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【コラム】ラストチャンスレガッタの終わりと日本のセーリング

 フランス・イエールで開催されたパリ五輪出場をかけた「ラストチャンスレガッタ」が終わりました。日本は3種目で五輪出場を決めました。先に権利を獲得している男女混合470を入れれば合計4種目です。これは先に開催された代表一次選考(世界選手権)からの予想をうわまわる成績であり、日本にとって素晴らしい結果になったと思います。(BHM編集部)

フランス・イエールで開催されたラストチャンスレガッタ最終日は、クオリファイド・ネーションズのメダルレースが予定されていましたが強風のためすべてのレースがキャンセルされました。選手たちは次の舞台へ向けて移動を始めます

 選手のみなさん、おつかれさまでした。思い残すことなく全力を出し切って終えることはできたでしょうか。そう願いますが、たぶん、そんなことはありませんよね。オリンピックは本番で金メダルを取る選手以外、もやもやした複雑な気持ちが残るものではないでしょうか。

 代表になった選手も逃した選手も、全員が次のステップへ進むことになります。もう一度、チャレンジする選手もいるだろうし、競技生活に終止符を打つ選手もいるでしょう。編集長が選手のみなさんとゆっくり話す機会があればよかったのですが、そうもいかず。今度どこかで会った時に話を聞かせてください。

 バルクヘッドマガジンもタイ、スペイン、スペイン、フランスと続いた日本代表選考取材を無事に終えることができました。編集長も選手たちの活躍を見ていて考えることがありました。正直にいうと、連続した今回の取材遠征は楽しいこととつらいことがありました。つらいことというのは、どうしても敗退した選手のことを考えてしまうからです。現場を去る選手を見るのはいつでもつらいものです。

 そして、いま選考を振り返ってみると編集長自身ももやもやした何かが残っていることに気がつきました。よくも悪くも20年もオリンピック・セーリングを見ていると、自分でいうのもなんですが、20年前には分からなかった部分が見えてくるものです。

 選手が活動する背景には、組織や所属する団体、会社、そして日本から応援する人たちがいます。編集長は報道という立場で、公平な視点を持つことを心がけているつもりです。ものごとを記事にする時は、一方だけを取材せず、いろんな立場の人から話を聞こうと努力してきたつもりです。

 ただ、いろいろな人から話を聞き、現場でしか分からない情報を頭の中に仕入れることで、何が正しいことなのか、分からなくなっている気がしています。物事には、たとえ終着地が同じだとしても考え方が複数存在します。外洋ヨットレースのように出場艇が取るルートは違っても結局フィニッシュ地は同じ、みたいに。

 今回の3種目の国枠獲得は素晴らしい結果だ、と先に書きました。実際に最終レースの現場にいて、それに向かって活動してきた選手たちの努力がむくわれた瞬間をみて、本当によかったと思っています。その空気感は現場でしか感じられないもので、取材に来てよかったと思える瞬間です。

 一方、冷静になって日本の五輪セーリングのことを振り返ってみます。日本は、2000年シドニー五輪で7種目、2004年アテネで7種目、2008年北京で6種目、2012年ロンドンで6種目、2016年リオで7種目の国枠を獲得してオリンピックに挑戦しました。※東京五輪は10種目に出場しましたが、全種目に出場できる開催主催国権利があったため国枠選考から除外されていました。

 そして2024年パリ五輪は4種目に日本が出場します。種目や出場国数が変わっているので比較できるものではありませんが、日本の出場数が大きく減っているのは間違いありません。つまり、日本のセーリングは世界から大きく遅れてしまっているのです。この事実をないがしろにしてはいけません。

 それをいちばん感じたのは、昨年12月にタイで開催された「アジア・セーリングチャンピオンシップ」でした。この大会で圧勝したのは、みなさんご存知のように中国です。開催された6種目中5種目で金メダルを獲得し、五輪出場国枠を軽々と取っていったのです。日本はアジアのなかでも強豪国ではありません。

 日本の470は世界選手権で金メダルを取ったではないか、と言われる人もいると思います。でも、それは長い間、470に情熱をかけてきた人たちがつむいできた結果であり、いまがそうであるだけで、いつまでも日本の470が世界に通じる、なんてことはないのです。現場にいる人であれば、その雰囲気を理解していただけると思います。

 日本のセーリングは弱い。どうしてこうなってしまったのでしょう? むかしを振り返ることにあまり意味はありませんが、常に考えるのは、わたしたちは間違った方向に進んでいるのでは? ということです。ここでは、現在進行形で活動している選手を指しているのではありません、もっと大きくとらえた、わたしたち(とくに日本の方向を位置づける大人たち)に向けて書いています。

 日本は弱いと書くと気分はよくありませんよね。編集長もそうです。ただ、正直に言うと、まずこの部分をあからさまに見せつけられたオリンピック選考でした。これはあくまで個人的な感覚で、別の意見を持っている人がいても不思議ではないのですが、編集長はそう感じています。

 7月のパリ五輪まで日本のテレビや新聞は、オリンピックを盛り上げるため、セーリング競技を取り上げる時に、その場限りの都合よいニュースを公開していくことでしょう。プリンセスソフィア杯の直後に東京で開催された470代表記者会見でも、セーリングをひとつのスポーツ競技と捉え、競技の内部につっこんで質問する記者はひとりもいませんでした。

 セーリングが盛りあがるという意味でニュースが配信され、一般の人の目に触れることはうれしいことです。でも、バルクヘッドマガジンの読者には、日本のセーリングの正確な世界での立ち位置を知っていてほしいと思います。これが編集長のもやもやなのか、分からないのですが。

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