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ドナルド・クローハーストの死(1)

 みなさん、ヨットレース最大の謎とされている「ドナルド・クローハーストの死」をご存知でしょうか。これは、世界一周レースにまつわる、不思議で、悲しく、不幸なセーラーの物語です。これまでテレビや映画、小説等で紹介されているので詳しい方もいると思います。長い話になるので、時間がある時にお読みください。(BHM編集部)


ドナルド・クローハースト(Donald Crowhurst。1932–1969年)

世界一周が盛り上がった1960年代とゴールデン・グローブレース

 1960年代は、ショートハンドの世界一周冒険熱が沸騰しはじめた時代といえます。世界ではじめて「単独世界一周」に成功したのは、1898年のジョシュア・スローカム(米)。しかし、それはスピードやレースとして競うものではなく、のんびりとしたクルージングの延長で、スローカムは3年2カ月をかけて世界一周を果たしました。

 世界一周冒険熱が沸きあがるきっかけは、フランシス・チチェスター(英)の航海でした。チチェスターは、1960年に開催された第1回OSTAR(オブザーバー・シングルハンド大西洋横断レースの略。英プリマス〜米ニューポート)で優勝し、続いて1967年にはシドニーのみに寄港する単独世界一周を達成しました。

 ここで、有寄港 → 無寄港、という可能性を求める冒険家たちがあらわれます。1968年初頭、5人のセーラーが「単独無寄港世界一周」を計画していたのをきっかけに、イギリスの新聞、サンデータイムス紙がスポンサーになり単独無寄港世界一周レースが企画されます。この「ゴールデン・グローブレース」は、優勝者に賞金5000ポンド(現在のお金で約4000万円と言われています)が与えられる賞金レースでした。 

 1960年代のセーリングをリアルタイムで知りませんが、それほど古い話ではありません。しかし今と違って、航海計器のGPSはなく六分儀(星の位置から自分のポジションを計測する装置)を使い、また当然インターネットはなく陸上との交信には無線が用いられていました。

 スタートは、イギリス南部の港町、ファルマスです。大西洋を南下し喜望峰をまわって南氷洋コースへ。ぐるりと世界一周して南アメリカ南端のホーン岬を越えて大西洋、そしてスタート地ファルマスへ戻ります。スタートは6月1日から10月31日までの期限内であれば、いつでもOK。世界一周に掛かった日数を競うというものです。

 このゴールデン・グローブレースに9人のセーラーが名乗りを上げました。イギリス人、フランス人、イタリア人の経験豊富で屈強なセーラーが揃うなかで、ひときわ注目されたのが電気技師のドナルド・クローハーストです。(つづく)


ゴールデン・グローブレースの世界一周ルート

◎オフショアレース、シングルハンド航海の記録と歴史
1866年 東回り大西洋横断レース開催
1883年 バーナード・ギルボイ(米)、初の単独太平洋横断に成功
1898年 ジョシュア・スローカム、最初の単独世界一周航海完了
1905年 〈アトランティック〉が東回り大西洋横断記録を樹立。この記録は75年更新されず
1906年 第1回太平洋横断レース開幕。トランスパックのはじまり
1907年 第1回ニューヨーク〜バミューダレース開催
1925年 ハリー・ピジョン(米)が2人目の単独世界周回を達成
1925年 アイルランドのコナー・オブライエンが喜望峰とケープホーンを回る世界一周達成
1925年 第1回ファストネットレース
1931年 アメリカのビル・ロビンソンとタヒチのエテラが、世界初の2人乗り世界一周を達成
1953年 アン・デヴィソン(英)が女性初の単独大西洋横断を達成
1960年 最初の西回り単独大西洋横断レース(OSTAR)開催
1969年 ベルナール・モアテシエ(仏)単独無寄港世界一周を達成
1969年 ロビン・ノックス・ジョンストン(英)単独無寄港世界一周レースで優勝
1973年 第1回ウィットブレッド世界一周レース
1982年 ジョン・サンダーズ(豪)が無寄港世界二周達成
1982年 BOCチャレンジ単独世界一周レース
1988年 ジョン・サンダーズ(豪)が単独無寄港世界三周達成
1988年 ケイ・コーティー(豪)が女性初の無寄港世界一周を達成
1989年 単独無寄港世界一周レース、グローブチャレンジ開催

参考:Deep Water、世界ヨット百科、Sunday Times Golden Globe Race、Donald Crowhurst

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