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リオ五輪470級女子日本代表、吉田愛/吉岡美帆インタビュー

 バルクヘッドマガジン編集長による470級代表インタビュー後編は、女子代表の吉田愛/吉岡美帆(ベネッセセーリングチーム)です。吉田選手は北京、ロンドンに続いて3度目。吉岡選手はオリンピック初出場。彼女たちは、どんなことを考えてリオ五輪に挑むのでしょうか。世界のトップを走り続けている「チームの現在」に迫ります。(BHM編集部)

吉田 愛(写真左)
1980年11月5日生まれ。東京都出身。小学1年からセーリングをはじめ日本大で活躍。2006年世界選手権2位、14年世界選手権8位、16年世界選手権11位。全日本470選手権で総合優勝歴のある女子スキッパー。北京五輪(14位)、ロンドン五輪(14位)。

吉岡美帆
1990年8月27日生まれ。広島県出身。芦屋高でセーリングをはじめ、立命館大ヨット部で活躍。2012年琵琶湖全日本インカレ後、オリンピックを目指すようになる。2013年より吉田愛選手とチーム結成。リオ五輪初出場。実家には犬がたくさんいる。

◎五輪本番まで5カ月。リオの海を想定したトレーニング

BHM編集長:ベネッセチームはロンドン後の結成当初から、大会ごとに具体的な目標を持っていて、「課題出し、練習、レース、克服」を繰り返してきました。いまは、どんなことを課題にしていますか?

吉田愛:リオの海を想定した走りです。わたしたちは強風なら上位を走れるので、軽風までの走りに重点を置いています。オリンピックまで軽風練習だけで良いぐらい。

BHM編集長:この冬はリオデジャネイロと広島でじっくりトレーニングしていましたね。リオの海は、どんな特長があると考えていますか?

吉田愛:オールラウンドな風が吹く海面で、湾内と外では波の立ち方もまったく違います。湾内は、風が弱くてシフトがあって、潮の流れもある。広島の海は、その条件にぴったりでよい練習ができました。湾外に出ると海のうねりもはいってきます。レースではパンピングフラッグがあがっていることが多いですが、あがっても8〜13ノット程度の風です。

BHM編集長:吉岡選手は学連(芦屋高から立命館大)を卒業して、すぐに世界の舞台で戦うようになりました。確か最初の大会は、3年前のラロシェル世界選手権でしたね。五輪代表になったいま、どんな気持ちですか?

吉岡:初めての海外遠征(2013年)に比べたら、ちょっとは気持ちに余裕が出てきました。いまは技術面もそうですが、オリンピックに向けて気持ちの持ち方、余裕の持ち方、精神的な部分をよく考えています。

BHM編集長:はじめて世界で戦った当時は、どんな感じだったんですか?

吉岡:学連の世界しか知らなかったので、衝撃が大きかったです。まず体力がぜんぜんなかった。体力がないと、余裕もなく、ただ乗っているだけ。あの頃からずいぶん練習しました。

BHM編集長:3度目の出場になる愛さんから何かアドバイスはありますか?

吉田愛:吉岡はおっとりしている性格で、どこに行ってもあまり変わらない良い面があります。あれこれ言うより、自然にまかせた方がいいのかなと思っています。ただ、「本番が近づくと、こんなことがあるよ」という例を話すことはあります。知識として知っていれば、衝撃も少ないでしょうし。

BHM編集長:リオ五輪はどんな戦いになるんでしょうか? 470女子は男子と違って「確実にメダルを取る」と予想される選手は少ないかもしれません。

吉田愛:女子チームは波があります。軽風が得意というチームもいますが、それだけではない。なかなか読めません。本番になってみないと分からない部分もあります。

世界でもベテラン格となった吉田愛と学連セーラーから一気に世界の女子クルーに成長した吉岡美帆。photo by Junichi Hirai

◎過去のオリンピック、そしてリオオリンピックに向けて

BHM編集長:これまでのオリンピックと今回のリオ五輪までの流れで大きく違うのはどんな点ですか?

吉田愛:いままでの五輪は準備してきたつもりだけれども、自分が苦手にしている部分、課題にしている部分をちゃんと詰めていなかったように思います。今回のリオは、課題の取り組み方が大きく変わりました。

BHM編集長:自分たちの弱点をはっきりさせた上で取り組んできた?

吉田愛:そうですね。きちんと課題(弱点)をつぶしていけば、どんなにパニックになったとしても自分に身についたものであれば、それを信じて戦えると考えています。いままでは「この風が吹けばなんとかなる」と成り行きに任せる部分もありました。課題を克服することで、チームが成長しているのを実感しています。

BHM編集長:ロンドン五輪ではレース中にメインセールが落ちるというトラブルがありました。いま振り返るとあれは、どういうことだったんだろう?

吉田愛:ロープが切れたわけでもなく、きれいにほどけてメインセールが落ちてしまった。あんなことは人生ではじめてのこと。毎日チェックしていたし不運だっとしか思えません。いまはメインハリヤードをロック式に変えています。システムを変えることで、二度と同じことがないようにしたい。

BHM編集長:北京、ロンドンでは他国から抗議を受けました。プロテストに関して、どう考えていますか?

吉田愛:ルールに強くなる、勉強すれば勝てる、という問題ではないと考えています。レースの状況で、プロテストされる位置にいないことが大事で、そういう(不利になる)シチュエーションにならないポジショニングを普段のレースから実行しています。

BHM編集長:セーフティーなポジション取りは、走りを保守的にしてしまうのでは?

吉田愛:それも考えられますが、リスクを追って走るよりは、プロテストされない位置に自分をもっていき、そこから追い上げるべきだと考えています。

BHM編集長:オリンピックというのは、普段とは違う状況で、いつもの感覚とは違う舞台なんでしょうか?

吉田愛:あたまのなかで分かっていても、やはり「勝ちたい、前を走りたい」という気持ちが出てくる。それがうまく実際の走りと噛み合えば良いのですが、噛み合わなかった時、普段のレースでは出てこない「どうしよう」という不安が出てくる。いままで、五輪期間中、眠れなくなることもありました。

BHM編集長:前回と今回では、自分の気持ちやまわりの雰囲気は違いますか?

吉田愛:ロンドンの前は世界ランキング1位だったし、(国際大会で)メダルも取っていて成績が良かった。期待される部分も大きかったように思います。それに比べるといまのチームの実力はまだまだだし、雰囲気は違うかもしれません。表彰台を狙う戦いは緊張感があって好きなので、そういう戦いをしていきたい。

◎勝つためにはまず体力をつけよう。吉田愛のセーリング上達法

BHM編集長:吉岡選手は、大学ヨット部を引退して3年でオリンピックに出場することになります。セーリングをはじめたきっかけは?

吉岡:中学までバレーボール、バドミントンをやっていました。芦屋高に入って、ヨット部があるのを知って、海が好きだったし、やってみよう、と。でも、ここまで来るとは思いもしませんでした。大学4年のインカレでダメで、自分のなかで「物足りなさ」を感じていました。そんな時に誘われたのがきっかけです。

BHM編集長:愛さんは、ジュニア、ユース、インカレでも活躍してきました。オリンピックを意識するようになったのは、いつの頃ですか?

吉田愛:大学2年の時にオリンピックを考えるようになりました。それまでスナイプに乗っていましたが、自分から「オリンピックを目指したいから」と言って、監督に転向をお願いしました。わたしは、これまで本当に人に助けてもらっていて、人に育てられたことを実感しています。まわりの環境に恵まれました。

BHM編集長:アテネを入れると4度目の挑戦。3度目のオリンピック出場です。へんなことを聞くようですが、それだけセーリングしていて、ヨットは好きですか? あまりにも日常になりすぎていて、好きとか嫌いという感情はなくなっているのでは?

吉田愛:それが、好きなんです(笑)。カラダの調子が悪い時、不思議なことにヨットに乗ると治ってしまう。気持ちがすっきりするんでしょうか。逆に、休み続けてしまうとダメです。セーリングしていないと、生活パターンがくるって調子が悪い。ちょっと体調が悪いぐらいなら、海に出ていた方がいい。

BHM編集長:変わってる(笑)。そうした考えは、女性セーラー特有のような気がします。ところで、愛さんは後輩セーラーから質問される機会も多いと思いますが、日本の学生選手に上達のためのアドバイスをもらえますか?

吉田愛:学生選手からは、チューニングとかセールカーブのことを聞かれることが多いです。でも、ちょっと違うかなと思うことがあります。ヨットレースで勝つためには、ヨットそのものを走らせることはもちろんですが、スタートのポジション取りをはじめ、ヨットレースの競技性が大切になる。特に若い時には、ヨットレースの競技そのものやゲーム性を大切にしたほうがいいと思います。

BHM編集長:学生選手の練習方法については、どうでしょうか?

吉田愛:体力づくりと基礎練習を大切にして欲しいですね。長時間練習することで得られるものもありますが、できていないことを長く練習してもできないまま。もっと課題を絞って、1日でも一週間でも「できないことをできるようにする」のが大事だと思います。体力トレーニングは、もっともっと必要です。みんなが想像する以上に、ヨットレースで勝つために重要なことです。とにかく鍛えてください。

BHM編集長:ストイックなまでにヨットレースを追求しているベネッセチームの言葉は強いですね。参考にさせていただきます。吉田愛選手、吉岡美帆選手、ありがとうございました。

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