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大学マッチ・ユニバーシアードに出場して

 6月28〜7月5日、北イタリアのトレント州レドロ湖で「大学マッチレース世界選手権・ユニバーシアード」が開催され、日本代表チームとして、月光ボーイズの4名(市川航平、加藤文弥、中山遼平、小池俊輝)がワールドチャンピオンの座を賭けて、世界の強豪と戦ってきました。(レポート/市川航平、写真/月光ボーイズ、WUC2014提供)

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月光ボーイズチームメンバー。加藤文弥(バウ)、市川航平(スキッパー)、小池俊輝(ピット)、中山遼平(トリマー)

 僕らの活動を日本から応援して下さった皆様と、 これからの日本のセーリング界を支えるユースセーラーの皆さんに、詳細な報告と僕らが世界と戦ってきて感じたことをお伝えしたいと思います。

 17歳〜28歳を対象にしたユースの大会とはいえ、参加選手の戦歴を見れば一流のセーラーが多く、どの国も自国内外から雇った専属コーチや、チームをまとめる監督などが帯同しており、 『ユース世代のオリンピック』とも称されるこの大会にかける意気込みは各国並々ならぬ思いがあることが開催前の準備期間から伝わりました。

 オープンクラス(男子or男女ミックス)は19チーム、女子クラスも8チームあり、世界各国から100名以上ものセーラーが集まり大会は開催されました。

 最終結果は以下の通りです。
OPEN CATEGORY
1 USA SNOW Nevin
2 AUS GILMOUR Samuel
3 FRA QUIROGA Pierre
4 JPN ICHIKAWA Kohei
5 SIN LEE Sean
6 ITA GARATI Valerio
7 SIN LIU Justin
8 GBR MILLER Connor
9 TUR KARAHAN Canberk
10 POL SADOWSKI Tymon
11 AUS GRIFFIN Jay
12 FIN RONNBERG Markus
13 CAN GARDNER Landon
14 RUS KATAEV Sergei
15 GBR WILKINSON Nicholas
16 GER MAIER-RING Adrian
17 BRA GROCHTMANN Philip
18 ITA CAVALLARI Sandro
19 CAN HEARST Jason

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表彰台を逃し悔しい思いをしました

 僕ら日本チームは、予選ラウンドロビン(2グループに分かれ総当たり戦)を7勝1敗のグループ内1位で通過することができ、ラウンド2を飛ばしてクウォーターファイナル(ベスト8、2勝先取り)へと進出しました。

 クウォーターファイナルでは、イギリスチームに2勝1敗で辛くも勝利し、勝てば銀メダル以上が確定するセミファイナル(ベスト4)へと駒を進めましたが、ここで優勝チームのアメリカに敗れ、続く3位決定戦でもフランスチームに負けてしまい、あと一歩のところで世界大会でのメダルと表彰台を逃す、悔しい結果となりました。

 閉会のセレモニーで、表彰台に上ることの許された他国の選手達、掲揚されていく国旗を見て、あんなに悔しい思いをしたのは未だにメンバー全員忘れてはいないでしょう。

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左からオーストラリア、アメリカ、フランス。オープンクラス上位3チーム

◎必要不可欠だと感じた英語での主張

 国外のマッチレースの大会は、シンガポール、オーストラリアに続きこれで3度目ですが、遠征するたびに痛感することがいくつかあります。

 まず1つ目は、言葉の壁、『英語の会話能力』です。

 マッチレースにおいて、英語で自己表現や自己主張をすることは勝つために非常に重要な能力の1つで、それはマッチレースの特性上、スタート4分前のエントリーからフィニッシュまでの間、相手とぶつかるか避けれるかのギリギリの攻防が頻繁に起きるため、否が応でも相手とケースが起きたり、Y旗(プロテスト)と共にアンパイアへ訴えかけたり、白熱すれば過激なスラングまで行き交ったりもします。

 僕も大会前にはルールブックとケースブック、そして海外のマッチレースのオンボード映像の音声から、多くのケースと、そのケースで交わされるであろう英語を想定し、すぐに発言できるように可能な限り全て頭に入れてから戦いに臨むようにしています。

 自分の主張が正しかろうが、間違ってペナルティーを取られてしまおうが、フィニッシュ直後や毎日レース後に行われるデイブリーフィングでは、アンパイア陣にケースの詳細とジャッジの理由を選手全員が事細かに熱く質問し、全選手がそれに耳を傾けます。

 それは、各アンパイアのジャッジの特徴や判断基準のボーダーラインを把握するためであったり、アンパイア陣に自分のルール認識力の高さを証明するためであったり、理由は様々ですが、選手皆が陸上のブリーフィングですらレース同様に真剣に取り組むのは、それが勝敗の行方に深く繋がるものだと認識しているからです。

 そしてこの英語というツールは、マッチレースに限らず、フリートレースでも同様に重要です。

 海外のトップ選手やコーチなどから、最新のセーリングテクニックを学ぶためには、彼らとの密なコミュニケーションが必要不可欠だし、オリンピックのメダルレースなどでは、メダルをかけてのスタート前からの激しい1対1での攻防は度々見受けられます。

 これまで海外選手からのプロテストや審問で日本人選手が敗れてきた数を考えると、英語という言葉の修得が、セーリング競技での成功に繋がることは明白で、そしてそれは昨今の日本人選手の大きな課題の1つだと感じます。

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海外のレースはいつでもお祭り騒ぎ。閉会式前から盛り上がります。写真中央を陣取るは加藤

◎思い知らされた経験値と体格の差

 2つ目は、『セーリング経験の幅の広さ』と、『体格の重要性の認知度』です。

 日本でも世界でも、小〜中学生ではOPを経験し、高校では420などを学べるため大きな差はありません。しかし個人でセーリングを続ける選手を除き、多くの日本の大学生は部活動でインカレ優勝を目指す4年間の中で、470もしくはスナイプのどちらかしか乗らない選手が大半です。また体格の重要性を気付くには、それらの艇は少し小さ過ぎるとも思います。

 海外でも420から470へ移ったり、長い間同じシングルハンダーに乗る選手も少なからずいますが、それはその国内で限られた数チームのみであり、日本で僕らが国内のみで、また環境次第ではコーチ不在や毎年ペアが変わるなどの問題を抱える一方、彼らは国の支援と専属のコーチの下、若くして多くの世界の大会を経験して行きます。

 今大会で採用された艇はJ/22でしたが、僕らを含め、集まった同世代の海外の選手は皆、普段は別の艇で活動しています。
大学生にもなると、海外の選手は様々な艇でのセーリングを積極的に行っています。

 470やスナイプを乗る選手もいますが、それ1艇種のみという選手はほとんどいなく、これまでの大会で知り合ったオーストラリアやニュージーランド、ヨーロッパなどのセーリング強国の選手の多くが、キールボートやメルジェスの他、49erや18フッター、 モス、カイトセーリングなどをマッチレースと並行して行っており、さらにそういった他の種目でもISAFワールドなどに出場していたり、ナショナルチームになってしまったりしているというから驚きです。

 今大会優勝のアメリカチームのスキッパーも、一時はマッチレースの世界ランクで27位まで上りつめ、AC45を使ったユースアメリカズカップなどマルチハルのボートも経験しています。

 ユース世代の海外選手の多くが、様々なキールボートやハイスピードボートに積極的に乗り、その中でスピード感覚やセーリング技術、また強固な身体をつくることの重要性を深く理解しています。

 マッチレースのユース大会はそういった多種多様な選手が集まる場であり、未来のオリンピックメダリストやスピードボートの一流選手、アメリカズカップの選手へと上り詰める選手と知り合い、1対1で戦い合える最高の舞台が広がっています。


美しいレドロ湖でおこなわれた大学マッチレースの様子

◎ディンギーからキールボートへ

 大学生セーラーが部活引退と共にセーリングを辞めてしまうのは簡単ですが、その先に広がる大きな世界を覗いてみてからでも、その判断は遅くはないでしょう。

 日本人が、ワールドマッチレーシングツアーやアメリカズカップ、ボルボオーシャンレースなどの世界の超一流の舞台に参戦し、活躍するような時代が来るためには、ユースセーラーの僕らが世界に向けて一歩を踏み出し、次世代へバトンタッチをしながら、その一歩を長年継続していくしかないと思います。

 そして、今僕らが挑戦しているマッチレースやキールボートといった世界は、1人では出来ない、多くの仲間が必要なヨットレースです。

 僕らと一緒に、世界で活躍するマッチレーサー、キールボートセーラーを目指しましょう! 2年後のユニバーシアードはオーストラリア西海岸のパースで行われます。

 艇種はFoundation36(36フィート、ワールドマッチレーシングツアー採用艇種)で5人乗り。

 僕ら月光ボーイズは今年2月に同艇種同海上で行われた、ウォーレンジョーンズ・インターナショナルユースマッチレーシングに、日本で初めて日本人のみの6人チームで参戦しましたが、毎日吹く20ノット以上の強風、メインシートやヘッドセール、スピンシートの重さは想像を絶するもので、タックやジャイブすら満足にいかない苦しい戦いでした。

 それを5人で行うとなると、しっかりトレーニングを積まないとかなり日本人には難しいいレースになることが予想されます。

 ユニバーシアードは大学、もしくは大学院卒業後2年以内なら参戦可能で、今回参加した4名とも参加権利がありますが、先のことはまだ分かりません。

 まずは来年2月に行われるウォーレンジョーンズ・インターナショナルユースマッチレーシングに再挑戦し、これまでの成果を活かして、世界の選手達と対等に戦ってきたいと思います。

 また、今年9月にはアメリカのニューポートで行われるJ/24のワールドにも、市川がタクティシャンとして、中山がピットマンとして、月光チームの一員として参戦してきます。

 そして、今回メダリストになれなかった悔しさを活かして、これかもセーリングに真摯に向き合い、挑戦を続けていきますので、今後も応援よろしくお願いします。この度は、僕らを応援していただき、本当にありがとうございました。

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アメリカチームのクルーと。アメリカチームのトリマーは女の子でした。すごい!

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オーストラリアチームと。写真中央のRemyはAUSの一流マッチレーサーで現シンガポールチームのコーチ。中央右が、ピータギルモア氏の息子(次男)のサム。彼とは再びパースで戦うことを約束しました。


閉会式の様子。日本チームも頻繁に映っています

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