総合優勝艇〈KLC HORIZON 6〉パールレース参戦記【レース編】
2022年パールーレース総合優勝艇〈KLC HORIZON 6〉はどんなレース展開だったのでしょうか? プロセーラー荒川海彦選手の臨場感あふれるオンボードレポートです。ロングレースで勝つためには、ひとつひとつの積み重ねが大切ということがわかります。みなさん、ぜひ次のレースの参考にしてください。(BHM編集部)
◎レース編
今回は実際のレースをどう走ったのかをお伝えします。レース当日の朝は慌ただしくなるので、すべて前日までに段取りをして下ろすものをまとめておきます。ここでバタバタしたらレースでは勝てません。ドックアウトまでに気象予報を確認し、セールチョイスと艤装品、飲食料を最終決定します。
チームで記念撮影をしたらいよいよスタートエリアへ。スタート前のルーティンを一通り行いレースに集中できるように準備。例年通りどんどん風が落ちてきました。
スタートライン近辺は潮流の方向も風向も違うので迷いました、さらにスタート前に西からパフがそよっとおりてきたので、本部船有利なスタートラインに。アウター寄りから出るのをやめてライン中央付近までポジションを変えましたが、スタート前2分ぐらいでパフは消えてしまいました。
スタートラインに対して低い位置のままスタート! しかし、ほぼ無風です。ウインドシーカかA0の選択に迷いましたが、東からの潮流があるためにA0をチョイス。じりじりとフリートから抜け出し、風がどんどん前にシフトしてきたのでジブにチェンジ。
神の島ウェイポイント(WP)まで苦手な微風アップウインドが始まりました。大型艇や中型艇にどんどん抜かれながらもベストパフォーマンス、ベストコースが引けるように集中です!
神の島WPまで2時間40分の苦手な微風アップウインド。回航時も風弱く。。先行艇は霞んで見えません。。微風の灼熱地獄で水分補給が追いつかない。
神の島回航とともに中型艇が風上側にいるので離れるためA0をホイスト。高さはキープできないが前には出れたので即ファーリング、ジブアップ! Dクラスのライバル艇をワッチしながら、フリートに対して利島までのポジションキープに成功しました。
微風のスピード競争が始まりました。船足が伸びないのでラムラインキープよりスピード優先で次のシフトのタイミング(夕方〜夜〜深夜〜朝)を伺います。
日没後に安定した西風が入りはじめたので睡眠に入りました。すると駿河湾沖で波が悪くチャイニーズ!(ブローチング)。「海彦さんっ!」と起こされてスピンを回収しました(ダブルハンド日本選手権後に大幅な軽量化もブローチングの理由です)。夜なので観音張りで安全策をとりました。空が白けてきて艇とマストの破損状況を確認。
しかし、利島アプローチでもまたまたブローチング! シンプルなブローチングだったので艇も壊れずすぐに復旧できました。一安心です。3マイル手間でさらに波が悪くなったのでスピンを早めにテイクダウン。ここは安全策をとりました。
利島の吹き下ろしで30ノットの強風が襲いました。回航後のハードリーチングに備えて島影でメイン、ジブ共にワンポン・リーフに変更。
利島から大島までもウィスカーポールで観音張り。アウトサイドシートが効いてるのでシバーすることなくしっかりメインも効いて食らいつくことができます。これは、ジブが「袋」にならない分、メインが適正にトリムできるので抜群です。
まだトップ艇がフィニッシュしてないとの情報が入り、大島・風早沖からたくさんの先行艇を確認できました。心踊る。
我々は利島にアプローチするまで総合優勝は厳しいと思っていて、クラス優勝を狙ってました。しかし、利島回航後にトップ艇がフィニッシュしていないことを知り、先行艇が失速している情報を得て、総合優勝の可能性が復活。それを知ってから猛チャージをかけました。
総合優勝を争うライバルはなんと〈アフロス〉です(私が今年からコーチングさせていただいてるチームでもあります)。風も20ノットを切ってきたのでメンジブ共にワンポン解除、船内荷物も前へ移動しました。
大島から江の島に向けて北上。マストヘッドスピンをホイストし、ポールバックアンヒールさせます。TWA173〜178度(トゥルーウインドアングル。真風向)。とりあえずCOG(コース・オブ・グラウンド)で江の島に近いポートタックを走ります。
伊豆半島寄りの南西風は落ちていくのが見え、大島東側から南風が下りてくるのが確認できました。COGで近いタックよりも南西風が10ノット切ったらジャイブしてヘディングが90度以上になっても南風を取りに行くことを決めました。そしてお気に入りのノースのジェネカーにチェンジ。
相模湾内は風が弱そうなので丁寧にスケーティングしながら風を拾うモードに切り替えます。思ったより早く新しい南風が入ってきてマストヘッドスピンにチェンジ。ポールバックアンヒール。西に行くと風からはずれるので風の中に長くいられるようにジャイブを繰り返します。いきなり一瞬どーんっと入ったパフでチャイニーズ!(おいおい、頼みますよw)
スピンを回収して今度は安全策を考慮しフラクショナルスピンをホイスト。やはり艇速が伸びないので、すぐさまマストヘッドスピンを再ホイスト。あとはフィニッシュまでブローの中から外れないように走りました。伊豆半島寄りからアプローチしてきた艇に対してはだいぶゲインできました。
もう優勝を争う〈アフロス〉の状況が気になって仕方ありません。それに今までに味わったことのない複雑な心境に苦しめられました。〈アフロス〉の優勝?〈ホライズン〉の優勝?どっちが正しいのか?葛藤が始まります。
心の中のブラック海彦が「ノブさんはまだ若いからいくらでもチャンスはあるじゃん」と呟く。トリムに集中できない時間が続いたがやっぱり自分が乗ってる船が勝った方がいいということに決めました。
江の島沖の網、スナイプのレース海面を避けながら〈KLC Horizon 6〉は13時10分にフィニッシュしました。今回は先行艇が止まっていたので運が良くて勝つことができました。利島を回ってからは〈アフロス〉が優勝すると思ってました。
ただ、どのチームに対しても誇れることは100%妥協しないレース準備と高いレベルでの持続的なSAILFASTの実現、適切なタイミングでのジャイブやセールチェンジ、セールチェンジのロスの少なさだと思います。
〈KLC Horizon 6〉は総合優勝4回で最多回数です。私は3回の総合優勝を掴むことができました。個人的にはいつもロングレースに一緒に乗っていた天国にいる高木 裕さん(編注:故人。1984年ロス五輪470代表。マッチレース、クルーザーレースでも活躍されました)にいい報告ができてとても安心しております。
最後に邨瀬愛彦オーナーのオーナシップがあってこその今回の総合優勝だと思います。ショアクルー、デリバリークルーを含めたチーム〈KLC Horizon 6〉の皆様、総合優勝おめでとうございます。
暑かったパールレース、楽しかったパールレース、悔しかったパールレース、怖い思いをしたパールレース。さて、来年はどんなパールレースになるでしょうか?