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〈MILAI〉レポート「世界一周レースへ向けて貴重な体験」

 9月、フランスの2人乗り外洋ヨットレース「ノルマンディー・チャネルレース」に出場した鈴木晶友選手(MILAI)からレポートが届きました。レースは、最終場面でリタイアしましたが、来年スタートする世界一周ヨットレースへ向けて良い経験となったようです。(BHM編集部)

ノルマンディー・チャネルレースに出場した鈴木晶友(Masa)、中川紘司(Koji)。写真はリタイア後、ホームポートのロリアンへ戻った直後です

◎カーンをスタートしたノルマンディー・チャネルレース

 フランス、イギリス、アイルランドを周る1000マイルのコースに、27艇のClass40がエントリーしました。スタートから4日間は軽風から順風が続く予報で、まずはアイルランドまでにどれだけ艇団の中でセーリングできるかがカギとなりました。

 9月13日19時にスタート後、フリートは湾内のブイ3つをまわってから次なるウェイポイントを目指します。この3つのブイを周るコースのアップウインド中にMIALI号はポート&スターボードの位置関係で、ポート艇と接触。スタンションとウォーターブレーキに損傷を負ってしまいました。

 スタート後30分で起きたこのトラブルに、最初は動揺を隠せませんでしたが、船体に大きなダメージがないことを確認しレース続行を決めました。ポートタックだった衝突艇は、バウスプリットを根本から破損し、そのままリタイアとなりました。

フランス・カーン沖のスタートは夜7時。夕暮れの中をスタートしました
ノルマンディー・チャネルレースのコース図。レース途中、天候悪化したことからファストネットロック回航のコースが短縮されました

◎ソレント海峡で先行艇が座礁しているのを見て回避

 9月14日、イギリス海峡を渡りフリートはポーツマスとワイト島の間のソレント海峡に差し掛かりました。ここは浅瀬と8ノット以上の潮流がある、とても難しいポイントとして有名です。1マイル未満の海峡が約25マイル続きます。

 幸いにも追い潮の時間帯と重なったためスムーズに海峡をセーリングすることができました。ただ。最後の出口付近で先行2艇が止まっていることを確認。なんだろなーと、思うと若干ヒールした状態で、明らかに座礁して止まっていました。

 すぐにA2スピンを下ろし、その場を危機一髪で回避し、私たちはソレントを抜けることができました。先行艇が走っていた頃は風が弱く、潮流だけで浅瀬に流されしまったそうです。。。恐るべしソレント海峡。

潮の早いイギリス・ソレント海峡を走る〈MILAI〉

◎良いポジションで北上。アイルランド沖タスカーロックを目指す

 9月15日、イギリス沿岸部をダウンウインドで西を目指し、イギリス最西端のランズ・エンドまでやってきました。夜中の回航となったランズ・エンド、この時点の順位は10位でしたが、見える範囲にClass40の航海灯が5つ見えました。

 ここから次なるウェイポイントのタスカーロックまでの130マイルでは徐々にアップインドにシフトする予報です。軽風でレース展開が遅れていたため、この時点でコース短縮が発表され(1000マイルから約800マイルに短縮)、ファストネット回航がなくなりました。

 9月16日、天気モデルによって風向予報が大きく違ったため、どちらにシフトしても良いポジションに船を置きながら北上を続けました。ラッキなーことに風向はどんどんいい方向へシフトしてくれ、タスカーロックを5位で回航することができました。

ランズ・エンド手前。外洋レースとはいえ、3日間走っても3艇が見える距離で戦っています

◎トラブル発生。エンジンがかからない

 このタスカーロック回航直前にトラブル発生。バッテリーチャージのためにエンジンをかけようとしても、スターターモーターがまわりません。最初はエンジン・バッテリーのトラブルと思い、サービスバッテリーに切り替えて始動を試みるもエンジンがかからず。

 エンジンルームを開けると大量のオイルと海水漏れを確認しました。ひと目で、これは海上での修理は不可能だとわかりました。それなりに予備パーツは持っていましたがエンジンオイルはないし、そもそもオイルがあったところで直る症状ではありません。エンジンに海水が入ってピストンを破損したことが考えられました。

 9月17日、タスカーロックから帰路に入り、ランズ・エンドに向けて南下します。風は15~20ノットのアビーム。エンジンを失ったMILAI号は発電を水力発電に切り替えてセーリングを続けました。

 この水力発電は8ノット以上のボートスピードで発電を開始してくれます。ランズ・エンド回航まではアビームのため、難なく充電できます。ただ、ランズ・エンド回航後はアップウインドで最大40ノット近く吹く荒天が予報されていたこともあり、後の展開について2人でしっかり話し合いました。

・引き続きフィニッシュを目指す
・エンジンが無いMILAI号が入港できるのは、フィニッシュ地のカーン、もしくはホームポートのロリアンの2箇所
・電源を失ったときの事を考え、ランズ・エンドまではプッシュしたセーリングをせず、のんびり身体を休める
・安全だと判断できなくなった時点で、リタイア。ロリアンを目指す

予報通り天気が悪化し、コースが短縮されました。写真は〈MILAI〉からのオンボードショット

◎35ノットオーバー、2ポイントリーフのなかリタリアを決意

 ランズ・エンド回航後、カーンに向けてアップウインドに入ります。これから風速が上がる予報でしたが、この時点で既に35ノットオーバー。2ポイントリーフメインと、インナージブで艇速約8ノットでMILAI号は波の上を飛び跳ねながら進みました。

 2時間ほど走り色々考えました。徐々に上がる風速の中で十分に発電を得られない状況です。最悪イギリスへ避難入港が必要になるかもしれないが、エンジンは使えない。。。

 体力があり安全な判断ができるうちに、リタイアの決断をしました。ここまで2人で頑張って走ってきて、あと35時間でフィニッシュできるのに途中で止めるのは正直辛かった。でも、船と身体の安全を第一に考えると、ここは止めるべきだと決めました。

セーリングする鈴木晶友選手(筆者)。冬の〈MILAI〉はホームポートのロリアンで準備期間に入ります

◎来年の世界一周レースに向けて改造を試みる

 その後レース委員会にリタイアの連絡をし、MILAI号はロリアンにヘディングを向けました。9月18日17時30分、私たちは無事にロリアンに到着。到着時はDMG MORIセーリングチームのRibボートが曳航してくださり、さん橋でも多くの方々とチームメイトが出迎えてくれ、サポートしてくださいました。

 スタート地カーンに戻ることはできませんでしたが、来年の世界一周ヨットレースGlobe40に向けての修行として、とてもいい経験を積むことができた5日間のセーリングとなりました。

 MILAI号は、今週からエンジン、リギン、コンポジット、電気関係の業者さんとミーティングをし、今冬のボートメンテナンスの計画を詰めていく予定です。そして11月中旬に上架、ドックインし、約2カ月間かけて来年のレースに向けて大幅な改造を実施します。

 Kojiさんと初めて2人で出場したレースはフィニッシュラインを切ることができませんでしたが、2人でのコンビネーションはとても良く、すでにまた2人でセーリングできるのが楽しみです。

 レース中はショアチームのサポートも心強かったです。毎日日本語で書いたレポートを英語訳してアップしてくれたRika、トラブルが起きる度に相談にのってくれ、いつも心の支えにあった相棒Anne。そしてレース委員会の皆さんと応援してくださっていた日本のセーラーの皆さんに心から感謝いたします。

 来年のGlobe40に向けて、これからも一歩づつ前進していこうと思いますので、引き続き応援よろしくおねがいします。(レポート/鈴木晶友 )

◎Glove40/グローブ40とは
 2021年6月27日にモロッコ・タンジェをスタートし、7カ所の寄港地を経てスタート地へ戻る約3万マイル(5万5560キロ)の外洋2人乗り世界一周ヨットレースです。全長40フィートのClass40/クラス40で競われます。

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