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イタリアFISU大学セーリング世界選手権。名城大ヨット部遠征記

 6月3日から12日まで、イタリア・ガルダ湖で開催された「FISUセーリング世界選手権」に学生日本代表として参加してきました。非常に有意義な大会になりましたのでみな皆さまにお伝えしたく、遠征記としてまとめさせていただきます。(レポート/小沢 亘・名城大学体育会ヨット部臨時コーチ)

日本代表としてセーリング世界選手権に出場した名城大ヨット部。3月に三河湾で開催された「セイル・オン 第12回JYMA選抜大学対抗&U25マッチレース」で出場権利を獲得しました

 選手たちは6月2日に名古屋駅に集合。男性3名、女性3名の参加となりました。

スキッパー   玉田航大(機械工学科4年)
メイントリマー 東明千菜実(建築学科3年)
ジブトリマー  稲垣颯生 (法学科4年)
ピットマン   壺田琴未 (生物資源学科4年)
マストマン   横井誠也 (主将・生物資源学科4年)
バウマン    内藤由希子(副主将・生物資源学科4年)

 この面々に加え、現役サポート組が7名加わり、引率の部長・コーチを含めると15名の大所帯での移動となりました。また臨時コーチとして私が先乗りで風情報やボート情報を収集、現地にて長尾 元監督の親友がアメリカよりサポートに入っていただくという、まさに総勢一丸となってメダル獲得を目指しました。

◎FISUセーリング世界選手権参加国
オーストラリア
オーストリア
カナダ(1・2)
中国
クロアチア
フランス
ドイツ
アイルランド
イタリア(1・2)
日本
マレーシア
オランダ
ポーランド
シンガポール

参加は14カ国16チーム。2グループに分かれてフリートレース形式でおこなわれました
レースで採用されたのはドルフィン81というキールボートです。慣れない船ですが、特長をいち早く捉えることが勝敗に影響しました

【6月4日】
 レジストレーションの後、本来なら現地レース艇(ドルフィン81)を使った練習と聞いていたものの、現地運営サイドのボートメインテナンスが間に合わず。この日は現地チャーターのレスキューボートを使い風の傾向チェック、湖面チェックの1日となりました。

【6月5日】
 現地練習日、各国に割り当てられた練習時間は2時間のみ。初めて乗るドルフィン81はジェネカーボートでありながらジェノア・100%ジブを揃え、ドラムを使いジブをロールできる仕様になっていました。

 またセンターバックステイとランニングバックステイを揃え、強風にも十分耐えうるボート設計。まだこの時にはわかっていなかったのですがどうやらボート特性に非常にクセがあり、このクセを見抜いたチームが上位の一角を占めるという何とも興味深い結果になりました。

【6月6日 クオリファイスタート】
 各国をA/B8チームに分け、艇の乗り代わりを前提に1日4レース予定で行われました。日本代表の我々はグループAへ、オーストラリア、イタリア1、カナダ2、クロアチア、ポーランド、中国、オランダという各国強豪とのスタートになりました。

 Aグループの1レース目という事もあり緊張感満載でしたが、スタートはポートアプローチで上イチの空いたところで最高のスタートが切れました。

 1レグ目途中まではトップを走るという何ともでき過ぎな状況です。ところがデセンツアーノの湖面は微風で左右によく振れます。右振れをつかみ損ねた我々は順位をキープできずズルズルと順位を落とし結果8位。ああ、やっぱり世界の壁は厚いんだなと感じる1レース目となりました。

 この日は3レース行われ8−6−9位(リコール含む)の合計23点で全体の15位。全く歯が立たない状況で絶望感にさいなまれる中、カナダ2が1−1−1位の圧倒的リードでトップを堅持。フランスも1−2−1位と手堅いレースを進める中でトップ勢とどう絡んでいくのか、長い夜のミーティングとなりました。

ゴールドフリート進出は逃しましたが、後半になるにつれて好レースを見せた名城大チーム

【6月7日 クオリファイ2日目】
 クオリファイ2日目のペアリングリストが前日発表され、愕然としました。イタリア2、イタリア1、カナダ2、カナダ1、シンガポール、中国、日本、マレーシアという8チームの組み合わせ。

 多くは書けませんが明らかにイタリアのホームアドバンテージとアジア各国のシルバーフリート確定を思わせるような組み合わせです。

 そんな中で始まった2日目、昼過ぎまでの風待ちとなり選手はそれぞれ各国の遊び道具を持って大会テントでリラックスしていました。

 15時30分過ぎにAP降下。出艇完了16時。レース開始が16時30分から我々Aグループが2レース、Bグループは1レースのみの成立となりました。

 夏至と重なりレース日程はタイトであったものの日本チームは4-5位で順位は変わらず15位、ここで我々のゴールドフリート残留はなくなりました。

 Aグループでキラリと光ったのがシンガポールチームでこの日1−1位でジャンプアップ。明日の朝一番のBグループの結果如何ではアジア勢唯一のゴールドフリート残留に期待を残すことになりました。

【6月8日】
 Bグループクオリファイ残消化・ゴールドフリート開始。朝一番のBグループのクオリファイを受けてゴールドフリートから始まりました。

ゴールドフリート
カナダ2、フランス、シンガポール、イタリア1、アイルランド、イタリア2、ポーランド、オーストラリア

シルバーフリート
ドイツ、オーストリア、オランダ、日本、クロアチア、カナダ1、中国、マレーシア

 手堅いフランスは2−3位でトップ。カナダ2が少し順位を落としたものの2位堅持、アジア勢トップのシンガポールは3−7位でこの時点ではまだ6位です。

 ただコーチのCaiさんには確信があったそうです。実は初日のレース後コーチ陣での親睦会があったのですが、その場にいた地元ヨットクラブ所属のMarcoさんが教えてくれた一言でハッとしたそうです。

 それは「微風のアップウインドレグでもキープフラットを堅持すると艇の上り角度が変わってくる」という事でした。この教えを守ったシンガポールチームは最終日大逆転に燃えることになります。

 日本チームはシルバーフリートで4位。実を言うとこのキープフラット、上り角度維持を我々も始めることになったのがこのレースからでした。もっと早くやれていればと思う反面、場慣れしていない日本チームがいきなりできるような戦法ではありませんでした。そんな中シルバーフリートでありながら4位をキープ、ここで一気に選手たちのモチベーションが最高になっていくのが目に見えてわかりました。

【6月9日 最終日】
 一応6月10日に予備日は残しているものの、レースコミッティは本日最終日で予定していますとブリーフィングで説明。泣いても笑ってもこの1日で全てが決まります。

 結果はフランスの堅実さが目立ったゴールドフリートでした。1位を一度も取らず3−2−5(Cut)-2位で圧勝、最初優勝候補筆頭と思われていたカナダ2は、ゴールドフリートに入ってからズルズルと順位を落とし4位転落。

 その隙に入ってきたのが3−7(Cut)-1-3-6位でまとめたシンガポールチームが大逆転、2位のイタリア2に次いで3位にくい込む力強さを見せました。

 我々シルバーフリートはドイツが1−2−4−2位で圧勝。我々日本チームは4−4−3−3位と健闘。3レース目のシルバーフリートでは1上トップ回航ながらフリーで順位をキープできず3位となったり、ヨーロッパ各国のスキルを真横で感じながら大健闘のオーバーオール12位で今大会を終えました。

優勝のフランスチーム

 結果だけを見ると12位という何とも微妙な結果になってしまいました。ところが「下剋上セーラー」としてU25学生マッチレースからの6カ月間をコーチさせていただいた私から考えると、とてつもないスピードでみるみる実力を付けてくれた学生達に感謝しかありませんでした。

 名城大ヨット部は、地域予選で20年以上もインカレ団体戦出場を逃し、時には部員1人となった時代もあり、続けてくれるだけで大成功と言われたまわりからの見られ方が明らかに変わったように感じました。

 彼ら彼女たちは「本当のセーラー」になるための階段をあっという間に飛び越えていくポテンシャルを持っていました。練習の態度が明らかに変わっていく彼らの姿、地元のキールボートレースでルールもわからないような辱めを受けながら全員で泣いてやり直そうとする姿勢、そして世界選手権では1日ごとにインプルーブメントしていく姿を真横で見させてもらえることだけで臨時コーチとしては大満足の半年間でした。

 多くの大学生セーラーはどうしても「インカレ」が中心になる部活動になると思いますが、こうやって全くの素人が半年間集中して練習するだけでその何倍にも自分の身につく世界選手権という場を与えてくださった関係者の方々に感謝の言葉しかありません。

 どうか多くの大学生セーラーがヨットという最高な趣味をできるだけ長く続けていけるための環境作りを、我々大人が作っていかなければならないなと感じた10日間でした。

 名城大学としてはこんな素晴らしい経験をさせてもらった以上、必ず次回も名城大学で出ようと思えた大会でした。U25セーラーの大舞台である世界選手権で日本は必ず優勝できるようになるポジションにいると思えました。次回は負けませんよ!

国際大会を経験して大きく成長した名城大ヨット部
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