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【五輪】東京五輪470日本代表、外薗潤平インタビュー・後編

 東京五輪470級日本代表、外薗潤平選手のインタビュー後編です。オリンピック後はiQFOiL(パリ五輪ウインドサーフィン種目)のコーチとして始動。自身もクルーザーやスナイプに乗るなど活動の場を広げている外薗選手の現在と、華やかに優勝を飾ったスナイプ全日本裏話を紹介します。(BHM編集部)

磯崎哲也と組んで2021年スナイプ全日本に出場した外薗潤平 。圧倒的なスピードで初出場・初優勝を飾りました

◎iQFOiLの経験はないけれど、オリンピックに向かう考え方は伝えることができる

編集長:東京五輪の後、外薗選手は選手として五輪活動を引退することに決めていました。所属先の会社をやめることになりましたが、それは次の目標ができたことが理由ですか?

外薗:はい。JR九州(大学卒業後就職し東京五輪まで所属していた)には本当にお世話になって、キャンペーン時代も「自分で自由に決めてオリンピックに向けてがんばりな」って応援してもらいました。仕事自体もすごい好きで、駅員の時も楽しかったし、車掌の時も楽しかったです。

編集長:それなのにどうして?

外薗:この先を考えた時、自分の納得いく人生って何なんだろうって、、、失敗しても挑戦してみて後悔した方がいい。ぼくは次の選手を育てたり、まだ自分がセーリングに関わっていたいという気持ちがありました。

編集長:いま新嶋莉奈選手(女子iQFOiL級。エリエール所属)のコーチをしているのは、挑戦したいことのひとつ?

外薗:はい。選手の指導にも興味があって、まずは1人の選手と向き合ってみたかったということがあります。それにぼくがコーチとしての素質があるのかも知りたいと思っています。

編集長:外薗選手にiQFOiLの経験はありません。ものすごく勉強していると思うんですが、技術指導はむずかいしですよね? 畑が違う競技でどのようにコーチするんですか?

外薗:確かに技術的なことはむずかしいです。ただ、オリンピックに向かう考え方や練習の仕方、コースレースの基本、メンタルの部分などは伝えることができます。それにiQFOiLはあたらしい種目なので、選手と探しながら築き上げていくという考え方です。

編集長:東京五輪までに経験してきたものをベースにして、レースコースやストラテジー(戦略)について指導することが多い?

外薗:はい。でも、iQFOiLのような種目はスピードが大切になります。スピードをあげることといいコースを選択することの優先順位をつける。練習でも優先順位をつけてることを大事にしています。選手と一緒にトレーニングしながら、ともに成長していくというスタンスです。

オリンピックを経験して、次世代選手の指導と自身のセーリングを両立させることを目的に活動しています

◎スナイプに乗ったのは実質2カ月ぐらい。基本練習ばかりしていました

編集長:外薗選手のもうひとつの目標。自身のセーリングについてはどうでしょうか。去年開催された全日本スナイプ級選手権では、大学後輩の磯崎哲也選手(2018年470世界選手権優勝)と組んで初出場・初優勝を飾りました。それまでにスナイプの経験はあったんですか?

外薗:スナイプに乗ったのはオリンピックが終わってから2週間後ぐらいです。それまで一度だけ実業団のレースに出たことがあったけど、本格的に乗ったのはそれがはじめて。福岡で乗り始めました。

編集長:オリンピックが終わってスナイプ全日本まで3カ月程度です。単純な質問ですが、それでどうして勝てたんでしょう?

外薗:どうして勝てたのかは、そうですね、、、練習は基本練習ばかりしていました。

編集長:ヨットの基本的な考え方に基づいて?

外薗:そうです。まったく学生の時と同じように、まずは基本的なマークラウンディングを練習していました。学生の練習に混ぜてもらったりして。 その中で一週間ずつ2回合宿しました。その間はひたすらマークラウンディングです。ただ走るだけということはしなかったですね。それとタックジャイブの動作が中心。練習量は多かったと思います。

編集長:それを学生選手と一緒に?

外薗:そうです。ふたりともスナイプの経験がないので、学びながらという感じです。磯崎とも一緒に乗ったことがなかったので、どういうコミュニケーションを取れば船を速く走らせられるかを考えていました。

編集長:スナイプ全日本では、ダウンウインドの走りが印象的でした。ふたりのコンビネーションで走らせているのがおもしろかった。そういった練習をしていたんですか?

外薗:はい。スナイプに対する固定観念がなかったから、いろんなことを話し合いながら練習していました。ランチャーをスピンみたいに動かしたらどうだろうとか。スナイプに乗って分かったことのひとつに、クルーは動いたほうが間違いなく速くなる。でも、葉山(全日本開催地)に来るまで強風が遅かったんです。

編集長:磯崎・外薗組は中から強風の全日本で2-1-1-4-1-(33)位の成績で優勝しました。強風アップウインドでも速い印象でしたが?

外薗:強風のクローズが遅くて悩んでいたんです。大井さん(Tsujido Racing)に聞いたりしていましたが、電話だったので詳しくわからず。全日本前に葉山に来て見てもらったら、全くわけのわからないセッティングになっていたそうで、「これじゃ走らないよ」って(笑)。ぼくたちの船はレース・セッティングになってなかったみたいです。

編集長:そうだったんですね。では、大会前にハーバーで聞いて改善された?

外薗:それで最後に磯崎の感覚と実際に松永さん(2008年北京五輪470日本代表。2021年スナイプ全日本2位)と走り合わせて、細かいチューニングをだすことで速くなることができました。その後も白石さん(ノースセールジャパン)と温泉に行く機会があったので、「こういう場面はどうしたらいいですか?」とか動作の部分に関して質問して。スナイプのちょこっとしたテクニックとかを教えてもらいました。スナイプの先輩たちから教えてもらったことも大きかったと思います。

編集長:外薗選手は2017年の470全日本選手権で即席チームで優勝(はじめて岡田奎樹選手と出場)したし、スナイプでも同じような勢いがありました。外薗選手の頭のなかでは「勝つためのアプローチ方法」みたいなものができあがっているんですか?

外薗:クルーは「縁の下の力持ち」です。ぼくの場合、どうスキッパーを助けるか、コースを引いてる人をどう助けるか、という考え方。どうやってコースを引きやすくして、スピードをどう出せるかとかを考えています。

2021年スナイプ全日本で優勝した磯崎・外薗組

◎1回でもヨットに乗って欲しいなって思うし、ヨットのことを伝えたいし、もっと広めたい

編集長:最後にお聞きします。外薗選手が思い描く将来だったり、夢みたいなものはありますか?

外薗:かなり漠然としていますけれど、セーリング業界をまだまだ盛り上げたいっていうことがあります。ぼく自身が海好きだしヨット好き、というのもありますけど、日本って島国なのにどうしてマリンスポーツ、海のスポーツが流行ってないんだろう、って疑問があるんです。こんなに身近に海を感じられて、こんな自然があるのにもったいないな、という気持ちがあるので、いろんな人にヨットに携わって欲しいなって思います。

編集長:イギリスやフランスでは子どもの頃に授業や臨海学校で経験するので、セーリング経験者はかなり多いですよね。

外薗:1回でもヨットに乗って欲しいなって思うし、ヨットのことを伝えたいし、もっと広めたいという思いがあります。「小学生の時に1回乗ったことがある」でも全然いいと思います。

編集長:そういう思いが背景にあって、自分がいまできることはオリンピックコーチとクルーザーやスナイプでいい成績を残していくということなんですね。外薗選手はファンが多いので、みんなたのしみにしていると思います。

外薗:ぼくなんて、もう忘れられてますよ(笑)。クルーって注目されないんですよね、スキッパーに比べたら。見ていてかわいそうだなと思います。

編集長:そんなことないですよ。マルコム・ページ(北京、ロンドン五輪470金メダル・クルー)は、マット・ベルチャーをリードしていて、当時はスキッパーと同等に評価されていました。外薗選手もスキッパーを越えるクルーになれるんじゃないでしょうか?

外薗:いえいえ(笑)。

編集長:きょうは貴重な話をありがとうございました。

2022年4月2日 パルマ・デ・マヨルカにて

外薗潤平(ほかぞの じゅんぺい)。1991年3月20日生まれ。身長174cm、体重73kg。鹿児島商業高〜日本経済大〜JR九州。2017年、18年、20年、470全日本選手権優勝。2018年江の島ワールドカップ優勝。2021年東京五輪470級7位。2021年スナイプ全日本選手権優勝。現在所属フリー

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