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僕のストーリーは日本人である事。白石康次郎インタビュー(3)

 ヴァンデ・グローブで世界一周を達成した白石康次郎さんのインタビュー最終回です。これまで2回の記事では白石さんの航海についてバルクヘッドマガジン編集長がセーラー視点でインタビューしてきました。最終回は読者のみなさんから届いた「白石さんへの質問」に答えていただきます。(BHM編集部)

世界一周から戻った白石康次郎さんをインタビューしました。白石さんは自身3度目の出場、5回目の世界一周となる、2024年第10回ヴァンデ・グローブ出場を発表。ますます日本のセーリングを盛り上げてくれるでしょう

BHM編集長:最後はバルクヘッドマガジンのSNSで集めた白石さんへの質問に答えていただこうと思います。たくさんの質問が届いたんですが、全部は聞けないので選んできました。よろしくお願いします。
白石康次郎:どうぞ。なんでも聞いて。

【質問】白石さんは船酔いが激しいと聞きましたが、今回はどうでしたか?

白石:いい質問だね(笑)。今回は船酔い対策で2つ成功した。1つはいい薬を見つけました。これは違法じゃないよ(笑)。市販されているスイスの船酔い止め。素晴らしいです。日本で輸入して欲しいくらい。眠気もそんなにないし、今回は1回も吐かなかった。
編集長:それはレース中毎日飲んでいたんですか?
白石:いえ、スタートして一週間ぐらいです。もうほとんど吐くことはない。ただし気持ち悪い。気持ち悪いけど、前のより全然効きます。あともう1つ。手術(スタート前の2019年に大動脈瘤が見つかり手術した)したんで主治医から処方箋でしか手に入らない流動食を手に入れたのよ。
編集長:流動食ですか?
白石:そう、入院患者用の。あれが良かった。気持ち悪いんだけど流動食を取りながらスタート後7日間持たせた。いい薬を手に入れたのと流動食で乗り切ったので今回は吐くことはなかったです。薬のおかげです。

【質問】レース中、日本人らしいパフォーマンスが見受けられました。そういうのは、誰が提案しているのでしょう? ボツになった案などあれば教えてください。

白石:あはは。居合の格好は受けたね。
編集長:日本人らしくて良かったです。
白石:今回はね、さらに期待感が増して。フランス人が「どんな格好するの?」って。そういうことで、期待されてるんだなあということと、森オーナー(DMG森精機株式会社 森 雅彦取締役社長)に聞いたら、やってもいい、と。DMGも丸いワッペン作ってさ。あれはもう、お約束のレベルに達しましたね。あとぼくが居合をやってる、ってことね。実際に居合をやってるので、いいパフォーマンスになったんじゃないかな。
編集長:船上で鬼滅の刃の格好もありました。
白石:そう、鬼滅ね! 実はあんまり知らなかったんだけど、やたらYahoo!ニュースで鬼滅、鬼滅って言ってる。で、あれはスタート前にフランスのAmazonで手に入れたんだ。
編集長:あのはっぴを?
白石:そう。でも、レース中忘れちゃっていて。チームに「そろそろ鬼滅やったらいいんじゃないですか?」って言われてやりました。うちの娘から「お父ちゃん、その目力いらない」って注意されたけど(笑)。
編集長:フランスのテレビニュースでも流れたようですね。
白石:ぼくのストーリーっていうのは日本人であるること。ヴァンデでアジア人はぼくだけ。あれができるのはぼくだけです。そこを大切にしました。
編集長:ボツになったり、失敗したなという案はありました?
白石:ボツはないけど、残念だったのは、お正月、クリスマスは良かったけれど、節分が来ちゃったんだよね。フィニッシュが遅れたもんで用意してなかったんです(笑)。1月中にゴールすると思ってた。これは計算外でした。

ヴァンデ・グローブ世界一周レースの大西洋上で居合を披露する白石康次郎さん

【質問】今回のヴァンデ・グローブは最初から完走目的だったと聞きましたが、メインセールのトラブルがあり、明らかに順位ではなく完全に完走目的に切り替わりました。その時、どんな気持ちだったんでしょうか?

白石:はい。最初から完走目的でした。間違いない。しかし、いくら完走目的でも……
編集長:低気圧に突っ込んだ時も、少しでも前の船に近づきたいってことでしたよね。
白石:そうです。もちろん。だって完走目的だって走り抜かなきゃいけないし。船を壊してまで飛ばすということではなくて、一生懸命走るってことは、完走目的だろうが一緒です。順位を上げるために突っ込んでいって、そこでたまたまね。セールを破って完走目的に変えた、ということではない。ただ、ビリで走るのは辛かったです。恥をさらして走るようなもので。ただでさえ大変なのに、ボロボロのセールでこれから世界一周だからね。精神的にきついよね。ジェレミーの尊敬しているところは、あの優勝候補がすぐに帰ったでしょ? 勇敢だったよ。(注:ジェレミー・ベユウ(仏)は未確認浮遊物との衝突でフォイル、ラダー等を損傷し、スタート地のレ・サーブル・ドロンヌへ戻り、修理後に再スタートした)。
編集長:優勝はもう難しい状況でした。
白石:優勝は絶対無理。よく再スタートを切ったと思うよ。ぼくはジェレミーに抜かされるのはわかっていた。だって向こうは完璧な整備でスタートするんだから。ぼくは最初から完走目的だったけれど、ビリで走るのはつらかったということです。

【質問】多田雄幸さんが船の上でサックスを吹いていたように、船の上で気分転換をする時、どんなことをされていましたか?

白石:落語や音楽を聞いていました。フォイル艇なんでノイズキャンセリングのヘッドホンで。
編集長:ノイズキャンセリング?
白石:フォイル艇は本当にうるさい。走っている時はキャビンにいてもキーン(共鳴音)と鳴っています。あれは人間の乗り物じゃないからね。ノイズキャンセルのヘッドホンするといい気分転換になる。
編集長:そこで落語を聞いているという(笑)。
白石:落語や音楽を聞くとほわーっとなる。ただね、欠点がある。外した瞬間に地獄に引き戻される。ヘッドホンをパッと外したらキーンってなるから。

【質問】白石さんのように機嫌よくあろうと思っていても、徹することができません。いつも機嫌よく、そして困難を前にして笑顔でいるためのコツがあれば教えてください。

白石:本当に好きなものだったらそうなりますよ。不機嫌ということは、あなたそれ違うよね、って意味なんだよね。ぼくは常に心のサインに気を付けていて。心のコンパスね。自分の心のコンパスと頭と言動と行動が一致すると、笑顔になるように人間ってできてる。これがパッと外れると、あれおかしいな、面白くないな、つまんないな、ってなる。つまりこれはサインなんです。あなた違ってますよ、と。ぼくがなぜできるかというと、合ってるからです(笑)。簡単に言うとね。
編集長:なるほど。
白石:もし、そうできなかったら、できなくてもいいんです、違ってますよっていうサインなんです。
編集長:ふむふむ。
白石:わかってないでしょ?(笑)
編集長:わかりますよ(笑)

白石:これからの若手セーラーはバルクヘッドマガジンに期待してるよ。他と一風変わったタッチで、違った切り口でね。ぼくのことで初めてヨットを知ったとか、ヴァンデ・グローブを知った、という人も多いと思う。ニュース番組で知ったと言う人も多い。それを上手くバルクヘッドマガジンに誘導してもらって「じゃあ乗ってみようかな」ぐらいのレベルまで引き上げて欲しいな。
編集長:白石さんっていう名前でヨットやセーリングを知ったという方は多いと思います。世界一周や白石さんのニュースは、定期的に発信していきたいですね。
白石:「次は白石君が船を持ってくるらしいですよ、ここに行くといますよ」などを伝えてほしい。バルクヘッドマガジンは情報が早いからみんな見てくれる。(注:〈DMG Mori Global One〉は日本にやってきて、今年日本国内を航海します。パールレースに出場する計画も有)
編集長:きょうは本当にありがとうございました。これからも白石さんのニュース、次回ヴァンデ・グローブのニュースを楽しみにしています。

3/31記者会見で発表された2024ヴァンデ・グローブに向けたスケジュール

◎ヴァンデ・グローブ
4年に一度開催される単独無寄港無補給世界一周ヨットレース。世界一周2万6千マイル(約4万8152km)を約80日掛けて走る外洋ヨットレースで、第9回大会は33艇が出場し、2020年11月8日にレ・サーブル・ドロンヌ(仏)をスタート。第9回大会1位のヤニック・ベスタベンの記録は80日3時間44分46秒(大会記録は74日3時間35分46秒)。白石康次郎は94日21時間32分56秒(16位)でアジア初の完走を果たしました。

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