走ったのかをお伝えします。マニアックな表現で理解できないこともあるかと思いますがお付き合いください。(文/荒川海彦 KLC HORIZON 6)

カップ奪還、悲願の総合優勝を遂げた〈KLC HORIZON 6〉。前回投稿した準備編と合わせてお読みください

 レース当日の朝はなにかと慌ただしくなるので、すべて前日までに段取りして、おろす荷物をまとめておきます。今年は飲食料以外は前日に用意しました。ドックアウトまでに気象予報を再確認し、セールチョイスと艤装品、飲食料を最終決定します。

第一章 スタート〜神の島WP

 スタート前のルーティンを一通り行いレースに集中します。例年通りどんどん風が落ちてきました。やはり予報はあてになりません。局地的な影響で予報より風がない。スタートライン近辺は今回も潮流の方向も風向も違うので悩みました。

 また今年からスタートラインのシグナルボート(本部船)が左側、アウターマーク(ドローンマーク)が右側というスタートライン設定に変更されました。

 神の島WP(ウエイポイント)までは右側のドローンマークの方が近く、さらにスタート前に南からパフがそよっと下りてきて高さもドローンマーク側有利なスタートラインでした。

 予告信号からドローンマーク側は大混戦。風が弱く潮流も南流が強く、スターボードでラインアップすると身動きが取れなくなります。我々はつまらない接触事故でレースを台無しにしたくないので低いポジションからポートアプローチでラインアップしました。

 しかし、〈KLC HORIZON 6〉は最小クラスの小型艇なので、いつものように走り負けてどんどんフランケットの影響で遅れる展開です。いつものことですがやはり気分が悪い。必死に走らせます。

 状況を打開しようとCODE60をホイストするもアングルが取れないため後続からくる大型艇とオーバーラップ。避けるためにジブアップ。その後フリートに上突破してもらい、一番風下に出たタイミングで再度CODE60を開きました。

 スピードで前に出ます。ヘディングはぎりぎり神の島WPを向いています。ここから風がリフトしながら弱くなり、CODE60で快走。なんとAクラスの上位艇まで追いつきました。

 スタート後、高さをキープした大型艇は、潮の影響もありリフトしながら風速が落ちジブとA0の狭間です。ジブで落としながら走るためスピードに乗りません。逆に我々はヘッドアップしてプレッシャーをゲットできる分、圧倒的なアドバンテージを得ることができました。

 神の島WP手前5マイルのところでさらに風がリフトし始め、A0にチェンジ。潮流の影響で波が悪い。そして神の島WP付近はほぼ無風に。

 やっぱり予報は当たらない。というか局地的な影響で(潮流で風をフローさせている)風をさえぎっています。我々は次のパフ/シフトのタイミング(夕方〜夜〜深夜〜朝)を考慮して計画通りラムラインより南のコースを選択しました。

 ポンと南西の風が入り即A1にピール!(ダウンウインド用セールのセールチェンジ) 前から数えるとなんと7番!? ミラクルです。ドックアウト前の予想通りの展開になりました。ここから利島までSTBの長いスピード競争が始まります。

ドックアウト前のブリーフィング、レースサマリーを元にこの時点でレースで起こるすべてのことを情報共有します

第二章 神の島WP〜利島

 例年、神の島周辺での先行艇は霞んで見えませんが、今年はよく見えます。風速も徐々に上がり始め安定してきました。予想と反したのは後ろからもらうはずだった潮流が、ずっと前から1ノットぐらいの向かい潮だったこと。やはり海流概況図とか信用できません。

 南からの大きなうねりで小型艇はあおられやすいので走りにくい。大型艇にどんどん抜かれながらもVMGをキープすることにつとめました。

 夕方になり風が予想より早く西っ気に振ってきました。風速は15ノットぐらいで安定していて、BS(ボートスピード)、ヘディング、AWAを見ながらセールインベントリーも考えここでA1からS1にピール。

 VMCを稼ぐ方にスイッチ。ラムラインに対して南7マイルをパラレルに並走。しかし、うねりが高くやはり走りにくい。がまんのダウンウインドが続きました。

 経度的に御前崎沖付近は風速も20ノットを超えてきました。うねりのトップとボトムで風向風速が変化するのでセールトリムもヘディングもキープするのに苦労しますが、うねりにあおられ1、2度ブローチング!

 予防策でスピンがうねりでぶれない程度に硬め(浅め)のシェイプにトリム。22時頃から一人づつワッチ交代を始めました。私は2時から4時のオフ。

利島までのスピード競争

 一時間ぐらい寝れただろうか、先行艇はジャイブをはじめて北上しているというタイミングで起こされ、ジャイブポイントを探ります。自艇のポジション、予報の風向風速、実際の風向風速、海流概況の潮流、実際の潮流を考慮してライバル艇が前を切り同じラインでジャイブ。ポートタックへ。ラムラインに寄せました。

 ラムライン南2マイルのところ、ちょうど石廊崎沖で再度ジャイブでスターボードタックへ。ヘディングを新島の北側へ向けました。

 空が白けてきました。「あれ? メインのタックシャックルがない」。しかもタックシャックルのスライドカーが1つ外れていることに気づきました。

 夜中のブローチングでタックシャックルが飛んだのだろう。すぐさま伊藝さん(注:伊藝徳雄プロセーラー)がラッシングで応急処置。相手はステンレスで角張っているので外皮付きの細引きで対応。利島を南からアプローチ、真後ろから2ノット以上の潮をもらいご機嫌なアプローチです。

 次は利島をどれくらい離すか? 風向的に南側の断崖絶壁をなめるように回り込んで吹くだろうと予想しました。勝手にガルダの法則と名前を付けてブランケットはそんなにないと判断。ガルダはイタリア北部の湖、世界有数のセーリングのメッカです。

 予想通り利島に回り込んで風が吹き、利島の北東側でジブアップ/スピンダウン、北上を始めリーチング、20ノットオーバーの吹き下ろし。とその時、無情にもスライドカーがみるみるうちにトラックから外れ出す!

 メインダウン! ロスを最小にするためにメインを飛ばされないように押さえながらジブだけでヘディングをキープしました。

夜中に大波にあおられてブローチングした際にメインタックのシャックルが飛び、ラッシングして応急処置するもタックオフセットよりも締めきれなかったので、利島回航後のリーチングで(メインセールの)スライドカーがトラックから外れるというトラブル発生しました

第三章 利島〜大島

 気を取り直しメインアップ。潮は相変わらず西から東へ2ノット以上で流れているため、COGとにらめっこしながら大島を目指しました。風速が落ち始め、ジブ外取りからリーチングスタットとハイホイストのコンビネーションでボートスピードアップを目指します。

 リーチングスタットが効いてるのでジブが「袋」にならない分上部がシバーすることなくしっかり流れるためメインにもバックウインドが入らないため、メインが適正にトリムでき効果てきめんです。

 その頃、ファーストホーム争いのトップ2艇はカームにつかまっているのか、バウが初島に向いて苦戦している模様。

 相模湾を北上するにつれ風が落ちてきています。その他のAクラス/Bクラスはセオリー通りのコースを引いていて、さすがだなぁと感心しながらも、我々はここで遅れてはいけないと船を止めないように必死のセーリングが続きます。

 大島風早埼をクリアできるポイントでA0にピール。船内荷物も前へ移動。マストトップを見上げると、うん? なにかおかしいぞ? マストトップのフリッカーが折れてぶらぶらしてるではないか!

原因はフリッカーを固定する2本のボルトの穴が近すぎて強度不足だったためです。そしてA0でセーリング中に今度はフリッカーが折れるというトラブル発生。A1にピールするためにはウインデックスの鳥よけ棒がぶらぶら揺れているとA1のヘッドに穴が開くかもしれないのでウインデックスライトの配線をナイフでカットし外しました

第四章 大島〜江の島

 トラブルを対処して満を持してA1へピール。風早埼を抜けて潮に乗りSOG9ノット台で北上します。

 どんどん風が弱くそして太陽が高くなりだし、デッキ上はとてつもない暑さです。そして眠い。。。レースに集中してないと完全に暑さにやられてしまうと思い。まわりを見渡しながら「絶対に勝つんだ!」という強いモチベーションでトリムし、自分自身を奮いたたせます。

 ディスプレイに表示される潮の方向とCOG、SOGを見ていると大島北側の潮流は自論通りの流れをしていると判断し、ジャイブして潮に流されつつCOG的には90度を向きフィニッシュの江の島から離れます。風向の階段を一気に駆け降りることに成功し大きく前に先行していた艇団に追いつきました。

 しかし、我々のところも風がなくなり、ヘッドアップしてもジェネカーがはらまなくなりました。

 そして最後の武器、こんな時のために検討を重ねて特注制作していただいたスピンクロスのウインドシーカをトップホイスト。するとどうでしょう。今までバサバサと揺れていたメインセールが安定しセールに風が流れるようになり走り出しました。

 調子いいです!(BS0ノットの世界から脱却)そろりそろりと走り続けます。ウインドシーカでしっかり走り風もそよそよと入りだしたのでジェネカーを再度ホイスト。気持ちよくセーリングできました(灼熱地獄でしたが気分的に)。

 10ノットのパフが入ってきたタイミングでS1にピール。順調に北上します。気持ち的には「これは勝てる!」と思った矢先。。無情にもみるみるうちに風が消えて風速5ノット台に。。。やべぇ。。一気にフィニッシュタイムが遅くなり総合優勝が危うくなりました。

 すかさずA1にピール。とにかく船を止めないように集中してスケーティング。風速3ノット。。。ウインドシーカにチェンジするかこのままキープにするか、BSとにらめっこしながらジレンマが続く。

 一度船を止めたら数十分のロスになるため、もう必死に走らせます。完全な夕凪の前に江の島へフィニッシュしなければ。唯一の救いは後ろからコンマ5ノットの潮をもらっていることです。心強い。

 そんなこんなで最後まで集中力を切らさずに16時30分50秒にフィニッシュ。なんとか無風になる前にフィニッシュできました!

 昨年は大型艇有利な展開でしたが、今回は先行艇が止まっていたので運が良くて勝つことができました。

 大きな勝因の1つ目はドックアウト前のミーティングで話した神の島WPまでの攻略と利島までのレーンの確保。そして大島から江の島までの相模湾の攻略でしたが、終わってみるとほとんどが予想通り上手くいきました。予想外だったのは神の島WP-利島までの逆潮だけです。

 2つ目の勝因はどのチームに対しても誇れる100%妥協しないレース準備と高いレベルでの持続的なSAILFASTの実現、そして適切なタイミングでのジャイブやセールチェンジに尽きると思います。

 その時々の状況に応じて常にバックアップセールをスタンバイ
〈KLC Horizon 6〉にとっては総合優勝5回で大会史上最多記録です。幸運にも私は4回の総合優勝をつかむことができました。

 今回もゲン担ぎのうなぎパワー炸裂しました(笑)。最後に今回も邨瀬愛彦オーナーのオーナシップとチームワークが総合優勝を引き寄せたと思います。

 ショアクルー、デリバリークルーを含めた〈KLC Horizon 6〉の皆様、総合優勝おめでとうございます。ありがとうございました。

 暑かったパールレース、楽しかったパールレース、悔しかったパールレース、恐い思いをしたパールレース。さて、来年はどんなパールレースになるでしょうか?

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