次世代オリンピックセーラーを育てるJSAFホープ育成プログラム
日本がメダルを逃した東京オリンピック。日本セーリング連盟からオリンピックを科学的に分析した報告は発表されていませんが、ここで立ち止まっているわけにはいきません。和歌山セーリングセンターでユース選手を対象としたあらたなプログラムがはじまっています。(BHM編集部)
2020年に始まった日本セーリング連盟(JSAF)オリンピック強化委員会による「NF_HOPE育成プログラム」は、五輪で活躍する次世代選手を育成するためのプログラムです。
プログラムには、帆走技術だけでなく、フィジカル、ルール、気象、栄養など、セーリング競技で勝つためのさまざまな要素が盛り込まれています。
参加年齢は13〜22歳で、全日本選手権等で成績を残した選手、選考(トライアル)に合格した選手、五輪やユースワールド等を目指す強い意志のある選手などが対象となっています。
ここではオリンピック強化委員会から届いた「NF_HOPE育成プログラム」のレポートを紹介するとともに、ユース選手に活動内容を知ってもらい、オリンピックを目指すセーラーを募集します。
※NF_HOPE育成プログラムの詳細は下記リンク先(PDF)を御覧ください。
◎第4回 NF_HOPE育成プログラム・レポート
期間:スキフ 2021年9月7日~9月15日
開催地:和歌山ナショナルトレーニングセンター(和歌山セーリングセンター)
第4回となる第1期NF_HOPE育成プログラムは、第3回と同様にプログラム参加2日前に選手、スタッフ全員のPCR検査を行い、プログラム期間中には毎朝の体温、体調チェック、抗原検査を実地し、徹底した感染防止対策の中で行いました。(レポート・写真提供/中村健一 JSAFオリンピック強化委員会)
今回は、専門講習以外に救急処置講習やシートスプライス講習などを取り入れ、指導にあたるコーチ陣も選手と一緒に学ぶことができました。プログラムの内容は下記のとおりです。
① 朝のウォーミングアップ
② 海上練習
③ ECC英会話講習
④ セーリング技術講習
⑤ 救急処置講習
⑥ ルール講習
⑦ 気象講習
⑧ シートスプライス講習
⑨ 栄養講習
⑩ フィジカルトレーニング&フィードバック
その他 プログラム内容ピックアップ
■プログラムの内容
① 朝のウォーミングアップ(体温・体調チェック、ランニング、ラジオ体操)
② 海上練習
海上練習ではボートハンドリング、マークラウンディング、ヒールバランスを中心とした指導を行いました。選手たちは沈をするものの、体力もプログラムの中で向上し、笑顔で対応できるくらいたくましくなりました。
レースではシニア選手にくらいつけるレベルに成長し、モチベーションは非常に高い状態で練習に臨めていました。陸上では動作シミュレーションを使用し、動作時の歩数の確認と正しい姿勢を49er東京オリンピック代表の小泉維吹選手から指導を受け、非常に内容の濃い貴重な時間を過ごせました。
③ ECC英会話 講習 講師:山中直也先生(株式会社ECC)
前回の選手フィードバックを反映し、各選手それぞれに講師をつけてマンツーマンでの講習に切り替えました。選手たちは講習に慣れてきたようで、講師の方と楽しく会話を楽しんでいました。今後、世界を目指す選手にとってはたくさんの友達や情報収集に役立てて欲しいと思います。プログラムの重点強化として引き続き継続します。
④ セーリング技術講習 講師:鹿取正信先生(株式会社ノースセールジャパン)
セールの役割やセールトリム、ヒールの影響など、いくつかの項目に分けてHOPE育成選手が理解しやすいよう、図と細かい説明をしていただき、セーリングの最も基礎的な理解を深めることができました。
選手たちは講習の中で自分がわからないことに関して積極的に質問し、分かりやすく説明をいただき、知識の向上が図れました。セーリング競技で頂点を目指す中で、1番大切な基礎理論を今後もプログラムの中でしっかり勉強できるよう取り組んでいきます。
⑤ 救急処置講習 講師:上田健太郎先生(公立大学法人 和歌山県立医科大学)
プログラムを推進する中で、特に気をつけなければいけない海上事故を未然に防ぐことをテーマに上田先生を講師に招き、救急処置方法を全員で学びました。
海上で起こりうる衝突や沈などで発生する怪我や骨折など、コーチ・選手全員が、これまでセーリングで起こった事故事例を検証し、実際にプログラムの海上練習中に起こりうる事例を全員で話し合い、主に骨折・外傷・頚椎損傷など、海上で発生した際の適切な救助方法、処置方法、連絡手順などプロジェクターを使用し対処方法のご指導をいただきました。
講習を終え、我々コーチ陣も選手も「海上事故」に関して再認識し、気を引き締める良い機会となりました。
⑥ ルール講習 講師:吉本昌弘先生
ルール講習では海上で起こったいくつかのインシデントをもとに、抗議艇、被抗議艇に分かれて審問を実施。コーチ陣が審判員となり、実際の審問と同じように目の前で聞いて判断する緊張した中での実戦講習となりました。
回数を重ねるごとに、何を言わなければならないのか「主張」ではなく、正確に「どの位置で見ていたか」、「距離はどのくらいだったか」、「どのように見えたか」、「見る位置はどこから見たのか」、「何秒前はどこにいたのか」、「何秒後はどこにいたのか」などを詳しく数値で聞くこと(幅=Gap 距離=Distance いつ・どこで?)を学び、実践できるようになってきたことは大きな成果でした。ルールで負けない選手の育成を引き続き行っていきます。
⑦ 気象講習 講師:岡本治朗先生
気象講習では地形による影響と、雲の影響でもたらす風の変化に関して細かい説明を受けました。和歌山セーリングセンターは湾に囲まれ、気象を学ぶのに最適な環境となっています。
毎日、天気予報を色々なサイトで調べ、その日の予報をホワイトボードに記入、1日の練習後に実際にどのように風が変化したのか、予報とのズレはなかったか、風の変化が発生する際の雲の状況や、雨など変化に対する「気付き」を発見できるよう指導を受けました。
海上でも意識して変化に対して確認することが大切です。ベーシックプログラムで基礎を学んでいる選手たちには非常に難しい課題ですが、反復を怠ることなく継続すれば、いずれ当たり前になっていくことと思います。その日を目指して気象講習は続きます。
⑧ シートスプライス講習 講師:コーチングスタッフ
セーリングで使用する艇のほとんどに、たくさんのシートが使用されています。最近ではシートスプライスといった技術がディンギー界にも流行りだしはじめ、多くの艇がシートスプライスで繋がれたり、シャックルとして使用されたりと、より複雑なスプライスに対応していくためにも、基本スプライスから少しずつ学ぶ場として開催しました。
今回はアイスプライス・テーパースプライスの2種類をコーチ指導のもと作成しました。最初は綺麗なスプライスにはなりませんでしたが、回数を重ね綺麗に出来上がったスプライスに大満足でした。自分の乗る艇をかっこよくスプライスできる日が楽しみです。
⑨ 栄養講習 講師:武田哲子先生
今回の講習では「レース前、レース中の栄養摂取」「水分補給」の2講習を行っていただきました。講習の中では選手一人ひとりがレース前の食事のタイミングの大切さ、食物の違いによる胃内停滞時間の比較を学びました。
またアスリートのための糖質摂取ガイドラインを参考に、グループワークで適正な糖質摂取量や献立などグループ対象者の体格を設定して発表するなど知識を深めることができました。アスリートにとって自身を成長させるのは自分次第です。選手が正しい知識を持って育っていけるようサポートしていきます。
⑩ フィジカルトレーニング&フィードバック 講師:吉松大樹・石嶺忍
プログラムでは毎日1時間、専門トレーナー指導のもとフィジカルトレーニングを行なっています。機能的動作能力チェック(FMS)で自分の稼働範囲を理解し、正しいフォームの指導を中心にバランスの良い体を作れるようトレーニングを通じて強化しています。
選手たちはたくさんの講習と海上練習で疲れていますが、集中力を切らさず最後まで頑張り抜きました。東京代表の小泉選手も一緒にトレーニングに参加していただき、選手のモチベーションも常に高い状態で最終日まで継続できました。本当に若い選手は可能性の塊です。体力測定のフィードバックでは、地元に帰り、自分の弱いところの克服に向けて頑張るよう指導を行っています。
その他 プログラム内容ピックアップ
9日間のプログラムも無事終了し、選手たちは一段と逞しく成長しました。プログラムを進めていく中で、多くの講習を受講し、これまでぼんやりとしか意識できていなかった様々なことに関して、どんどん霧が晴れていく感じで、自分が考え、自分の意思を持って行動できるようになってきたことで自信に満ちあふれた顔になってきました。
これからの日本のセーリング界を支えていくであろう若き選手達に、より良い環境を作り続けていきたいと思います。
- NF_HOPE育成プログラム(PDF)https://jsaf-osc.jp/data/NF_HOPE_training_program.pdf