Loading

【特集3】たったひとりの大西洋横断ミニトランサット。スタートは来年秋

 大西洋横断ミニトランサット特集最終回。鈴木晶友選手のインタビュー後編を紹介します。ミニトランサットのようなひとり乗り外洋レースは国内にありませんが、鈴木選手がフランスで活動してみて「若者にもチャンスがあるオフショアレース」と感じているようです。なかなか興味深いヨットレースですね。(BHM編集部)


ミニトランサットで採用されるトランサット650は全長6.5メートル。デッキ上で作業するときはオートパイロット(自動操舵装置)を使いティラーを固定して移動します。photo by Junichi Hirai

BHM編集部:
鈴木選手は大学ヨット部を卒業して、モスにも乗るディンギー系セーラーの印象があります。いままでセーリングしてきて役立つことは、どんなことでしょう?

鈴木選手:
ディンギーの経験がすごく役に立ってます。学連の世界はとても狭い世界です。ここで競技をやっていたからこそ、外に目を向けるようになりました。ミニの世界は本当におもしろい。そんな世界があることをみなさんに知ってもらえたらいいなと思います。

BHM:
鈴木選手は、昨年から計画をはじめ、今年に入って中古艇を購入。4月から渡仏して船の整備やレース準備をおこない、6月に2つのレースに出場しました。計画通りに進んでいるように見えますが、大変だと感じたのはどんな部分ですか?

鈴木:
それは、、、全部なんですけども(笑)。でも、いちばん意識が変わったのは安全面かもしれません。正直なことを言うと、安全面に対する日本との意識の違いに驚かされました。ミニトランサットでは電子チャート、インマルサット(衛星通信)は禁止されています。エンジンの使用は禁止、携帯電話を持っていくことはできません。

BHM:GPSプロッターに地図が表示されてしまうのでは?

鈴木:地図がインストールされていない状態で使います。これはレース前にクラス協会のメジャラーに確認され、地図をインストールできないようにカードスロットを封印されるまで徹底しています。プロッター画面には、あらかじめ打ち込んだポジション(位置情報)が表示されます。数百個の位置を数日かけて手打ちで入力するわけです。


モスで飛ぶ鈴木晶友選手。2016年に葉山で開催された世界選手権や海外の大会にも出場しました。photo by Junichi Hirai


位置情報をプロットした地図の表示されないGPS(左)とAIS(自動船舶識別装置)。photo by Junichi Hirai


日本で制作した太陽光パネルを取り付けました。大西洋横断本番までにもう1台を設置予定。photo by Junichi Hirai


ジェネレーターはアルコールで発電するタイプで100Ahのバッテリーが2個積まれています。ほぼオートパイロットで利用されます。photo by Junichi Hirai


参加選手は多種多様。写真の女性セーラーはフランスのファッション系フォトグラファーとのこと。フランスの女性はパワフルでかっこいい!photo by Junichi Hirai

BHM:
それは気が遠くなる作業です。ほかに日本と違う、と感じたことはありますか?

鈴木:
メジャラーはミニトランサット出場経験者なので、とても現実的なアドバイスをしてくれます。たとえば、「15秒以内にライフラフトと取り出せなければならない」というルールがあれば、実際に時計で測って本当に15秒以内に出せるか実践させる。ダメなら別の取り出す方法を考えなければなりません。本当の緊急時に必要になることです。

BHM:
ミニトランサットで使用できる通信機器は、VHF(国際VHF無線)だけです。レース中の気象情報は、どのように知るんですか?

鈴木:
ルールではありませんが、ラジオの気象情報から天気図を取ることになります。これは自分の課題ですが、ミニトランサット本番までに、フランス語の気象情報を聴いて、天気図が描けるようにならなけれなりません。これから勉強します。

BHM:
GPSプロッターや通信手段、天気図の話しを聞いて、ミニトランサットはとてもアナログ的に感じました。

鈴木:
活動していて感じるのは、クラス協会がルールを若者が挑戦するチャンスを与えてくれているのかな、ということです。選手にお金を使わせないことで、門戸を広げているように感じました。衛星通信を使えば、安全で便利でしょうが、費用を考えると20代の若者が挑戦するのはむずかしくなる。レース中は選手同士がVHFで連絡を取り合い、安全面で助け合う、という考え方が根底にあります。

BHM:
鈴木選手は、フェイスブックを使って動画配信しています。レースだけでなく、食事や費用のことも紹介する等ヨット好きなら興味を引くおもしろい内容です。ミニトランサットの活動を通じてどんなことを伝えたいですか?

鈴木:
ミニのいいところは、準備から船の整備、改造、セーリング(レース)まですべてをやろうと思えばひとりでできることです。時間がかってしまうけれども、船好き、レース好きにはたまらない。ぼくがやっていることを「アイツ、おもしろそうなことをやってるな」と思ってくれたらうれしいです。

BHM:鈴木選手のミニトランサットの活動は、これからもバルクヘッドマガジンで取材していきます。ご活躍を楽しみにしています!

◎フェイスブック
https://www.facebook.com/masatomo.suzuki
◎FLATWATER ウエブサイト
http://flatwater.jp/
◎Class mini Association
https://www.classemini.com/
◎Mini-Transat
http://www.minitransat.fr/


レース前のメジャーメントではライフラフトの取り出しタイム(15秒以内)をはかります。ミニ経験者のメジャラーから実践的なアドバイスをもらえました。photo by Junichi Hirai


こちらは鈴木選手の船とは違う「プロトタイプ」艇。カーボンマスト、ブーム、カンティングキールの発展的デザインが特長的で、当然プロトタイプの「シリーズ」艇よりもスピードがあります。photo by Junichi Hirai


キャビン内でマストに備え付けられた水を沸かすジェットボイルとトイレで使用するバケツ。キャビン内は極めてシンプルです。photo by Junichi Hirai


鈴木選手とミニトランサットの活動は随時バルクヘッドマガジンでお伝えしていきます。お楽しみに!photo by Junichi Hirai

====================================
わたしたちは走り続けるセーラーを応援します
BULKHEAD magazine supported by
ベストウインド
ジャストヨット運送
ファーストマリーン
日本レジャーチャンネル
ベイトリップ セーリング
パフォーマンス セイルクラフト ジャパン
SAILFAST
ウルマンセイルスジャパン
ノースセールジャパン
アビームコンサルティング
トーヨーアサノ
リビエラリゾート
コスモマリン
JIB
一点鐘
エイ・シー・ティー
ファクトリーゼロ

CATEGORY:  COLUMNNEWSOFFSHORESPECIAL