福岡全日本インカレ 展望と解説(総合)
10月31日に福岡小戸で始まる「第79回全日本学生ヨット選手権」(全日本インカレ)。この大会の醍醐味は、470級、スナイプ級の合計得点で競う「総合」にあります。実力拮抗する大学ヨット部の総合戦力を外道無量院さんと生ちゃんが解説します。(BHM編集部)
また、過去データをもとに全日本インカレにおける水域予選・出場枠について問題提起します。バルクヘッドマガジン読者にはインカレファンがたくさんいます。みなさんはこの問題をどのように考えますか。意見がありましたら編集部(editor@bulkhead.jp)までお寄せください。賛成、反対、考え方や立場によってさまざまな見方があることでしょう。貴重な意見はBHMに掲載させていただきます。
前年度西宮大会で総合優勝を果たした同志社大。現在二連覇中。photo by Junichi Hirai
外道無量院
今年の全日本インカレは「同志社の総合三連覇なるか」が焦点となるだろうが、ここまで両クラスの展望を書いてきたように、その可能性は充分にあるのだが、際どいのも確かだ。そうは言っても、優勝争いに限れば、関東の日・早・慶、近北の同志社、関西の関学、この「5強」に絞られるか?
残る入賞枠6位争いの筆頭格が九州大(九州インカレ総合優勝)で、470がクラス優勝争いに絡み、スナイプが入賞枠に入ってくるような戦いができれば、地元だけに入賞と言わず、優勝争いにも飛び込んで来る「超大穴的存在」になる可能性を秘めているかも知れないが…。
昨年、スナイプ優勝、総合準優勝を果たした明海大にとっても重要な年。6位入賞は外せないところ。さらには水域予選のスナイプで関西学院大を破った関西大と、和歌山大と抜きつ抜かれつの大接戦の末に両クラス出場を話した甲南大も面白そうな存在だ。
さらに、九州大が有力チームとして取り上げられる事で、京都大、東北大という旧帝大勢、その他の国立大学も私学勢に負けじと例年以上に頑張るだろう。
反面、関東インカレでの結果を見ると、明治大、中央大、法政大という私学常連チームは苦しい戦いになりそうだし、申し訳ないが名門・福岡大に至っては開催枠に救われての両クラス出場がやっとという印象だ。しかし、以上に名を上げた私学勢は、そうやすやすと国立勢には負けられまい。
総合では優勝争いとは別に、「6位入賞」の争いも接戦になるだろう。
国立と言えば、両クラスが惜しいところで予選敗退してしまった和歌山大は見てみたかったチームだった。月刊「舵」の11月号でも書かれていたが、全国的に部員数・活動チーム数が減っている中、関西水域だけはそれが「右肩上がり」。
「関関」に加えて甲南大、和歌山大、近畿大にもセレク枠があって力が入っているし、伝統校の大阪大や神戸大あたりにも力がある選手がボツボツと見受けられるように、かつての近北に代わって「予選突破最難関水域」になっているのは確かだ。
対照的に、今年の九州水域は開催枠を加えて4枠もあり、ほとんどクラスで3艇揃えれば出られるような感じだ。
関東ではオールセレクの明海大の戦力が整ってきたことから、横浜国大や東大など国公立勢の付け入る余地が更になくなって来た感がある。もっとも、近北では常連の立命館大やこの10年内にクラス優勝や総合優勝まである京産大などを破って国立大が2校、それも両クラスに出てくるのだから「甘ったれるな!」と言われてしまうか?
全日本インカレは水域予選を勝ち抜いた大学により競われます。水域と出場枠は次の通り。北海道1校、東北1校、関東7校、中部2校、近畿北陸3校、関西3校、中国2校、四国1校、九州3校。開催地+1校を加えた470級24校(72艇)、スナイプ級24校(72艇)が出場します
全日本インカレにおける水域予選・出場枠について
外道無量院
個人的に地理的水域的にも実現可能で他競技との比較や行政的見地から見ても自然で良いと思うのは、近北の「近」と「北」を分離し、北陸は中部に含んで一緒にし、近畿が関西と一緒になることだ。そうなれば少なくとも6枠程度は貰っても良いのではと思うし、「近畿関西インカレ」は関東インカレ並みのレベル・接戦となって、水域インカレでの切磋琢磨が成され、よりレベル向上にもなると思うのだが…。
加えて、このところ「常連」となりつつある金沢大や今年の近北インカレで特に前半戦に快走し、「あわや」の場面を見せた富山大などが中部水域にくると、現在は同水域で安穏としているチームも尻に火が付くのではないか? 富山大があまりに走ったので少し調べてみたところ、部員が東北大と同じ56名もいるそうだ。これには驚いた。
一方で、選挙で言えば「無風地帯」みたいな水域もあるし、どうなんだろうか? 生ちゃん、一生懸命にデータ集計していた資料を見せてくれないかな?
生ちゃん
はい、この表ですね。
実を言うと、各水域の枠数というのは私が在籍した頃の20年以上前からほとんど変化していないのです(九州が1枠増のみ)。
これはどうなのでしょうか? 現在の枠数は、おそらく「加盟校」ベースによって決定されているのが、左の欄を見ていただければお判り頂けるかと思います。しかし残念ながら、どの水域もヨット部の数が少なくなり、選挙で言うと「格差」が生まれてしまっているのです。
やはり「全日本枠数」は「予選参加数ベース+全日本成績」を加味して決定すべきではないでしょうか?
表2は「全日本における過去5年間の各水域別順位平均」です。これから挙げる水域該当チームには申し訳ないが、中部・中国の2枠は即刻1枠にすべきだと思われます。出場倍率、及び成績をみても平均順位が20を下回っているわけですから、こういうのが問題な訳です。
例を1つ挙げると、関西で残念ながら和歌山大は両クラス共に落選してしまいました。力があったにも関わらず、です。もし出場していたなら最低でも、10〜15位の力はあるチーム だったと思われます。
近北においても、名門・立命館大が信じられない両クラス落ちとなってしまいましたが、このチームも全日本クラスの実力を有していると思うのは、私だけではないでしょう。
他競技を例に挙げると、メジャー学生スポーツの「全日本大学駅伝」では、基本の定数枠に加え、成績によって増減するシステムなのです。
やはり学生ヨットでも、毎年全日本の後に成績に応じて、翌年の水域枠数増減を話し合うようなシステムが必要だと考えます。最高峰の大会なのですから、これくらいの事は当然だと思います。
外道さんが以前仰っていた「3ブロック制」が現状では理想かと思いますが、問題も多い。詳しくは省略させて頂きますが、下手をすると弱小水域の存続問題にもなりかねない。既に水域ブロックの統合も考えていかなければならない時期に来ているのは確かですが、いきなりは非常に大変でしょうから、まずは…。
1. 各クラスの予選出場チーム数の把握(カウントは3艇揃っているチームのみ。全レースDNCも認めない)
2. 上記を参考にし定数枠を決定(表1を参考にしたなら、北海道・東北・中部・中国・四国は各1、関東7、近北3、関西3、九州2計20とし、残りの3枠は成績に応じて振り分ける)
3. 前年総合優勝校となった水域は、翌年自動的に枠が増える(シード制の導入)
4. 入賞に応じて枠が増え、成績不振の場合は枠が減る(1枠の水域は0にはならない)
5. オリンピック年の全日本後に定数枠も見直し(過去4年の実績を基に決定)
上記を表にするとこうなります。(2013年の成績を参考に…※あくまでも一例です)。25校になってしまったが、これは致し方ないでしょう。
現状の艇数が多いと言うなら、それこそ水域統合も考えていかなくてはならないでしょうし、本来なら20校60艇くらいが限界でしょう。上記に挙げた表を含め、シミュレーションしておりますので、詳しくは以下のリンクからご覧下さい。
こんな感じですが、外道さんはどうお考えでしょうか?
外道無量院
生ちゃん、説得力ある数字だね。「何十年も基本的に変わっていない」というのが基本的に信じられない。ホントに「競技団体」なのだろうか? そうでなければ問題意識・危機意識が欠如しているとしか思えない。最も不思議な組織は、この全日本インカレ(個人戦含む)の時に突如として登場する「全日本学連」。はっきり言うと名前だけで実態が無いのでは?
その「委員長」は、一年ごとに早・慶でのたらい回し選出で、しかもこれが何十年も続いている。そこに他の大学から何も文句が出ないって事は、逆に「委員長」には何の価値も認めていないし、もっとはっきりと言うと、その組織自体が全く機能していない、って事の証明でもないのか!?
他の大学スポーツから分かりやすい例を引こう。
今年、関東学生アメリカンフットボール連盟は、リーグ編成に劇的な変更を行なった。約30年前に一度、乱立していた各リーグ代表によるトーナメントの関東選手権制度から、基本的に上位からの一部・二部・三部制に変更するという大きな変更があった。
しかし、昨年までは関東一部リーグ(16校)が、AグループとBグループに各8校づつ分けられて総当たり戦を行い、それぞれのグループのトップが関東選手権として戦って関東代表を決めて来た。
当然、リーグ戦初期段階では上位校VS下位校の対戦になるので大差の消化ゲームが続くため、リーグ戦内では実質上は最後の1、2戦だけがようやく接戦となるような試合がほとんどだった。
これを、一部リーグ16校を上位リーグの「トップ8」と下位リーグの「ビッグ8」に分け、それぞれでの総当たり制とした。(当然に関東代表は「トップ8」の優勝校。)
※なぜ、分かりやすく「ビッグ8」を「2部」と言わないか、という理由は、該当校側の抵抗にあったからと聞いている。どういう抵抗かというと、大学側に「当部は、関東一部リーグ所属である、という名目で予算もグランドの割り当て等も受けているので、「いきなり「2部」と言われると困る」、ということだそうだ。そう、見栄を切った処で、実際には2部なのだが。
そうまでして編成変えに踏み切ったのは、日本一を決める「甲子園ボウル」に、ここ何年も関東代表が関西代表に負け続けている、という競技者としての危機意識から。 「実戦での切磋琢磨が関西勢に比べて劣るのでは」という危機意識が、再編成につながったのだ。*関西リーグは昔から変わらず上位8校による1部リーグ戦総当たり制
これに比して、ヨット部学連は、ほとんどの水域でその水域インカレの参加数が減ってきても、何の危機意識も問題意識も芽生えなかったのだろうか!?
生ちゃん
本当に不思議な組織ですよね。関東に関してもこの表を作るまでは枠数が多いと思っておりましたが、実は少ないことが判明しております。特にボーダー校あたりのチーム関係者は何とも思わないんですかね?(出場できるか否かは学校への印象も大きく変わってくるのでは?)
今年の関東は両クラスとも春インカレシード校で占められており、これが1増えるだけでも大きく変わるのに…。これは激戦区である、近北・関西にも言える話だと思います。
やはり全日本レベルに見合ったチームが出場するのは当然ですし、必ず良い策はあるのです。私自身の解答はありますが、これは学生のレースだからこれ以上私は言いません。変革するか否かは、学生自身にかかっていると思います。
外道無量院
まあ、ここでは問題提起にとどめておこう。私も最期なので非難を覚悟で言いたい事を言ってしまい、気分を害した読者もいるだろう。この場でその事はお詫びする。ただ、学生ヨット界がより発展して欲しいし、かつ、競技スポーツである以上、真に実力のある競技者同士で競い合ってこそ「全日本インカレ」ではないか、と考えるからだ。
学連内部や学連関係者ではない「外道」の立場だからこそ言える内容を含む事は確かだろうな。
それでは、総合のまとめ
外道無量院の予想
◎・・・・早稲田大
〇・・・・同志社大
▲・・・・日本大
△・・・・慶應義塾大
△・・・・関西学院大
大穴・・・九州大
注・・・・明海大
注・・・・関西大
両クラス各艇のポテンシャルを個別に見て総合力が一番高いのが早稲田大。「英語」が出ず、まともに走れれば最有力だろう。秋シーズンになって不調の同志社が、本番になっても冴えないようだと史上3校目の「完全優勝」まであるか?
これに次ぐのが同志社大。不安材料は多く抱えるが、伝統の「インカレ巧者」ぶりを今年も発揮できれば3連覇は充分に可能だ。
この2校をまとめて破る可能性がある最有力チームとして日大。スナイプでのクラス優勝が条件とはなるだろうが、残る課題は470の3番艇のみだ。
さらにこの「3強」をまとめて負かす可能性を秘めていそうなのが、共に部員50名以上、うち経験者30名以上という大所帯の2校、関東の慶應義塾大と関西の関西学院大。序盤で波に乗れれば、優勝争いに割って入る可能性も有する面白い存在だ。
大穴として、地元開催に合わせたように強化が図れた九州大までか。昨年から一皮剥けた感のある明海大、部の雰囲気が変わって復活した関西大にも注目したい。
生ちゃんは?
生ちゃんの予想
◎・・・・早稲田大
〇・・・・日本大
▲・・・・関西学院大
△・・・・同志社大
△・・・・慶應義塾大
大穴・・・九州大
注・・・・明海大
生ちゃん
私は470・スナイプで早稲田を本命にした訳ですから、総合も早稲田にしなければ辻褄が合わない。史上3校目の完全優勝に期待します。仮にスナイプが優勝できなくとも、470での力は圧倒的優位であり、総合優勝に最も近いでしょう。
日大は外道さんが仰る通り、470の3番艇次第であり、スナイプで本来の力を出し切り圧倒したならば、優勝できると思われる。というよりこのケースしか考えられない。
戦力が平均的に整っている関学を単穴。同志社の3連覇にも期待したいところですが、今年は少々昨年の状況より苦しいとみるが、力がない訳ではない。
慶應は力を出し切れれば、優勝まである可能性を秘めている。国立大ナンバーワンの九州大の入賞は、ほぼ確実な情勢。スナイプのがんばり次第では優勝まで狙えるキーマン校となるだろう。明海は今年は優勝となると非常に苦しいが、スナイプの走り次第では一気に上位進出の可能性があるでしょう。
外道無量院
お互いに総合の本命は早稲田で一致したか。4年生スキッパーが少ないので早稲田のピークは来年以降かな、と思っていたが、関東インカレの走りっぷりで見直した。加えて、個人戦優勝の小泉颯作、国体優勝の岡田奎樹、さらには関東個人戦スナイプ優勝し、全日本個人戦は辞退・欠場して西半球選手権に遠征してきた島本拓哉と、タイトルホルダーがズラリと並ぶので当然の結論かも知れない。
艇個別の能力に優れる早稲田に対し、三連覇の掛かる同志社が組織でどう戦うか。名門・日大がそこにどう割り込むか。この3強に慶應義塾と関西学院がどう挑むか。地元期待の九州大はどこまで通用するのか。
見所は、簡潔に言うと以上に要約されよう。風に天候に恵まれ、ここまで鍛錬してきた選手達が本番に体調万全で臨め、実力を充分に発揮し合って素晴らしい大会に成る事を祈念するとともに、選手各位の健闘と幸運を祈る。
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