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ドナルド・クローハーストの死(2)

 ヨットレース最大の謎とされている「ドナルド・クローハーストの死」について紹介しています。時は1968年。世界ではじめて開催された単独世界一周レース、ゴールデン・グローブレースでの物語です。パート(1)からお読みください。(BHM編集部)


航海中のドナルド・クローハースト。自身が16ミリカメラで撮影したオンボード映像が残っています

プロジェクトの遅れから期限最終日に出発

 ドナルド・クローハースト(英・当時35歳)は、週末にセーリングを楽しむ4児の父。職業は電気技師で、自身で会社を経営するベンチャー・ビジネスマンでもありました。自ら電波方向探知機(DF)や無線標識(ラジオビーコン)を開発していましたが、ビジネスは失敗続きだったといいます。

 クローハーストは、自身の開発した航海計器やアイデア艤装 (自動復元装置)を広告するという意味でも、ゴールデン・グローブレースは魅力的に映りました。彼は見つけ出した出資者(起業家のスタンレー・ベスト)に借金をして、船を制作します。

 また、レース前に彼を取材したのが有名ジャーナリストだったこともあって「どこにでもいるサンデーセーラーが、単独無寄港世界一周レースに挑戦する」という話題が広まり、応援者があらわれ、またたく間に人気者になりました。

 クローハーストは、スピードを優先する技術者らしく40フィートのトライマランを制作しました。さらに自身の開発した装備を取り付けようとしますが、船の建造は遅れに遅れ、スタート期限が刻々と迫って来ました。船の用意は未完成ながらも、彼を目当てに大観衆が集まり、クローハーストは期限ギリギリの10月31日、押し出されるように出港します。

 当時の映像を見ると、出港当日も荷物を抱えて、船に乗り込むクローハーストの姿がみられます。この荷物は、航海中に残った作業を船上でおこなおうとしたもので、それだけ余裕のないスタートだったようです。彼は参加選手9人のなかで最終のスタートとなりました。

 先頭を走るのは、ロビン・ノックス・ジョンストンの〈スハイリ〉です。ご存知の方も多いと思いますが、この大会で当時30歳の彼は世界ではじめての単独無寄港世界一周(フランスのベルナール・モアテシエという記録もあります)という記録を打ち立てることになります。

 しかし、他の選手はアフリカ南端の喜望峰をまわることができず、リタイアが続出します。合計6選手は喜望峰の手前でリタイア。残されたのは、ロビン・ノックス・ジョンストン(英)、ナイジェル・テトレイ(英)、ベルナール・モアテシエ(仏)、そして、クローハーストの4選手です。


船は40フィートカタマラン。艇名は自身の会社名を入れた〈Teignmouth Electron〉

クローハーストの世界記録と勝利を捨てたモアテシエ

 最後にスタートしたクローハーストが「猛スピードで走っているみたいだ」というニュースが流れたのは12月のこと。クローハーストからの無線で、デイラン243マイルを記録したと伝わってきたからです。243マイルは当時の世界新記録。彼の航海が順調に進んでいることも伝えられ、応援者たちからは優勝候補筆頭にあげられたのでした。

 クローハーストは、その後も、無線でハイスピードで走っている旨を伝え続けました。彼のライバルとなるジョンストンは313日でフィニッシュ。テトレイはフィニッシュ直前、残り800マイルで船体がバラバラになり沈没。救助されるという事故でリタイアしてしまいました。

 また、フランスのモアテシエは、地球を一周まわり大西洋に戻ってくると不思議な行動に出ます。なんと彼は再び喜望峰へ向けて進路を変えると「単独無寄港世界2周目」へ向かったのです。モアテシエは船上から大会本部へ向けて「おれは金や名誉のためにやっているのではない」と伝えました。

 比較することはできませんが、モアテシエがフィニッシュしていれば、ジョンストンの記録を抜いて優勝する可能性がありました。しかし、彼は別の道を選びます。その後、モアテシエはタヒチへたどり着き「単独無寄港世界1周半」の航海を達成しました。その距離は3万7455マイルにおよびました。(つづく)

参考:Deep Water、世界ヨット百科、Sunday Times Golden Globe Race、Donald Crowhurst


2006年にイギリスで制作されたドキュメンタリー映画「ディープウォーター」では当時の映像やクローハースト事件の検証、彼の家族たちの様子が記録されています。「ディープウォーター」は世界で最も優れたヨットのドキュメンタリー映画のひとつです

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