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國米 創、大いに落ち込む。仏外洋「ミニ・エン・メイ」レポート

 5月19日、1人乗りで500マイルを走るフランスの外洋レース「ミニ・エン・メイ」(Mini en Mai)がスタートしました。今回はプロト30艇、シリーズ64艇の合計94艇が一斉にスタートラインを切りました。日本からはプロトに國米、シリーズに中山寛樹さんと高原奈穂さんが出場しました。(レポート/國米 創)

ミニ・エン・メイに出場したDMG MORI セーリングアカデミー所属の國米 創。9月の大西洋横断ミニトランザットのスタートまでレース経験を積んで本番へ挑みます
フランス・ビスケイ湾北西部を走る外洋ヨットレース「ミニ・エン・メイ」コース図。ラ・トリニテ・シュル・メールが拠点となり、総距離500マイル(小笠原レースと同距離)をたった1人で走ります

 僕にとっては2回目のミニ・エン・メイ出場になります。コースにも馴染みがあるので、今回は特に上位を目指していこうという心意気でした。特に最初のインショアレースでどれだけ前に食いついていけるかで、オフショアでどれだけ有利に立てるかが決まります。スタートをしっかり決めて、外洋に出るまでトップ10に入ろうと目標を立てていました。

 スタートの風は10〜14ノットのダウンウインド。最初のスタートはゼネリコ、2回目でスタートが決まりました。Miniのレースではゼネリコはよくある話です。時にはリーチング、ダウンウインド、アップウインドのスタートがあるのが特長的で、戦術、戦略を立てるのが楽しいところです。

 2回目のスタートではぼちぼちなスタートでしたが、上手くスピードを保ち、他艇をすり抜けて6番目に湾を出ることができました。風も徐々に落ちていき、ついには2ノットまで落ち、誰が先に風をつかむことができるのかの勝負が始まりました。

 今年の僕のモットーは「シンプルに自分で物事を複雑にしない」であったため自分の信じる走りをしていましたが、後ろから経験豊富の船がちょっとずつ近づくと気持ちが揺らいでしまいそうになります。

 後続艇にはこの時に追いつかれましたが、風を上手くつかんで、あまりロスしないで元々の作戦通りにレース展開をすることができました。

 風がある程度上がったら、今度はタイムアタック作戦に切り替えました。レース前のルーティング、予報で風の変わる時間、大体の場所、潮の流れが変わるタイミングをメモしていたので、自分のなかで決めていたチェックポイントまでに制限時間内にどうやっていけるかを考えました。

 でも、予報以上に風の振れが激しく、セールチェンジを4時間で6〜7回ほどしました。一時は同型艇が4艇横並び、みんな違うセールを上げていて、本当に悩んでいるんだな、と感じました。

ミニのレースで必ず通るイル・ド・グレナン諸島。ここの攻略はレースに大きく響きます

 風の振れも激しいなか、夜に1つ目の攻略、グレナン諸島に到着しました。Googleで写真を見ていただけたらわかるのですが砂と岩でできた島です。ここを夜に通るのは相当自信がないと危ないです。事前準備が大切で、僕も島の間を通ろうと考え、海図を開いて今の位置を再確認しました。

 しかし、少しベアすると僕はグレナン最南のブイを通過することができるポジションにもいました。大丈夫だとわかっていても夜であること、小さな不安が考えれば考えるほど安全策を取るようになってしまいました。

 少しベアをしてヘディングモードで今のうちに少し睡眠を取る決断をとりました。自分で決めたことなのにこの時間は地味にモヤモヤが残り、自分のこの場所の攻略の弱さが出てしまいました。

トラブル発生の現場となったLe Plat。早朝のことでした

◎Le Plat 10マイル手前でトラブル。フォアステーとマストが絡む

 朝4時頃、Le Platに向かっていました。一直線でも風10〜18ノットで40度ほど振れていて、アップウインドとリーチングを走っていました。

 オートパイロットはヘディングモードで、トリム、バラスト、スタッキング(荷物移動)してやり過ごしていました。バラストを抜くために上半身をコックピットの中に入れたら、船がフワッとするのを感じて、すぐにオートパイロットが切れたと察しました。ティラーを持ったときにはもうすでに遅く、ワイルドタックをした状態でした。

 ここでプロト艇について少し説明します。キール、ウオーターバラスト、スタッキング(荷物)が全て風下にあると、そう簡単に船は動きません。

 再加速するのに下に流されながら数分かかります。こんなどうしようもない状況の中、スターボードの横から船が来ていることをAISで知りました。船をコントロールするのを諦め、すぐにAISで後続艇の名前を確認してVHFで呼びましたが、応答無しで「あ、これはぶつかる」と思い衝撃体勢に入ったときに接触しました。ここまでワイルドタックしてから30秒ほどでした。

 ぶつかってから相手が船内から飛び出してきて、僕は「無線で呼んだ!」と言い、相手は「寝てた!」と最初の一言を交わしました。こういう時は案外その時の状況を最初の一言でお互い言っちゃうんだなと後々思いました。

 次に、お互いケガがないかを軽く確認した後、とりあえず船をお互い離そうとしましたが、全く離れる気配がありません。2人でなんでだと話して、上を見ると相手のマストが僕のフォアステーとマストの間に刺さった状態になっていました。

 2人でお互いの船を飛び移りながら2人で協力してセールを降ろし、ハルの間にフェンダーを入れて、船同士が離ないように結び、ひとまず安全確保をしました。

 次にどうするか2人で考えた結果、1人がマストに登り、もう1人が下で船をコントロールする作戦を考えました。相手のマストが僕の船に刺さっている状態で、ウインドセンサーを外さないといけなかったので、僕は下を担当して相手がマストを登るのを手伝いました。

 この作戦がうまくいき、2艇は解放され、とりあえずお互いダメージチェックをしましたが、マストの状況もわからないし、レースの後半には30ノットのアップウインドが入る可能性があったのでその時点で2艇ともリタイアする決断をしました。それと同時に太陽も出てきて、気がついたら朝になっていました。

◎ロリアンに戻る12時間、たっぷり落ち込む

 ロリアンまでの帰り道は風もなくて、なんでこんなことになってしまったのかをいろいろ考えました。恐らく、上半身を船内に入れた時にオートパイロットのスクリーンを触ってしまったのだろうと推測しました。事前に避けれたことだったのではないか、ワイルドタックをした後の行動は間違っていなかったか? 自分の行動に間違いがなかったかを正当化しようとしている自分がいて、なおさら自分に腹が立ちました。

 接触があってからロリアンに戻るまで12時間、たっぷりと落ち込む時間があったので、ロリアンのチャンネルに近づいた時には2艇ともマストがまだ立っていて、ケガがなくてとてもラッキーだったと状況を噛み締めました。

 ロリアンに入港すると白石康次郎さん、フェデ(三瓶笙暉古)、カンダ・ショウタさんがゴムボートを借りて入港の手助けしてくれて、その時初めてホッとしました。

帰ってる途中で元気になりました

 陸に上がってからはマストを抜き、すぐに修理に入りました。ラッキーなことにハルにダメージはそんなになく、マストもウルトラソニックテスト(超音波テスト)の結果、カーボンの剥離がなかったので、ダメージは本当に最小限だったことを確認することができました。

 今回のリタイアは悔しかったですが、今回のトラブルが起きないように教訓として船をさらにブラッシュアップしていきます。次のレースは6月に「ミニ・ファストネット」です。去年このレースでカーボン剥離でリタイアしたので、次こそは完走して上位に食い込めるようにがんばります。

今回の失敗を繰り返さないよう、オートパイロットのスクリーン位置の変更など対策を練っていきます
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