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12日出港。西宮から単独無寄港世界一周へ旅立つ23歳、木村啓嗣

 11月12日、木村啓嗣さん(23歳。株式会社浜田)が世界一周の航海に出発します。大分県立別府翔青高ヨット部出身、海上自衛隊を退職してから約3年を掛けて世界一周の準備を進めてきました。この単独無寄港世界一周が成功すると白石康次郎さんの持っている記録26歳10カ月を破る「日本最年少記録」となります。バルクヘッドマガジン編集長が出港直前の木村さんを西宮へ訪ねました。(BHM編集部)

世界一周に出港する木村啓嗣さん。饒舌でハキハキとした物言いは海上自衛隊時代に叩き込まれたと話します。恩師である別府翔青高ヨット部の甲斐先生からは「死なないように。戻って来てからもセーリングに関わるように」とアドバイスを受けたとのこと

「最初から日本最年少記録に挑戦しようとしていたわけではありません。記録挑戦はあとずけで、ヨットで何かに挑戦したかった、というのが本音です。高校生のときに立てたライフプランは23歳で結婚する、でした。その計画はもうズレてしまいましたが(笑)、おとなになって安定した生活に入る前に、なにかヨットで大きなことに挑戦してみたいな、と思っていたんです」

 世界一周に興味を持ったのは、高校生のときに知った白石康次郎さんの2016年ヴァンデ・グローブでした。白石さんはマストを折ってリタイアしたけれど、その挑戦する姿が印象に残ったといいます。ヴァンデ・グローブ出場はむずかしいにせよ、世界一周したいという夢が育まれてきました。

 海上自衛隊(潜水艦)を退職後、乗せてもらっていた新西宮のクルーザーチーム〈アマンダ〉の共同オーナー、浜田篤介さんに世界一周の計画を直談版。浜田さんの会社「浜田」に入社して、会社のプロジェクトとして大きなバックアップを得られるようになりました。

「サポートを得られるようになったのは本当に運が良かったです。船は翌春にX41を購入しました。クルーザーレーサーでとてもきれいな船で、内部もしっかりしていたのが購入の理由です。それから時間を掛けて、世界一周に必要なものをそろえました」

 デッキには風波を避ける大型ドジャー、通常の二倍のバッテリーを設置、航海中は水力発電(Watt and Sea)とソーラーバッテリーで電力を賄う。衛星通信は日本で許可されたばかりのイリジウムサータスを利用。経験が不足しているからこそ、いろいろな人に教えを請うことで知識を増やしました。

世界一周に挑戦する手はどんなだろうと、手のひらをみせてもらうと意外と小さかった。自ら「むかしからビッグマウスのところがある」と話しますが、世界一周中、走行不能となりリタイアする場面も数段階に分けて想定していて、初挑戦ながらもできる限りの準備をしていることが伺われます

 航海の経験は関西のレース艇に乗せてもらったり、沖縄東海ヨットレースをはじめ国内の外洋ヨットレースへの出場、また、ひとりだけでトレーニングするために、沖縄や孀婦岩(伊豆諸島の最南端の岩)往復など合計4800マイル、単独では2000マイルの経験を積んだ。同時に船や改造部分の耐久テストをおこないました。

「今年4月、沖縄東海レースの回航を兼ねて、ひとりで沖縄まで(500マイル)走ったとき、夜中、ものすごい怖くなったことがありました。台風がいて、それを避けるように沿岸沿いを走っていたんですが、急に恐怖が襲ってきて宮崎に入港しました。自分のマインドをコントロールすることも大切なんだなと知りました」

 単独無寄港世界一周のコースは4つのフレーズに分けて考えています。母校となる新西宮ヨットハーバーを出港して東へ向かう。ハワイ周辺から南下して赤道を通過。針路を南アメリカ大陸南端へ向けてホーン岬へ(第1フレーズ)。ここは最も緯度が下がるため風波の状況が悪い難所です。

 次はアメリカ大陸から一直線でアフリカ大陸南端の喜望峰を目指す大西洋レグ(第2フレーズ)。そしてアフリカ大陸からオーストラリアまでのインド洋レグ(第3フレーズ)。どちらも南氷洋近くを走るため、低気圧による荒天を避けながら航海することになるとのこと。

 第4フレーズはオーストラリアから日本まで北上する最終レグ。インドネシアを大きく迂回して日本に戻るのは、2023年4月を予定しています。平均6ノットを目標に、総航程2万6〜8千マイル、190日で戻ってくることを計画しています。木村さんに出港直前の気持ちを聞きました。

「ドキドキしてきました(笑)。毎日作業があるので、あまり意識していないと思っていたんですが、先日船をぶつける夢を見たので体が意識しているのかもしれません。自分の挑戦はレースではないので、急がず行ってこようと思っています。何かしらのトラブルはあると思っています。日本のサポートチームと連絡を取りながら、安全に行ってきます!」

 航海中に出あうきれいな景色を楽しみにしている、という木村啓嗣さんは11月12日14時に新西宮ヨットハーバーを出港。航海の様子は自身のインスタグラムなどSNSでアップしていく予定です。

木村啓嗣(きむらひろつぐ)。1999年8月26日生まれ。大分県日出町出身。別府翔青高ヨット部でセーリングを学び、2017年えひめ国体には少年男子レーザーラジアル級に出場(15位)。高校卒業後、海上自衛隊で潜水艦に乗る。2020年から株式会社浜田所属。11月12日、単独無寄港世界一周へ向けて〈ミランダ〉とともに西宮を出港
購入したX41は関西のセーリングシーンで名を馳せた〈のふーぞ〉。リグなどの大きな変更はないがデッキには大きなドジャーを設置するなど長距離航海のための装備が追加されています
コクピット後方にアーチを取り付け、太陽発電とイリジウム、レーダーを設置。レーダーの位置は満足ではないが、テストセーリングを得て機能は果たしてくれると納得
(左)緊急時の応急予備ラダーは2セット搭載。スタンハッチに収納されています。緊急時は応急ティラーと両舷後方のウインチを使って操舵(右)クォーターバースには230日分の食料を用意(イケアのバッグにパッキング)。アルファ米、レトルトが中心で1日5000キロカロリーを目標にしています。水は200リットルを保管。通常は増水機の水を利用するとのこと
スターンにはエマージェンシー・ラダーの取り付けと水力発電機の取り付け部分。緊急用装備品などはワールドセーリングが発行するOSR(オフショア・スペシャル・レギュレーション)を参考にしています
積み込みがおこなわれている最中の乱雑なキャビン。天井には物置になるネットが貼られています
トイレの便座は邪魔になるので外してしまいまいました。「お尻が落ちてしまうのでは?」と聞くと、「はい落ちます」(笑)とのこと
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