Loading

一番速いのは誰だ!? 葉山スピードトライアル

 日本初、もしからしたら世界でも初めてかもしれないセーリングイベントが、2月16日、相模湾葉山沖で開催されました。この企画はセーリング競技の異種格闘技戦ともいえる、『モス vs ウインドサーフィン vs カイトボーディング』によるスピートトライアルです。(BHM編集部)

14.02.17_09
モス、カイトボーディング、ウインドサーフィンによる異種格闘技戦が、葉山沖でおこなわれました。とにかく速くカメラボートは追いつけません。photo by Junichi Hirai

 酔狂この上ない“おバカ企画”に間違いありません。ことのはじまりはフェイスブックでした。先週のはじめにアトランタ、シドニー、アテネ五輪のウインドサーフィン日本代表、長田雅子さん(旧姓今井)が、「ウインドとモスってどっちが速いのかな? カイトもいっしょに走ったらおもしろそう!」と言い出し、それを聞いたスピード狂セーラーが「それ、いいね〜」と応え、さらにモスの後藤浩紀さんが「今週の日曜、いい風吹くみたい。みんな、来られる?」となって、とんとん拍子に話が実現した次第です。その期間わずか4日足らず。行動力の早さにびっくりです。

 当日、葉山に集まったモス、ウインドサーフィン、カイトボーディングの代表選手は次のとおりです。

モス 後藤浩紀
ご存知2011年度ヨット馬鹿大賞。もはや伝説となったアテネ五輪・自費キャンペーン〈SAILFAST〉チームの470活動を経て、SAILFAST社代表。モス級の伝道師であり、モス日本スピード記録保持者。つねに勢いあるが意気消沈も早い。

ウインドサーフィン 長田晃宜
ジュニアヨット出身のウインドサーファー。普段は週末にスラロームを楽しむ会社員。アメリカ留学時にはナクラ17世界選手権出場経験を持つ。エントリーは、本人就業中に奥さまである雅子さんが、勝手に済ませていました(笑)。

カイトボーディング 三部泰誠
江の島ジュニア出身。数々の全日本優勝経験があるので書ききれませんが、とにかく三部はヨットがうまい。アテネ五輪まで本田技研工業ヨット部でキャンペーンをおこない、最近はファンセーリングでカイトのスピードにはまっている。

14.02.17_02
出艇前の選手たち。写真左から長田、三部、後藤。種目代表のような扱いになってしまい、相当緊張することになりました。「やるからには負ける訳にはいかない。負けたら仲間に何言われるかわからないし…」。photo by Junichi Hirai

14.02.17_01
自分の艇種以外はよく見る機会も少ないので、みんな興味津々です。photo by Junichi Hirai

みんなが集まって「さー、どうするか?」

 16日当日、心配された雪の影響はほとんどなく、低気圧通過後の真っ青な空が広がる葉山港に集結しました。しかし風は…。あれ?予報の北20ノットが入ってきません。そわそわしている三部選手は「風が弱すぎる(意訳:おれが負けちゃう)。電車で来たから7msまでのカイトしか持ってきていない(意訳:おれが負けちゃう)。もっと大きなセールが必要(意訳:おれが負けちゃう)」と言い訳モードです。

 長田選手もボートとセールの組み合わせを海を見ながら悩んでいます。ディンギーは基本的に統一されたセールやハル、ギアを使いますが、ウインドやカイトは、コンディションや乗り方に合わせて、ボードやフィン、セールを変更します。その日の風によって道具のサイズを代えて出艇するわけです。

 そして、選手、サポート陣が集まって、コースについてアレコレ意見を出し合います。「アップウインドなし」はすんなり決定し、その後、2つのマークを打つことは決まりましたが、角度、距離はどうするか? スタートタイミングはどうするか? そもそもみんなちゃんとスタートできるのか? 全員セーリング経験は豊富ですが、多艇種と真剣に競ったことはないのです。その辺がまったく想像できません。

 しかし、悩んでいても始まりません。とにかくやってみよー!ということで一同は海へ。そして、風もこの企画を応援するように一気に吹き上がり、最大30ノットのガストが入る、ラフコンディションに変わったのでした(カイトの三部選手は笑顔に)。

14.02.17_05
富士山をバックに快調に走る長田選手。「ひさびさに筋肉痛になりそうです」。photo by Junichi Hirai

14.02.17_07
カイトボーディング代表の三部選手。「むずかしそうに見えるけど、ヨットよりも楽に乗れるんですよ」。photo by Junichi Hirai

14.02.17_06
モス後藤選手。モスは2016年に葉山で世界選手権開催が決まり、国内でも急速に増えています。photo by Junichi Hirai

で、結局、だれが一番速かったのか???

 さて、海上に出てマーク打ちです。逗子披露山沖にスタートマークを打って、140度方向、0.5マイルにフィニッシュマークを打ちます。セーリングの角度はクォーターの走りですが、ボートスピードが速いためアパレント・ウインドアングルが前に前にまわり、クローズと同じようなセールトリムになります。この片道だけのダウンウインドレグを3艇で競おうというもの。さあ、絶好の北風が吹き出してスタート開始。開始。開始。。。できません。

 ウインドサーフィンもモスも走り出したら止まりません。あっという間に目の前から消えてしまいます。カイトボードは港からボートに乗って海上へ。マーク付近からセーリングをはじめますが、それぞれの準備時間や段取りが異なり、なかなかうまく集合できません。

 カイトボードのタイミングに合わせてスタートすることにして仕切り直しスタート。3艇がお互いにうまく並走するように合わせて競争がはじまりました。モス、ウインド、カイトが並んで走る様子に大興奮です(見ている方も馬鹿ですね)。

 マーク間勝負でなくなってしまったため、正確な勝敗は付けられませんでしたが、最高速はモスとウインドがほぼ同じ。波が出てくるとモスは走らせにくいので失速が激しく、セーリングの風域も30ノットが限界。ウインド、カイトの限界風域はより高くハードな海面でも走れるので若干有利です。

 実際に見ていても、モスがスピードに乗った時は、先頭を走りますが、コントロール性能に優れるウインドサーフィンが、カイト、モスを後方から抜き去るシーンが見られました。実際の当日のスピード最高記録は、モス31.24ノット、ウインドサーフィンが31.66ノット(カイトはGPSなく測定できず)。ほぼ同じスピードとなりました。

 コースや風域、競技場所など、今後の課題が残されたとはいえ、日本で初開催となるモス vs ウインドサーフィン vs カイトボーディングのスピートトライアルとしては、大成功と言えるのではないでしょうか。とくにバルクヘッドマガジンの読者のなかには、この3種目による異種格闘技戦・スピードトライアルに興味を持った方は多いと思います。

 ウインドサーフィン、カイトボーディングは、ファンセーリングがメインですが、ことディンギーは選手権を筆頭に大会競技を目標にしがちです。でも、単にセーリングを楽しんだりスピードを競ったり、また、今回のように他艇種とゲームするといった、まだわたしたちが経験していない、いろんな楽しみ方があることを実感しました。

 このスピードトライアル企画は、第2回開催も予定されています。みなさん、お楽しみに! 

14.02.17_08
モスvsウインドサーフィン。後半戦のウインドはボードを90リットル、セールを7m2に変更(サイズダウン)して走りました。photo by Junichi Hirai

14.02.17_04
ウインドサーフィンvsカイトボーディング。photo by Junichi Hirai

14.02.17_12
モスはVelocitekのプロスタート、ウインドは肩に取り付ける小型GPSを使ってスピードを記録しました。前半戦はモスの勝利。photo by Junichi Hirai

14.02.17_10
後半戦はウインドサーフィン、31.66ノット(時速58.64km)。photo by Junichi Hirai

14.02.17_11
後藤モスは34.3ノットのモス世界最速記録か?と思いきや、機械のバグだったようで、実際には31.24ノットでした。ということで後半戦の最速対決はウインドの勝利(最高に残念な笑顔になりましたね)。photo by Junichi Hirai

======================================
わたしたちは走り続けるセーラーを応援します
BULKHEAD magazine supported by
ベストウインド
パフォーマンス セイルクラフト ジャパン
SAILFAST
ウルマンセイルスジャパン
丸玉運送
ノースセールジャパン
入船鋼材
フッドセイルメイカースジャパン
アビームコンサルティング
トーヨーアサノ
Velocitek
銚子マリーナ
コスモマリン
Gill Japan/フォーチュン
JIB
一点鐘
エイ・シー・ティー
ハーケンジャパン
ファクトリーゼロ
CATEGORY:  COLUMNDINGHYINSHORENEWS