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五輪を目標に「有望選手発掘トライアル」「ナショナルチーム強化合宿」レポート

 12月14〜19日、積雪の美しい富士山が映える冬の江の島で、東京五輪出場を目指すセーリング・ナショナルチームのメンバーと、未来のナショナルチーム入りを目指すトライアル選手の合同合宿が開催された。(レポート・写真/有田浩介)

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江の島で開催された「有望選手発掘トライアル合宿」と「ナショナルチーム強化合宿」。写真は中村健次コーチとトライアル選手

五輪へ挑戦することの意味と覚悟を自ら考えてほしい

 本合宿の運営責任者である中村健次(日本オリンピック委員会・セーリング・ナショナルコーチ)は、本合宿の趣旨について以下のように説明する。

 「東京オリンピックに向けて、ナショナルチームには知識の向上とナショナルチームとしてより強いチームビルドを目指してもらいたい。トライアル選手は、どのようにオリンピックを目指すべきか、また、将来どういう選手になりたいのかをナショナルチームの姿を見ながら学んでもらうための合宿にしてほしい」

 そして、参加者全員に「長いオリンピックへの道のりをどのようにモチベーションを維持しながら戦うか、自ら考えてほしい」と話した。

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江の島ヨットハーバー室内では各分野の専門家を招いた講習会もおこなわれた

 合宿の初日は、セーラー全員が各自3分間丁度という時間規定の中で自己PRを行った。自分の強み、セーリングに対する意気込みを公衆の前でスピーチすることは、常日頃のセーリングに対する意識と長く過酷なオリンピック・キャンペーンを戦う覚悟を再確認する大切な機会となった。

 スピーチの中で、レーザーラジアル級でロンドン、リオと2度の五輪出場経験のある土居愛実選手(慶應義塾大)は、「2度のオリンピックを経て、東京五輪のキャンペーンはもう辞めようと思った。しかし今はまたやろうという気持ちです。自分の中でこの4年間だけというタイムリミットを決めて、その期間内に200パーセントの力を出して金メダルを取りたいと思っています。もし取れなかったらもうヨットは辞めます」とその強い覚悟を話した。

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土居愛実選手。ナショナルチーム海上トレーニング模様

 自己PRが終了すると今度は「世界のセーリング」というテーマで斎藤愛子コーチ(日本セーリング連盟・オリンピック強化委員会)が講習した。

 リオ五輪の49erFX級メダルレースの映像を見ながら、世界のレース中継が空撮やオン・ボード・カメラを駆使し、セーリングに精通していない一般人でもレースを楽しめる映像が作られている事を解説した。映像に関連させ、東京オリンピックでも導入される予定のメダルレース制度について議論をした。

 元五輪代表の松永鉄也コーチは、「わかりやすさを優先してメダルレースで決着をつけるという考えは、セーリングのそもそもの本質であるタクティカルという考えを無視してしまう可能性がある」と発言した。

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松永鉄也コーチとトライアル選手の梶本恆平選手(モス級日本チャンピオン)のナクラ17試乗模様

体力測定の数値は、オリンピック競技全体の平均値より低いレベルにある

 合宿2日目は、トレーニング講習のための体力測定の1日となった。体力測定は腕立て伏せ、立幅跳び、斜懸垂、反復横跳び、上体起こし、シャトルランの6種目で実施された。

 測定について、「全オリンピック競技全体でセーラーの体力レベルがどの位置にあるのかを図るための基礎的なテストを導入した」と講習担当者の萩原正大(国立スポーツ科学センター・研究員)は語った。体力測定の結果を受け3日目はデータベース化した全体の数字をもとに参加選手の体力レベルを検証した。

「体力測定で重要なことは、測ることでその選手の本当の強さを見れることです。客観的にデータを見ることで、他選手との比較が可能になる」とトレーニング指導員の斎藤隆行(国立スポーツ科学センター)が冒頭で説明する。

「今回の体力測定で出た平均値は、オリンピック競技全体の平均値より低いレベルにある。ボート上の動きのトレーニングだけでなくフィジカルを鍛える必要がある。リオ五輪で最も良い成績を残した女子470級のペアは、最後のメダルレースでフィジカルがきつかったと敗因を話していた」

「今後は、VO2MAX(運動中に体内に取り込まれる酸素の最大量)など基礎的な体力の向上と、睡眠、回復、栄養などコントローラブルな能力を高めてほしい」と、イギリス・セーリングチームが1%の改善を目的としたマージナル・ゲイン理論を練習の基本的な考え方に取り入れていることを例に説明する。

「ちゃんと戦える状況を作ってほしい。その上で勝負をして勝ってほしい。それでも負けたら仕方がない。ラインに立たず負けていたら納得できないはずだ」とメッセージを送った。

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古谷信玄/八山慎司。49erペアの体力測定模様

ナショナルチーム入りを目指すトライアル選手は、スピードボートに乗艇

 4日目からの海上トレーニングはナショナルチームとトライアルと分かれて実施され、トライアルはスピードボートと言われている49er級とナクラ17級の試乗会を行った。

 初めてヨットに乗るトライアル選手の杉本寧々選手(ウインドサーフィン/慶應義塾大2年)は「ヨットは役割が分担されていて、各々の操作の技術やコンビネーションが重視される乗り物だと感じました。実際に乗ることでしか分からないその感覚を知った」と語った。

 49er級で五輪に出場し、本合宿にはスタッフとして参加している高橋賢次はトライアル選手について「自分が19歳の時、49erでオリンピックに絶対行ってやると決めたあの頃とみんな同じくらいの年齢だったので、すごく応援したい気持ちになりました。オリンピックが全てではありませんが、これからの人生様々な事にチャレンジする上で、何かひとつでも大切な事を感じ取ってもらいヒントを得てくれたらうれしく思いました」と語った。

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49er級に乗る高橋賢次コーチとトライアルに参加した上園田明真海選手

 ナショナルチームの海上トレーニングは、会議室でのグループディスカッションからスタートした。議論の主題は「ヨットを早く走らせるために必要な事」。グループに分かれディスカッションし、話し合われた事を海上で実践するというトレーニングだ。選手同士お互いのセーリングを観察して、また会議室でセーリングについて議論を繰り返すというルーティーンだった。

 本プログラムを組んだ山田寛コーチ(日本セーリング連盟・オリンピック強化委員会)は「別のクラスの選手を観察する中で速く走るためのアイディアや疑問を持ってもらうと共に、感覚だけでなく理屈の裏付けをしながら確実に積み上げになるスキルアップを図ってもらいたい」とプログラムについて語った。

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山田寛コーチとレーザー級瀬川和正選手

 合宿の最終日は、ナショナルチーム専属の栄養士である武田哲子(びわこ成蹊スポーツ大学・管理栄養士・博士)の栄養講習が実施された。体重別のセーラーが必要とする1日のカロリーとタンパク質量や海上トレーニング後に補給するエネルギー量とそのタイミングについて講習した。

 講習を受けコーチの鈴木恵詞(豊田自動織機ヨット部)は「選手の体調を管理するコーチにとって重要な話しだった。我々は練習中と練習後の水分は随時補給しています。捕食はブドウ糖を1時間に1度(100kcal程度)を目安に摂っています。タンパク質の補給については今後の課題です」と語った。

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豊田織機・鈴木恵詞コーチとナショナルチーム選手

向き合うことの大切さ。2020年への戦いは始まっている

 合宿の全行程を見て率直に持った感想は、強化合宿というには随分地味な合宿だと感じた。会議室での話しが多く海上に出ていた時間は限られていた。ナショナルチームに関しては、約5時間程度しか海上に出ていない。

 実際、選手の中には、今更このような基礎的な話しを会議室でしていても仕方がない、という意見もあった。しかし、今後長く続くオリンピック・キャンペーンで選手は幾度となく壁にぶち当たるだろう。心打ちひしがれ自分やチームに対して不信感を抱く事もあるかもしれない。

 そんな時、選手は自分自身と真正面から向き合い自問自答を続けなくてはならないだろう。「なぜセーリングをするのか? なぜオリンピックを目指すのか?」 ある時より合宿は選手に対して自分のセーリングに対して常に主観的であり、客観的である事を意識させようとしていたように思えた。

 選手は、セーリングに対して誰よりも意識高く、真摯であってほしい。組織はより一層団結力を強める事を目指してほしい。この合宿をどう受け止めるか、個人差はあると思う。ただはっきりしている事は、全員がオリンピックに出場できるわけではない事。2020年への戦いは、足並みを揃えて静かに始まった。

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