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白石康次郎とヘリーハンセンが挑戦する世界一周のためのセーリングウエア

 みなさん、世界一周ヨットレースと聞いてどんなシーンを想像するでしょうか? 船を越えるような大きい波、荒天の南氷洋、暑さと戦う赤道無風帯。どれも普段のセーリングでは体験できないことで、想像できない世界であることに間違いありません。そんな過酷なシーンに耐えるために開発されているセーリングウエアがあります。(BHM編集部)

富山県小矢部市にあるゴールドウイン テック・ラボに展示されている2020-21ヴァンデ・グローブで使用したジャケット、サロペットと白石康次郎さん

「ヴァンデ・グローブのIMOCAになりハードドジャー(デッキ、コクピットの波避け)をつけられるようになってから、ウエアの考え方は大きく変わりました。これまで南氷洋へ行くのに、濡れない、寒くないをテーマにしてきましたが、いまはコクピットで汗をかきながら作業する場面が増えた。今回の世界一周は、いかに軽く、動きやすいように、がテーマになっています」

 これまで世界一周を4度、2020-21年のヴァンデ・グローブで94日21時間32分の記録で世界一周した白石康次郎さんがウエアの重要性について話します。白石さんはただいま2024年11月にスタートするヴァンデ・グローブに向けて、ヘリーハンセンと共同でセーリングウエアを開発しています。

 白石さんとヘリーハンセン(株式会社ゴールドウイン)が、セーリングウエアの研究、開発をはじめたのは、2006年単独世界一周レース「5オーシャンズ」から。当時は耐久性が高く、南氷洋の寒さをしのげるもの。そして、バースで寝ていて、すぐ飛び起きてデッキに出られるような性能が求められていました。それがいまでは、、、

「IMOCAのコクピットではグラインダーをまわし続けたり、ジムにいるような感覚です。だからウエアもストレッチ性があってトレーニングウエアのようなものがいい。次の世界一周では大きく分けて2種類を考えています。暑いか、寒いか、の2種類に絞っています」

 これまでジャケットとパンツが一体になったワンピース型(2016年大会まで)から、ツーピースのセパレートタイプに変更したのも、IMOCAに変わって激しい動きに対応したウエアが必要になってきているからです。

 いまゴールドウイン テック・ラボ(富山県小矢部市)では、世界一周に向けてウエアの研究、開発が進められています。最新の3Dスキャナーや、選手の動きをデータ化するモーションキャプチャ、また人工気象室では耐久性がテストされ独自の世界一周セーリングウエアが作られています。

ウエアの開発拠点となるゴールドウイン テック・ラボの展示場。これまで手掛けてきた同社のスポーツウエアが展示されています
ヴァンデ・グローブで着用するセーリングウエアを作るためテック・ラボ内の3Dスキャナーで計測
計測したデータではすぐさまディスプレイに表示されます

 白石さんのセーリングウエアはテック・ラボで詳細に計測されたデータをもとにつくられ、さらに実際に海の上で使用した感覚をフィードバック。さらに改良を繰り返して大会と大会の期間に3、4回アップデートされます。

 ヘリーハンセン事業部長の古賀淳史さんは、世界一周ヨットレースのために研究、開発されたノウハウの多くが一般製品に生かされている、と話してくれました。たとえばひざ当ての位置やダメージ度合い、耐久性などは、世界一周で積み重ねてきたデータと技術が一般製品に落とし込まれています。

「これまで赤道用に超透湿性素材を使ったり、南氷洋のために四層素材にして耐久性をどこまで高められるのかを試したり、海水を浴びた時に撥水機能が低下しない加工をほどこしたり、毎回あたらしい要素を取り入れてウエアを開発してきました。これまで一度もまったく同じ製品はつくっていません。白石さんと開発しているセーリングウエアには、常にあたらしい要素を取り入れています」

 現在あらたな試みとして、海洋漂着のペットボトルなどの廃材から取り出したポリエステルをウエアに再利用するなど、環境問題へ配慮した素材を使用するようになっています。

「わたしたちは、白石さんと同じような気持ちで世界一周を可能にするセーリングウエアを開発しています。もちろんヨットレースで勝つこと、完走することが大事です。さらに命に関わることでもあるので責任を持って製品を作っています。いっしょに世界一周に挑戦している、という感覚です」(古賀)

 白石康次郎さんとヘリーハンセンのあたらしいアイデアと積み重ねられた技術から生まれる、未来のセーリングウエアが楽しみです。

セーリングウエアの開発はチームで担当。DMG MORI セーリングチームで制作するウエア関連は41品目。1つ1つの製品に白石さんが自らの使用感をフィードバック
一般的なセーリングと違うのはウエアを着たままで寝たり、横になる場面もあるということ。実際に寝た時の感覚も大事になります
白石康次郎さんとヘリーハンセンの古賀淳史さん。「ひとつのセーリングウエアを作るのに大勢のスタッフが関わっています、設計、縫製、工場の人たちが白石さんの顔を思い浮かべながら制作しています。レース中は社内で情報が共有され、いっしょに冒険している感覚です」(古賀さん)
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