世界一周ヴァンデ・グローブ、白石康次郎スタート直前インタビュー・後編
スタート2週間前。通信テストで海上へ出る白石選手と〈スピリット・オブ・ユーコーIV〉。photo by Junichi Hirai
4度目の世界一周へ。ヴァンデ・グローブ世界一周シミュレーション
BHM編集長:ヴァンデ・グローブのスタートは11月6日です。ヴァンデの記録は、前大会でフランソワ・ギャバが残した78日2時間16分40秒です。今年は、どんな展開になると予想していますか?
白石:前回との大きな違いはフォイル艇の登場です。旧艇よりも平均2ノット速く、計算上は73日でフィニッシュすると言われています。
BHM編集長:〈スピリット・オブ・ユーコーIV〉(2007年進水)の同世代艇も多く出場していますね。同世代の戦いにも注目したいと思います。
白石:フォイル艇はトラブルが心配されています。また、スタート直後は、過去のデータを見るまでもなくリタイア率が高い。観戦艇や漁船も多いから危険だし、まだ身体が航海に慣れていない。大西洋に出てカナリア諸島周辺(アフリカ大陸北西部の群島)に近づくとだいぶ落ち着いてきます。
BHM編集長:赤道付近に近づくとどうなるんですか?
白石:赤道周辺は最も神経をすり減らすエリアです。風向・風速が安定しないので、セールチェンジを繰り返すことになるからです。さらに雷とスコールが頻繁に来るので寝る時間はありません。赤道を抜けるとまた3日ぐらい安定する。そして2週間も走れば南氷洋へ入ります。
BHM編集長:南氷洋は氷山のイメージがありますが、遭遇することもあるんですか?
白石:今回のヴァンデ・グローブでは、南氷洋でアイスゾーンと呼ばれる、必ず通過しないといけない場所が決められています。これは、最短コースを選ぶ選手の南下を防ぐ目的です。レース委員会はトップ艇がアイスゾーンに入る500マイル手前で氷山の位置を衛星写真で確認し、正確なゾーンを決めて選手へ伝えます。たぶん氷山に出合うことはないでしょう。
BHM編集長:南氷洋最後の難関、南米大陸南端のホーン岬(チリ)は暴風雨と強い潮流で知られます。
白石:ホーン岬はいままで3回通過したことがあります。嵐が来たら本当に最悪。前回通ったときは40ノットで夜に通過しました。風も安定していたし大したことはなかった。今回もすばやく通過したい。
〈スピリット・オブ・ユーコーIV〉。セールは規定上9枚積めます。メインとストームジブが必須のため、7枚のジブとダウンウインド用セールを選択。白石選手は、J1、J2、J3、A2、A3、ブラストリーチャーを使用する。photo by Yoichi Yabe
コクピット中央のウインチへまとめられたハリヤードロープ。ジャマー類をマスト側に移すなど改良しました。ハリヤードはマストトップでロック(固定)されます。photo by Junichi Hirai
ヴァンデ・グローブのスキッパーは船の上で何をしているのか? 食事や睡眠について
BHM編集長:船の上の生活を教えてください。ひとりで世界一周するということは、どんなセーリングスタイルになるのでしょう。
白石:ぼくが舵を握ることはほとんどありません。舵はオートパイロット(自動操舵装置)に任せて、ほかの作業をします。ひとりで60フィートを操船するということは、すべての作業に時間が掛かるし重労働です。セールチェンジもひとりでアップダウン、セールパッキングをおこない、トラブルがあればそれを修理します。
BHM編集長:航海中はどこで寝るのでしょうか?
白石:寝起きをひんぱんに繰り返すので、長くても1時間寝ることはありません。ベッドはなくて、ビーンバッグ(クッション)に横になる程度です。
BHM編集長:キャビンのなかに簡易バース(クルーが横になる場所)もありませんね。食事はどんなものを食べるんですか?
白石:お湯を入れて食べるアルファ米が主食です。食料は13週間分を用意しました。医者には1日4000キロカロリー摂れと言われますが、そんなに食べられないので3700キロカロリー計算です。水は、船に備え付けた増水器で海水をろ過して使います。
BHM編集長:陸上との通信手段は何を使用しますか?
白石:インマルサット・フリート(衛星通信・衛星電話)。それと2台非常用のイリジウム電話があります。いつでも通信できるので家族と会話もできるし、陸上と変わりありません。むかしの世界一周とくらべて陸と連絡が取れるようになり、スキッパーの仕事が格段に増えました。それにパソコン作業が圧倒的に多くなった。気象データを取り混んだり、モニタでチャート(海図)を確認するから目を使う。世界一周レースに出て目が悪くなるかもしれない(笑)。
〈スピリット・オブ・ユーコーIV〉のキッチンはこれだけ。ジェットボイルを使うので燃料は格段に少なく済むようになりました。photo by Junichi Hirai
食料は2週間ごとに専用ダッフルバッグに保管されています。「食事はおいしいです。全チームのなかで、ぼくがいちばんおいしい食事を用意していると思います」と白石選手。photo by Junichi Hirai
「プロスペックス マリーンマスター オーシャンクルーザー」と世界一周に挑む
BHM編集長:レース中の仕事は、たくさんありそうですね。レース本部との定期連絡はあるんですか?
白石:1日1回AIS(自動船舶識別装置)の位置情報を発信する規則があります。それとメディア向けに毎日写真を1枚、一週間に2分間の動画を送ることになっています。送らないとレース(成績)のペナルティではなく、罰金を支払わなくてはなりません。
BHM編集長:世界一周中はどこの場所に時間を合わせますか? 基準になる場所は決められているんですか?
白石:レース中は3つの時刻を使い分けることになります。ひとつは大会公式のUTC(協定世界時)。日本と通信するので日本時間も重要です。そして、実際に船が走っている場所の時間。これには、セイコーと共同開発した「プロスペックス マリーンマスター オーシャンクルーザー」が役立ちます。
BHM編集長:ニューヨーク〜ヴァンデ(6月に開催された大西洋横断レース。白石さんはこの大会でヴァンデ・グローブの出場資格を手にした)や、ヴァンデ・グローブの準備でオーシャンクルーザーを使用していて、実際の使い心地はどうですか?
白石:ヴァンデ・グローブのスタートまでヨーロッパと日本の行き来が多く、GPS衛星電波のタイムゾーン修正機能機能は、使っていて本当に楽だと感じました。それに、防水で頑丈であることはもちろん、夜間の視認性も良いので目が疲れない。光発電のソーラー駆動でバッテリー切れの心配がないので安心です。
BHM編集長:前回のインタビューでお聞きした、日付変更線(東経180度)を越えたとき、オーシャンクルーザーの短針が24時間逆戻りするという場面も興味津々です。
白石:ぼくも世界一周がたのしみです。みなさんも、いっしょにヴァンデ・グローブをたのしみましょう!
全部で60リットルバッグが満載になるという医療セット。医療講習、安全講習はフランスの民間機関で受講しなければならず、自らオンボードで手術する訓練を受ける。「ケガをして針と糸で縫うよりも大型のホチキスを使用したほうが便利だね。実際にホチキスを腕に打ってみましたよ。そんなこと実際にやる選手はいないみたいで、2度目は講習スタッフに止められた(笑)」photo by Junichi Hirai
写真は船内最後尾部分。ライフラフト(救命ボート)はデッキに1つ、船内に1つ。これは180度に転覆した場合でも、船内から脱出するためで奥に見えるハッチから脱出する。転覆した場合の救助要請は、スピードメーターのバドル穴からイリジウムのアンテナを出して通信する(船内ではカーボン素材が電波を遮るため)。photo by Junichi Hirai
「早ければ1月終わり、2月の上旬にフィニッシュします。今回の目的は安全に戻ってくることです。そして、いつかは日本製のボートでヴァンデ・グローブを戦いたい」と白石選手。photo by Junichi Hirai
セイコー プロスペックス マリーンマスター オーシャンクルーザー
https://www.seiko-watch.co.jp/prospex/sea/marinemasteroceancruiser/gpssolar
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