パールレースとオフショアレースの安全
今年も三重県五ヶ所湾から伊豆諸島・利島をまわり相模湾・江の島まで180マイルを走る「パールレース」の季節がやってきました。スタートは7月26日11時。この日本を代表するオフショアレースに52艇(IRC49艇、ダブルハンド3艇)が出場します。(BHM編集部)
いま日本では、オフショアレースのブームがジワジワとおとづれています。そのきっかけとなったのは、2010年に開催された沖縄東海ヨットレース(720マイル)。また、相模湾の大島レース(85マイル)をはじめ、人気が復活しているロングレースが増えています。
この背景には、少なからずセーラーの高年齢化が進んでいるのも理由だと編集部は考えています。アクセク働く競技性の高いブイまわりインショアレースよりも、時間は掛かりますが、経験と知識が必要とされるオフショア・ロングレースに注目が集まるのは当然の流れといえるかもしれません。
国内のこうした雰囲気のなか、今年4月には神戸横濱ヨットレース(340マイル)が初開催されました。さらに、現在進行中のトランスパックヨットレース(2225マイル)では日本から6チームが出場して大健闘を見せています。さあ、今年のパールレースはどんな風が吹くでしょうか? 参加するみなさん、安全に楽しんで来てください。
◎パールレース
http://pearl.toscrace.jp/
今後増える可能性がある日本の海難事故
さて、オフショアレースの話題に触れる場合、忘れてはならないのは、ロングレースや外洋で増加傾向にある海難事故です。昨年の沖縄東海レース、そして今年4月のアリランレースの回航中にベテランセーラーが落水し亡くなるという事故がおこりました。
編集部は国内の海難事故は今後増えていく可能性があると考えています。その理由は、外洋へ出るセーラーが増えることで事故の確率が高くなること。さらに先に述べたセーラーの高年齢化も理由です。パールレースに出場するようなチームは、安全対策についてチーム内で十分話し合っていると思いますが、いま一度全員で御確認ください。
今回のパールレースの出場条件として、JSAF外洋特別規定カテゴリー3が用いられています。また運営との通信では国際VHFと衛星携帯電話が採用されています。当たり前のことですが、これらは出場条件であり、装備品を積んでいるだけで安全というわけではありません。内容と使い方を乗組員全員が共有していなければ意味はなく、これだけでは足りず、独自の安全備品を持っている船もあることでしょう。
さらに、今回はトラッキング用としてGPSロガーと(レース後に提出するGPSロガーは「どこでもヨットレース」を使って航跡をアニメーションで確認するものです)、任意で「Sail Vision」が採用されています。
「Sail Vision」とは、これまで相模湾を中心に試行されてきたヨットレース専用のリアルタイムネットワークアプリです。具体的には、各艇のひとりが「Sail Vision」のアプリ(iOS版、Android版)をダンロードしておき、スタート前にチェックインするというもの。携帯電話の通じる範囲なら、自艇の位置情報がサーバーにおくられ、ウエブサイトを通じてレース中のポジションがわかるというものです。
パールレース参加艇は、見えないライバルの位置を確認するというロングレースの楽しみだけでなく、陸上にいる家族や仲間へ安全を伝える、という意味でも使用をオススメします。繰り返しますが、「Sail Vision」は携帯電話の通じないエリアだとリアルタイムの位置情報は確認できません。
本来なら沖縄東海ヨットレースやトランスパックで採用されている「イエローブリック」のような機材とソフトが有効でしょうが、1台のレンタルにつき一週間で(確か)8万円前後掛かるようなので、そうそう手軽に使えるものではありません。
◎Sail Vision
http://www.sail-vision.com/
日本では許可されていないPLBとサテライトメッセンジャー
オフショアレースやロングクルーズに出る場合、海外では個人用のSOS発信機を携帯するのが主流です。上写真は、PLB(パーソナル・ロケーター・ビーコン)と呼ばれる小型版遭難信号発信機で、アメリカだと3万円程度(+登録が必要)で購入でき、リーズナブルに使われています。しかし、日本では電波法(に関係する法令)により許可されていません。また、GPS衛星を経由して位置情報とテキストメールを発信できる「SPOT」という商品も一般的ですが(こちらは、サテライトメッセンジャーと呼ばれています)、こちらも国内では使用できません。日本は、緊急時の安全装備に関して世界から一歩遅れている現状があります。
こちらはサテライトメッセンジャーのSPOT。SOS発信だけでなく、位置情報とともに「いま安全です」を伝える機能や、SOSではないが人の手助けがほしいHELP機能、またプライベートで楽しめるトラッキング機能もあります。PLBより安価(本体1万円程度と年間登録1万数千円)ですが、通信エリアが限られている等の弱点があります。photo by Junichi Hirai
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