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ヨットレースのテレビ中継とトラブル

※サンケイビジネスアイ紙で連載していたコラムを紹介します。


ヨットレースを撮影するテレビクルー。セーリング世界選手権ではボートやヘリから撮影がおこなわれた。撮影 平井淳一

コラム(73)
ヨットレースのテレビ中継とトラブル

 オーストラリア・フリーマントルで開催された「セーリング世界選手権」では、セーリング競技が目指ざそうとしている、一般ファンに向けた試みがいくつもおこなわれた。岸から離れた海でおこなわれるセーリングは、観戦するのに不向きなスポーツだ。遠い沖合に観客席を作るわけにもいかず、また、ボートから観戦するにも、その数に限界がある。国際セーリング連盟では、ヨットレースを見せるアイデアを試行錯誤している。

 まず、今回の世界選手権では、すべての出場艇にGPS発信機を取り付けて、ボートの位置を受信して、大会ウエブサイトに公開した。ボートの動きはアニメーション化され、選手が戦う様子を俯瞰で見られるようになったのである。これで、海上で観戦するよりヨットレースがわかりやすくなった。

 さらに、テレビ中継もいっそう本格化した。ヘリコプターやメディアボートが選手により近づき、選手の表情をとらえ、それがテレビやウエブサイトでリアルタイムで放映されるのだ。また、番組として作りこんだ映像は、ユーチューブなどのインターネット動画共有サービスで公開され、いつでも見られるようになっている。

 しかし、この世界選手権期間中にトラブルが起きた。テレビカメラを持った映像制作チームが、選手に近すぎて競技を邪魔してしまい、選手から抗議を受けてしまったのだ。具体的には、撮影用のヘリコプターが上空から近づきすぎ、選手に極端に不利な風を与えてしまった。さらに、選手の抗議方法がルール上まちがっていたとして、その選手は失格になってしまったのだ。金メダルに一番近いスター選手だったこともあり、この事件は大きな波紋を呼んでいる。

 海上でおこなわれるヨットレースのコースは、陸上スポーツのように境界線で区切られているわけではない。競技コースは自然状況で変化するもので、風が強くなれば、コースは長くなるし、風向や波の大小も大きく影響する。そのため、撮影者側にも相当の知識が必要になってくる。今回は、迫力のある映像撮影を求めるあまりに、テレビ撮影チームが入ってはいけない境界線を越えてしまった。

 テレビ中継とヨットレースのあり方は、今後も議論されていくだろうが、この大会で製作された映像の出来栄えはすばらしく、過去にない高い評価を得ている。いままで遠い沖合でおこなわれていたヨットレースが、GPSによるアニメーションとテレビ映像により、陸上にいてもわかるようになった。しかし、競技に影響をおよぼすことは、選手だけでなく関係者の本意ではない。ヨットレースの報道体制は、まだ進化の過程にある。(2011.12 文/平井淳一)

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