Loading

日本を一歩上の舞台へ引き上げたスリーボンドとチームアビーム

 このようなストーリーを誰が予想できたでしょうか。土居一斗/今村公彦(チームアビーム)が勝利するためには、高いハードルがありました。土居/今村が勝つためには、松永鉄也/吉田雄悟(スリーボンド)を総合9位以下に下げ、フランスを挟んで、自身が8位以上にあがることでした。時には幸運の要素も必要になる、難易度の高いミッションです。(BHM編集部)

 弱すぎる微風戦となったこともさいわいしたのかもしれません。薄いブローを捉えることは難しく、反対にそれに乗ってしまえば大幅なリードも可能となります。メダルレースが、どんでん返しが起きる舞台となったことは、土居/今村を手助けするひとつの要因となりました。

 松永/吉田は、第1レグで出遅れました。しかし、1上マーク10位で回航した松永/吉田に対して、土居/今村は8位回航。この時点では、松永/吉田が総合点では勝利していたので、ここから一歩前に出て4位まで上がった土居/今村の走りは見事のひとことです。

 「一斗、やったぞ!」。フィニッシュ直後、後ろを振り返ったふたりは、松永/吉田がフィニッシュ直前のマークを最後尾でまわるのを確認して、今村が叫びました。土居は、勝利を手中にしたことが、信じられないという表情でしたが、すぐに2人は抱き合い、お互いの勝利をたたえました。

「正直、何も考えられなくてただただ嬉しい、のひとことです。自分たちが5位でも勝てたが、フランスを間に入れることが重要で、それを計算しながら走らせていました。緊張は(ロンドンの選考となったバルセロナワールドほどでは)なかったです。レース中、いつも以上に口数が多くなりましたけど(笑)」(今村公彦)

「本当にうれしい。最後のレグでは、震えながら走っていました。今村さんにここまで引き上げてもらい感謝しています。オリンピックでは、自分が持っている最高の走りをしてきます」(土居一斗)

7Z7A8470
日本経済大の先輩後輩となる土居一斗、今村公彦(写真左)。クルーの今村が最初にナショナルチーム選考に出たのは学生時代で、アテネ五輪の選考(2003年蒲郡)から。スキッパーは変わりましたが、4度目のキャンペーンで念願の五輪代表をつかみました。今村は3児の父でもあります。photo by Junichi Hirai

名勝負を演じたスリーボンドとチームアビームの3年間の戦い

 バルクヘッドマガジン編集長は、ロンドン五輪後から新チーム体制となったチームアビーム、スリーボンドの戦いを見守ってきました。ロンドンが終わり、今村公彦がスリーボンドからチームアビームへ。吉田雄悟がチームアビームからスリーボンドへ、というコンバートがあり、双方ともまっさらの新チームで始まったキャンペーンです。

 大学を卒業したばかりの次世代エース、土居一斗をスキッパーに据えたチームアビームが新興勢力となり、オリンピアン2人が組む松永鉄也/吉田雄悟がベテランとなる構図です。実際に、スリーボンドのキャンペーン方法は、ふたりが思い描いていたセーリングの集大成に近かったと思います。それは、経験豊富な松永/吉田だからこそできる活動だったし、それは隙のない見事な3年間でした。

 そういう意味では、土居/今村は常に後追いするカタチだったし、実際の重要国際大会(世界選手権や主要ワールドカップ等)で、松永/吉田の成績を越えたことは一度もありません。今回の470ヨーロッパ選手権が、初めて勝利した大会であり、これが日本代表を決める最終選考だったということになります。

 オールラウンドの風で安定した走りのできる松永/吉田に対して、風が上がったレースになるとスピードで前に出られるが、崩すときは脆い土居/今村。松永/吉田が、土居/今村を恐れる理由は、レースだけでなくチーム体制を含めて、それほどなかったはずです。「やることをやるだけ。そうすれば勝てる」。松永鉄也と吉田雄悟から何度もこの言葉を聞きました。

 もし、土居/今村を恐れる理由があったとすれば「彼らの勢い」だったかもしれません。本大会4日目。ここが正念場と決めた土居/今村は、吹き上がった風を味方につけて、14位から9位まで上昇しました。一気にメダルレース圏内、松永/吉田を射程圏内にとらえて、相手にプレッシャーを与えました。決勝に入ってからの松永/吉田は徐々に順位を下げていく流れです。ここで、土居/今村は「勢い」を手にしました。

 土居/今村、オリンピックに日本代表として送り出すには、十分な素質を持ったチームです。そして、残り1年の間で、未知の領域へ到達してくれるものと期待します。敗れた松永鉄也/吉田雄悟は、日本チームが現時点でできるセーリングキャンペーンの理想形を提示してくれました。これは、日本の財産となり継承されていくでしょう。彼らが示した活動を無視して進むようなら日本の発展はありえません。

 日本代表選考は素晴らしい戦いでした。選手のみなさん、おつかれさま。ありがとう。

7Z7A8454
既報の通り、日本女子代表は吉田 愛/吉岡美帆(ベネッセホールディングス)に決定しました。吉田は北京、ロンドンに続く3度目。吉岡は初のオリンピック出場となります。「はじめて日本代表になった時は、夢がかなって泣きましたが、今回、涙はありません。このキャンペーンは金メダルを取るという目標があります。うれしい気持ちが半分、現実をしっかり見つめて五輪までに準備をしなければ、という2つの気持ちが混じっています。五輪代表になったことで改めて気持ちを引き締めたいと思います」(吉田愛)。「大会4日目が一番緊張しました。ここでしっかり取り返さないといけない、という気持ちで、相手の位置を考えながら自分の走りができました。ここで得点差を詰めて気持ちが落ち着きました。(代表に決まって)いまは、あまり実感ありません」(吉岡美帆・写真右)。photo by Junichi Hirai」

◎470European Championship
http://2015europeans.470.org/en/default/races/race
◎バルクヘッドマガジン・フォトギャラリー
https://www.facebook.com/bulkheader

======================================
わたしたちは走り続けるセーラーを応援します
BULKHEAD magazine supported by
ジャストヨット運送
ポールスチュアート
日本レジャーチャンネル
リスクマネジメント・アルファ
ベイトリップ セーリング
ベストウインド
パフォーマンス セイルクラフト ジャパン
SAILFAST
ウルマンセイルスジャパン
ノースセールジャパン
フッドセイルメイカースジャパン
アビームコンサルティング
トーヨーアサノ
日本ORC協会
Velocitek
コスモマリン
Gill Japan/フォーチュン
JIB
一点鐘
エイ・シー・ティー
ファクトリーゼロ

CATEGORY:  DINGHYINSHORENEWSSPECIAL