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レース中、ハルが剥がれていく恐怖。ミニファストネット参戦記

 フランスの外洋ヨットレースの登竜門として知られる、ひとり乗り大西洋横断ヨットレース「ミニトランザット」。次回スタートは2025年に予定されていますが、出場権利を得るための予選がすでに始まっています。予選とはいえ異常と言えるほどの人気で、300〜600マイルの外洋レースが毎週のように開催され、毎回約80艇のMINI6.50が出場しています。今回、ミニトランザットを目指す國米 創(DMG MORI セーリングアカデミー)から届いたレースレポートは、600マイルのふたり人乗り「ミニファストネット」です。信じられないことが起きたようですが、いったい?(BHM編集部)

フランスの小さな港町ドゥアルヌネをスタートした國米 創とレミー・オウブロン。國米選手をはじめミニの選手は前週に約200マイルの「MAP」をフィニッシュしたばかりですが、ミニトランザット出場権利獲得(クオリファイ)のため疲れも知らず出場します

 6月9日、フランス・ドゥアルヌネをスタートする「ミニファストネット」に出場しました。この数週間は連戦で忙しかったです。ミニファストネットはダブルハンドレースなのでいつもよりリラックスできました。今回は、いま使用しているインシデンス・セール社のデザイナー、REMI AUBRUN(レミー・オウブロン)さんと一緒にレースしました。(レポート/國米 創)

 彼は熟練したセーラーで、昨年はクラス40とIMOCAでレースをしていました。オフショアレースの前にプロローグのインショアレースがあり、そこで初めて一緒にセーリングしてチームワークを確認しました。プロローグレースで1位を獲得できたので、動作には問題なく、次のレースに向けて準備万端でした。

85艇の一斉スタート。本来ミニファストネットはアイルランド沖のファストネット灯台を目指しますが、今年は強風のためビスケイ湾内のコースに変更されました。この大会には國米の他に、中山寛樹、高原奈穂選手が出場しました。3人の日本選手がミニの大会に出場したのは初めてです
今回のコースはビスケイ湾の北西部。フランスのオフショア外洋レーサーには身近ともいえる大三角形コースです
スタート直前の國米 創とレミー・オウブロン。途中まで2位を走る好レースを見せていました

 ミニファストネットに出場するのは2022年に三瓶笙暉古と出場以来で、前回はコースが短縮されてファストネットに行けなかったので今回こそはと願っていました。しかし、残念ながら今回も強風予報のため南に行くことになりました。途中グレナンでフィニッシュする可能性もあると発表もされました。

 スタートは風速16〜22ノットのなか、85艇一斉にスタートしました。今回はダブルハンドのため各艇の動きが機敏に感じました。私自身もスタート、上マークまでラグなく早くタックできるのでコースが引きやすかったです。

 湾を出ると外は20〜25ノットのコンディションでした。風の強さは問題ありませんでしたが、波は大きく、短い間隔で後ろや横からきたのでとてもトリッキーでした。

 夜にはジャイブ・ブローチングもしました。こんなひどい状況でもレミーがいたからメンタルは大丈夫でした。レミーはとても冷静で的確に状況に対処してくれたのでとても心強かったです。正直なところ、このコンディションでシングルハンドをやっていたら、どうやって最初の夜を乗り切っていたかわかりません。

 夜が明けると、私たちはすでにBXA(マーク)まで30マイルのところまで来ていました。船内で休憩していると、急にスピードが落ちるのを感じました。

 状況確認をレミーにすると、ハルのカーボンが剥離し始めていることを言いました。このままレースを続けるか、それともリタイアするか、決断を迫られましたが、風は弱まる予報でどちらにしろロリアンに戻るには北上する必要があるので、このままレース続行することにしました。

レース中にハルがめくれあがってくるのが分かりました。リタイアするにも母港のロリアンまで北上しなければならないため、レース続行しました
はがれたのはハルの表面で一層目のカーボンです

 セーリングしているうちに、船体がどんどん剥がれてきたことを確認しました。ハルの剥離以来、自分の頭の中は修理のスケジュールとロジスティクスのことで一杯でした。確実に頭の中はレースモードから離れていました。

 目視できるバウ先の剥離した場所からフォームも見えて、見えないハルの下がどうなっているのか心配になりました。レミーと話し合い、何があってもグレナン(コンカルノーの南にある島)で止まるという考えは同じでした。グレナン以降ゴールに近づくごとに、風は強まる予報で潮流の影響で海況は悪化し、ハルへのダメージが大きくなる可能性がありました。

 グレナンに到着後、残念ながらコースは短縮されていなかったので、レースをリタイアしてロリアンに戻ることにしました。

 途中まで2位だったことと、レミーと一緒に乗れる機会のなかでリタイアはとても悔しかったです。オフショアはインショアレースと違ってゴールが当たり前ではないことを再認識し、ダメージがあってからマリーナに到着するまで数時間〜数日かかり、自分で船を守りながら帰らないといけないことも体験することができました。

 今船は無事ヤードに入り、IMOCAチームに助けてもらって修理をしています。またすぐに海に戻れるようにがんばります!

リタイア後、ロリアンのヤードに戻り、マストを倒しハルを裏返すとピーラーで皮を剥いたように表面がはがれていました。これからカーボンをはりなおします。ミニでは修理も自分でおこないます
チームメイトのアレクサンドル・デゥマンジュ選手はDMG MORI セーリングチームのエンジニアでセーラーのブノア・マリエット選手と出場して優勝を飾りました
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