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ソフトバンク・チームジャパン早福和彦総監督インタビュー・後編

 アメリカズカップで新採用されるニューボート(AC50=ACC。アメリカズカップクラス)のニュースが、あちこちから飛び込んでくる時期になりました。2月上旬、イギリスのランドローバーBARが一足先に進水。14日にオラクルチームUSAも新艇を発表。エミレーツ・チームニュージーランドからは、グラインダーを足こぎタイプ(サイクルペデスタル)を採用するという情報も入ってきました。さあ、日本のAC50も進水間近です。バルクヘッドマガジン編集長による、ソフトバンク・チームジャパン早福和彦総監督インタビュー後編を掲載します。(BHM編集部)

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ソフトバンク・チームジャパンのキーパーソン、早福和彦総監督。photo by Junichi Hirai

2021年までのアメリカズカップ長期計画が発表される。
しかし、チームニュージーランドが勝利した場合は、、、

BHM編集部:1月後半、ニュージーランド以外のチームが同席して、アメリカズカップの将来的な計画が発表されました(第36回大会を2019年、第37回大会を2021年に開催。2017年秋以降から予選を開始して年間12戦を予定。1年目はAC45Fを使うが翌年からはAC50を使用する等)。この背景にはイベントを途切れさせないことでチームを維持すること。アメリカズカップを商業スポーツイベントとして浸透させること。スポンサーを継続させることなどが考えられますが、早福さんはこの計画をどのように評価していますか?

早福総監督:とてもポジティブに考えています。2年周期で開催されることは各チームにメリットが大きい。巨額の費用があるなら別ですが、4年間チームを維持することはむずかしい。最初の2年間は何もないに等しいのに人材を確保しておかなければなりません。(これまでのアメリカズカップのやり方では)どうしても一度白紙にもどさなければならなくなる。短くて忙しくなる計画ですが、活動をストップさせないことで、スポンサーもやりやすくなるし、大きな利点があると思います。

BHM:本格的にプロ化されることにより、人材が固定されてしまうのであたらしい選手、特に若者は入ってこれなくなるのでは?

早福:いえ、逆に若者のチャンスは増えると考えています。開催期間が短くなり、人によっては4年で2回チャンスがまわってくる。いまバミューダに日本ユースチームの〈海神ジャパン〉が来てトレーニングしています。将来的には、彼らの中からチームジャパンに参加する選手がでてくるかもしれません。

BHM:ラッセル・クーツ(アメリカズカップ・イベントオーソリティー)に話を聞いたところ、アメリカズカップは前大会から目標に掲げていたコストダウンに成功し(前回より約50パーセント削減)、またレースのネット放映を有料化したことで利益を生み出すようになりつつあるようです。セーリングが、スポーツイベントのカタチになってきているのを感じています。

早福:よい方向に向かっていると思います。なにしろぼくが驚いたのが、福岡大会で日本のみなさんが、お金を払ってセーリングを見に来てくれたことです。福岡大会には1万4千人が観戦にきてくれました。ぼくの考えでは、“ありえないこと”が起こったんです。それだけ魅力的なものになりつつあるんだと思いました。セーリングはスポーツイベントとして未開発なもので、成長する可能性のあるスポーツです。非常にたのしみです。

BHM:将来のアメリカズカップの計画の発表で、エミレーツ・チームニュージーランドだけ同席しませんでした。これはどのような理由があるのでしょうか?

早福:いまチームニュージーランドだけ別の立場にいるのは確かです。ことの発端は、当初、クオリファイヤーズをオークランドで開催するという話がありました。この件で、チームニュージーランドはACEAと契約を結びましたが、艇の運搬に無理がありキャンセルになった。これをニュージーランドが不利益を被った(期待していたスポンサーを獲得できなかった)として抗議していました。この抗議の一部として「ブラックアウト」(ニュージーランド艇がバミューダへ運搬中、AC50の練習をしてはいけない)が認められた、という流れがあります。

BHM:チームニュージーランドが勝利した場合、発表されたアメリカズカップの計画は実施されない可能性もあるのでしょうか?

早福:そうなるかもしれません。ワールドシリーズでおこなわれているコンペティター・フォーラム(各チームが将来のアメリカズカップやクラスルール等の細かいことを話し合う場)に、ニュージーランドは最初から参加していません。願わくは、後味が悪くなるような結果を残して欲しくないように思っていますが、なかなか全員がハッピーになるのはむずかしいかな、という気がしないでもありません。

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1月25日、ロンドンで発表された記者会見で第36回、第37回までの計画が発表されました。photo by ACEA

日本選手はハードな運動量のグラインダーを担当。
アメリカズカップ本番では、交代しながら乗艇する

BHM:ソフトバンク・チームジャパンには、早福和彦、吉田雄悟、笠谷勇希の3名が所属していて、6人乗りのAC50には、アメリカズカップのルール上、日本選手が必ず1名乗艇することになります。どんな判断基準でクルーを決定するのでしょうか?

早福:いまは、吉田選手、笠谷選手をローテーションで乗せています。この理由のひとつは、これからレースまでの実際の練習時間は限られていて、50日もないぐらいです。1日の練習は3時間、2時間で終わってしまうこともある。限られた時間のなかで、ぼくが乗っていたら2人が育ちません、これは、絶対にやらなければならいことで、彼らを徹底的に鍛え一人前のクルーに育てることがぼくの任務、と考えています。ただ、ぼくが引退するというわけではありませんよ(笑)。

BHM:日本選手は、AC50でどこのポジションを担当するのですか?

早福:ナンバー3と呼ばれる後方のペデスタル(グラインダー)の前位置を担当します。ボート性能があがったことで、体力的に本当に厳しくなりました。1レース20分そこそこですが、全力疾走を続けているようなもの。レース中の心拍数は80〜90パーセントを維持している状態です。船のパフォーマンスに影響するので、1日3レースある日は間違いなくクルー交代します。これは日本人クルーだけではなく、他のクルーも交代する。

BHM:フォイリング・アクションはコンビネーションが重要になるだけに、ひとりの役割は大きいですね。

早福:コミュニケーションひとつにしても、マイクとイヤホンを使っておこなうので、簡素な言葉ですが、これをしっかり理解していなければついていけないこともある。練習時間は足りないぐらいです。

BHM:AC50では油圧システムで各部所がコントロールされます。そのなかで、グラインダーはどんな役割をするんですか?

早福:油圧システムの圧力(プレッシャー)を貯めるためのグラインダーです。スタート時は当然満タンになっていて、それを使うのでレース中は常にグラインドします。ワールドシリーズで使用していたAC45Fはハイクアウトするときに息を整えることができました。でも、AC50では休む暇がありません。正直、ハードです。

BHM:アメリカズカップがどんな戦いになるのか、いまから興奮しますね。最新艇AC50とそれを操るセーラーのパフォーマンスも期待しています。

早福:いまソフトバンク・チームジャパンは、バミューダで猛烈にトレーニングしています。アメリカズカップをたのしみにしていてください。

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ワールドシリーズ福岡大会で記者会見するソフトバンク・チームジャパン。photo by Junichi Hirai

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2月14日に発表されたオラクルチームUSAの新艇AC50。photo by ORACLE TEAM USA

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