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【コラム】パリ五輪470日本代表選考が終わって思うこと

 みなさん、こんにちは。バルクヘッドマガジン編集長です。470世界選手権、プリンセスソフィア杯が終わりパリ五輪470日本代表が決まりました。数えてみたところ編集長はこれまで5回の470代表選考を取材しています。オリンピックは4年に一度開催されるので、かれこれ20年も代表選考を取材してきたことになります。(BHM編集部)

パリ五輪470日本代表選考が終わりました。前年度のメダル獲得例を挙げるまでもなく史上最高のハイレベルな戦いになったことは間違いありません。パリ五輪本番の金メダル獲得の期待がかかります

 北京五輪の470選考はメルボルンでおこなわれました。ロンドン五輪はバルセロナ、リオ五輪はデンマーク、東京五輪は江の島、そしてパリ五輪はマヨルカ島でした。どの選考もそれぞれ思い出深いものがあります。そして、選考が終わったあとに感じることは、意外にも毎回共通しています。

 『この戦いがもう少し続けばいいのに』。五輪を目標に活動する選手の技術レベルは、オリンピックイヤーを頂点に設定されます。世界のトップ選手は、鍛え抜かれたセーリングを披露してくれます。セーリングする姿、一挙手一投足は芸術的であり、ここまで追い込んで磨き上げた選手に、尊敬の念を抱かずにはいられません。

 しかし、代表選考が終わると敗退した選手の活動はぴたりと止まることになります。ゴール目前にダッシュしてきたランナーが急停止するように活動が止まります。彼らに見えていたその先の道がなくなるからです。

 だから、これは矛盾することでもあるのですが、もっと最終選考の戦いを見ていたいという気持ちにさせられるのです。代表選考を戦った磯崎哲也/関友里恵、吉田 愛/吉田雄悟、高山大智/盛田冬華。おつかれさまでした。日本代表になった岡田奎樹/吉岡美帆には、ぜひ金メダルを獲得して欲しいと思います。

 代表選考で毎回考えてしまうことがもうひとつあります。これもありえないことではあるのですが『たら、れば』です。選手たちはどのように考えているのか分かりませんが、長い期間、代表選考を見てきた取材者としては、あの時、〇〇だったら、という気持ちがどうしても残ってしまいます。

 470代表選考のポイントは、一次選考となった470世界選手権でした。結果的に3位入賞を決めた岡田/吉岡がボーナスポイント(マイナス6点)を得たことで、大きなアドバンテージを持って二次選考へ進むことになるのですが、、、

 メダルレース前日まで1位を守ってきた磯崎/関は、20ノットの強風レースとなった大会5日目で大きく失速。1位から8位へ順位を落としてしまいます。前日まで岡田/吉岡に5点リードしていたにも関わらず、決勝シリーズ最終日に13点差をつけられることなりました。

 そして迎えた決勝メダルレースの日。朝から強風で波も高く、とてもではありませんが、出艇できるコンディションではありません。午後になるとやや風が落ちるという予報に期待しましたが、状況が変わることなくノーレースになりました。3位の岡田/吉岡にとっては幸運の風だったかもしれないし、磯崎/関には無情の風だった、ということなります。

 そこで考えてしまうのは、『この天気が1日ずれていたら?』ということです。セーリングは自然を相手にする競技です。いつ、どのタイミングで風が吹く、止むのかは、だれも決めることはできません。

 この不確定要素を極力なくすために選手たちは厳しいトレーニングを積んでいるのですが、もし決勝シリーズ最終日とメダルレースのコンディションが逆になっていたら? と考えてしまうのです。無意味なことはわかっていますが考えてしまいます。

 プリンセスソフィア杯が終わり、船の後片付けをしている関友里恵選手と話しました。しばらく五輪活動のことを話したあと「明日からどんなことをするだろう?」と聞くと「まだ、わかりません。けれど、もう明日から食べなくていいんだなぁって思います」といつもの笑顔で答えてくれました。

 磯崎/関は2022年8月にチームを結成しました。約1年半という短い時間で、世界に挑戦できる体格を作ることは関選手にとって大きな試練であり、体重を大幅に増やし、ひたむきに筋力を上げることに努めてきました。練習前、練習後にひとりだけ別メニューでトレーニングしていたのを覚えています。

 彼女の「もう食べなくていいんだ」という言葉を聞いて、なんだか込み上げてくるものを感じました。なかなか表面にあらわれないけれども、選手たちは長い時間をセーリングに費やしてきて、本人は思っていないかもしれませんが、犠牲にしてきたことも多かっただろうと想像します。

 20年間、代表選考を現場で見てきて、そして選手たちよりも少しだけ長く生きてきている編集長が思うのは、たとえ敗れたとしても、挑戦した時間はけっして無駄にはならないということです。選手みなさんのあたらしい挑戦を楽しみにしています。

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