2020年ヴァンデ・グローブへ向けて再挑戦!白石康次郎インタビュー

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  • Mar

 世界一過酷と呼ばれる単独無寄港無補給世界一周ヨットレース、ヴァンデ・グローブが終了しました。南氷洋でリタイアした白石康次郎選手は、次回ヴァンデ・グローブ挑戦(2020年11月スタート)を決意。日本人初の完走を目指す再挑戦を発表しました。第8回ヴァンデ・グローブを振り返り、現状と次回大会への意気込みをバルクヘッドマガジン編集長がインタビューしました。(BHM編集部)

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日本人で初めて出場したヴァンデ・グローブはリタイアにより完走ならず。白石選手はヴァンデ・グローブ再チャレンジを発表し、あらたなキャンペーンを開始しました。photo by Yoichi Yabe

フォイル艇の登場でヴァンデ・グローブはスピードレース時代に突入した

BHM編集長:3月11日、最終艇となるセバスチャン・デトロモ(FRA。52歳)がフィニッシュして、ヴァンデ・グローブが幕を閉じました。まずは、本大会を振り返ってみたいと思います。今回も感動のドラマがたくさんありましたね。

白石康次郎:ヴァンデ・グローブの魅力は、1位から下位選手まで、それぞれの世界を持って戦っていること。当然トップグループは優勝を狙うし、60歳を越えて挑戦している選手もいる。ぼくのように初出場、初完走を狙う選手もいました。今回は10カ国から29選手が出場する国際色の豊かな大会になりました。

BHM:第8回大会は、アルメル・ルクレアシュ(FRA、39歳)によりヴァンデ・グローブの記録が更新されました(74日3時間35分46秒)。

白石:今回、世界一周レースではじめてフォイル(ハイドロフォイル=水中翼。水上を飛ぶように走るハイスピードボート)が登場しました。スタート前、フォイル艇が世界一周レースに通用するのかどうか、みんなが興味を持っていた。結果は1〜4位までフォイル艇が締める大成功でした。これから、ヴァンデ・グローブで勝つにはフォイル艇以外は考えられません。

BHM:世界一周をフォイル艇で戦う時代になるなんて、セーリングファンには衝撃的な話です。ただ、直前にあった大西洋横断レース、ニューヨーク・ヴァンデでは、浮遊物に衝突する事故が多発しました。フォイル艇はスピードが速く、横に伸びるダガーフォイルの影響で、衝突のダメージは大きくなる。選手の恐怖心は、相当なものだと想像します。

白石:浮遊物との衝突は、運の要素がほとんど。仕方ありません。ただ、世界一周がスピード勝負になり、セーリングスタイルが大きく変わってきています。常にスプレー(波しぶき)を浴びて走るので、コクピット以外で作業できなくなる。むかしのように「海の情景をゆっくり楽しみながら世界一周する」という時代は終わったのかもしれません。

BHM:フォイル艇の登場でスピード競争が一気に加速しました。ハイスピード時代に突入したことについて、どう感じていますか?

白石:レースはおもしろくなります。でも、旅の要素がなくなるのはつまらない。ひとつとして同じ船がないのが、ヴァンデ・グローブのおもしろさでもあるので、フォイル艇のスピードも魅力になると思います。

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折れたマストを使って応急リグを立て、ケープタウンへ避港する〈スピリット・オブ・ユーコー〉。photo by Yoichi Yabe

予期できなかった〈スピリット・オブ・ユーコー〉のディスマスト

BHM:12月4日、白石さんは大西洋から南氷洋に入ったところで、ディスマスト(マストを折った)しました。その時は、どんな状況だったんですか?

白石:風が収まってきていた時の突然のできごとでした。直前まで50ノットの嵐の中を走っていて、だんだん風が落ちてきていた。3ポイントリーフ(縮帆)していたので、2ポイントリーフに切り替えようと、船内からデッキに出て上を見上げたら折れていた。音も聞こえなかったし、まったく気が付かなかった。

BHM:いま思うとディスマストの原因はどこにあったのでしょうか?

白石:同じマストで世界3周はもたなかった、ということなんだと思います(〈スピリット・オブ・ユーコー〉のマストは、中古でこれまで世界2周している)。今回のヴァンデ・グローブでは5本のマストが折れている。そのなかで、あたらしいマストは1本も折れていない。中古だからといって、作業をさぼっていたわけではなくて、エックス線の検査、タッピング検査、レール、ビス、リギンも新品に交換しました。それでも劣化は進んでいた、ということなのでしょう。あたらしいマストで出場するべきだったけれど、当時のぼくたちのチームには時間も予算もなかった。あたらしいマストを用意するという、選択肢はありませんでした。

BHM:マストが折れた時、どんな気持ちになりましたか?

白石:折れたのがわかった時、ショックを受けている時間はありません。まずは船の安全を確保しなければならないからです。すぐマストにのぼって、折れた部分を切り離す作業をはじめました。でも、マストが折れてしまっていて、のぼるためのロープがなく、自力で少しずつあがるしかない。折れた部分までのぼってワイヤーを切断、最後の1本を切る前にセールに乗り移って切り離しました。気持ちが落ち込んだのは、こうした一連の作業を終えた後です。

BHM:白石選手は、折れた半分のマストを使ってジュリー(応急)リグを立て、南アフリカのケープタウンに向けて走り出しました。

白石:リタイアしてケープタウンまで戻る間は、地獄に落ちた気持ちになりました。悔いがあったわけではありません。「これ以上、何をしたらいいか?」ということをずっと考えていました。ぼくたちのチームは、できることを全部やった。ケープタウンに入るまで、「どうすれば世界一周できるのか」。これまでの自分を振り返って、ずっと同じことを考えていました。

BHM:白石選手は、再びヴァンデ・グローブに挑戦することを発表しました。再挑戦するという気持ちは、どこで切り替わったんですか?

白石:ケープタウンに着いた時、応援してくれた方やスポンサーの方から怒られると思っていました。何かに当たった、船がひっくり返った、というのなら納得がいきます。でも、ぼくの場合は普通に走っていて(マストが)ボキッだった。でも、ケープタウンに戻っていろんな人達からの声が聞こえてきた時、やめろという意見はなかった。「次をがんばろう!」と、みんなの声が前向きだった。これは、心の支えになったし、大きなモチベーションにつながりました。

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白石選手と〈スピリット・オブ・ユーコー〉。リタイアしましたが、この失敗と経験が次につながります。「失敗して分かったのは、あれじゃ足りない、ということ。今回はスタートするだけでいっぱいだった。もっと前から準備をはじめなければいけない」。photo by Yoichi Yabe

世界一周では、どんな時も正確な時間を知ることが重要になる

BHM:白石選手は、航海に出るときは船酔いに悩まされると言っていますが、今回もひどかったんですか?

白石:ひどかったですね(笑)。一週間、治らなかった。治ったのは赤道近くになってからです。

BHM:航海中はどんな生活を送っていましたか? 毎日、規則正しい生活になるのでしょうか?

白石:陸の上と同じような時間の感覚はなくなります。寝る時間、食事の時間は、風や海の状況次第で変わるからです。航海中は、重要な3つの時間が流れていました。ひとつは世界標準時。ヴァンデ・グローブの公式発表はこの世界標準時(UTC)が使われます。次に日本時間。日本のテレビやメディアに登場したり、連絡を取るために必要です。3つ目は、いま自分がいる位置のローカル時間です。時間を知るには、GPSソーラーウオッチ「プロスペックス マリーンマスター オーシャンクルーザー」が役立ちました。

BHM: 「オーシャンクルーザー」はGPS衛星電波によるタイムゾーン修正機能で正確な時間を表示してくれます。航海中、ローカル時間を意識するのはどんな場面ですか?

白石:まずは、日の出、日の入り。暗くなると外に出て作業できないので、いつ太陽があがり、いつ沈むかを考えながら作業しています。マストに登るのも明るくなってからでなければ危険です。作業のタイミングを計るには正確なローカル時間が重要になります。

BHM:実際に世界一周レースで「オーシャンクルーザー」を使ってみた感想は?

白石:視認性に優れているのがうれしかった。文字盤がクリアだから見やすい。それに軽くて頑丈なこと。ぼくほどの過酷な状況で使う人は、なかなかいないかもしれないけれど、実際に使ってみてストレスを感じることは全くなかった。簡単な操作でローカル時間に合わせてくれるのも便利でした。「オーシャンクルーザー」にはとても満足しています。

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セイコーと白石さんが共同開発したプロスペックス マリーンマスター オーシャンクルーザー。〈スピリット・オブ・ユーコー〉と同じ角度のついた船型もデザインに活かされています。
https://www.seiko-watch.co.jp/prospex/sea/marinemasteroceancruiser/gpssolar

次回ヴァンデ・グローブは2020年秋にスタート。白石康次郎が目指すのは?

BHM:次回ヴァンデ・グローブは2020年秋にスタートします。白石さんは、スタートまでの期間に、どんな準備をしていこうと考えていますか?

白石:失敗しているぼくは、サクセスストーリーを語れません。でも、チャレンジ精神はだれよりもある。それに、早くリタイアしたから、早く次の大会の準備ができる(笑)。失敗も前向きに考えています。今回の失敗から、ヴァンデ・グローブの準備期間は2年は必要だと感じました。これは大変な作業で、莫大な費用が掛かります。来年の夏までは、たくさんの人にぼくのチャレンジを知ってもらうための活動をしようと思っています。

BHM:〈スピリット・オブ・ユーコー〉は、いまどんな状態なのでしょうか?

白石:船体はケープタウンから横浜へ到着しました。4月にパーツ類、購入したマストが日本に届くので、船を組み立て、全国でセーリングしようと考えています。みなさん、大迫力の〈スピリット・オブ・ユーコー〉にびっくりすると思いますよ。ぜひ、乗りに来てください。子どもたちに乗船体験してもらう「勇気の教室」というプログラムもおこないます。

BHM:白石さんは、ヴァンデ・グローブの失敗で何を手にしたのでしょう?

白石:この失敗が経験になりました。仲間、船と過ごしてきた時間が、ぼくの実力をちょっとあげてくれたと思います。失敗して「ぜんぶ止めてしまおう」となったら、ぼくは何も変わらない。成功する、失敗するは、天に任せればいい。一生懸命やること。失敗してもまたやればいいんです。きっといつか成功します!

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白石さんからバルクヘッドマガジン読者へ、サイン入りポストカードをプレゼントします。ご希望の方は、バルクヘッドマガジン編集部editor@bulkhead.jpへ「プレゼント希望」と書いてメールしてください。当選者の発表はプレゼントの発送をもってかえさせていただきます。自分の名前、住所も忘れずに。

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