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バルクヘッドマガジンが見たジャパンカップ

 バルクヘッドマガジン編集部が西宮ジャパンカップを観戦して、〈サマーガール〉の完成度におどろかされています。前半のインショアレースを4連続トップ、さらに風が吹き上がるタイミングなど不確定要素の高いディスタンスレースでも勝利。なぜ〈サマーガール〉は、これほどまで強いのでしょうか?(BHM編集部)


2012年の蒲郡ジャパンカップで優勝し、二連覇を狙うサマーガール。photo by Junichi Hirai

サマーガールの戦術と完成型に近づいたボート

 本大会では、公式サイトにレース航跡図がアップされるので、それを見ると〈サマーガール〉の戦い方が見えてきます。まず、スタートは第一線から出ることを選びません。大小さまざまなボートサイズが出場するヨットレースのスタートで、いちばん避けるべきは大型艇のブランケットと混戦に巻き込まれること。〈サマーガール〉は確信的に一歩退き、大型ハイスピード艇を避け、時には即タックしてクリアエアをつかむことに全力を注ぎます。

 〈サマーガール〉のヨットレースはこれで終わりです。みなさんは「ナニを言っているんだ?」と思うかもしれませんが、スタート以降、ボート同士が絡むことはほぼありません。〈サマーガール〉はターゲットボートスピードを出すことに専念し、ミスすることなく決められたコースをこなします。

 TP52、GP42、KER40、BOTIN40というバウスプリットを持つ軽排水量グランプリレーサーはスピードで前へ行き、後続の30〜40フィート艇に対しては水線長で勝る〈サマーガール〉が前に行くという図式ができあがります。つまり、中間位置を走る〈サマーガール〉は戦う相手が自然といなくなってしまうのです。

 この先は、実に不思議なヨットレースを見ることになります。基本的にはレーティング通りの順番で上マークを回航し、〈スレッド〉(TP52)は巨大ジェネカーをあげて「ゴーイング・マイウェイ」。続く〈スウィング〉(BOTIN40)も同じく「ゴーイング・マイウェイ」。〈ギャラクシー〉(GP42)以下、同じく「ゴーイング・マイウェイ」…。

 近年のジャパンカップは、参加が少ないこともあり、ヨットレースのゲーム性で競うのではなく、クルーワークの成熟度とレーティングを意識したボートモディファイの完成度を競うものとなっています。誤解を招くおそれがあるので、あらためて言いますが、編集部はそうした状況で、最高のボートパフォーマンスを出すまでに完成に近づいている〈サマーガール〉を賞賛し、ここまで突き詰めたことに驚かされているわけです。

 実際には、ボート性能だけで勝っているわけではありません。マークラウンディング、タッキング、ジャイビングアクションを見ているだけでも練習を積んだクルーワークが見られます。たとえば、スピネーカーをアップするのに1艇身ほどの距離でコンプリートしてしまう姿は、クラブレースでは絶対に見られないハイレベルなもので、非常に美しいクルーワークだと感じました。

 〈サマーガール〉は、馬場益弘オーナーがけん引する関西を代表する老舗チーム。ヘルムスマンの舩澤泰隆、兵藤和行(タクティシャン)、中嶋一夫(トリマー)、田中清俊(メインセール)、柴田俊樹(バウ)といったセーラーたちが何年にもわたって同じメンバーで乗り続け、チーム力を高めてきました。

 ベネトウFIRST40.7は、いっとき同型艇の全日本選手権が開催されるまで普及したプロダクションボートですが、〈サマーガール〉はIRCに対応するべく船をモディファイしています。2010年以前にマストをカーボンに、セールプランを大幅に変更しましたが、それ以降、改造はおこなっていません。FIRST40.7という決して新しくないクルーザーレーサーをぎりぎりまでモディファイした結果が、現在の姿であるといえるでしょう。

 一般的には最新艇が有利とされるヨットレースですが、クルーの熟練度、ボート性能を引き出すという点において〈サマーガール〉が優っているのは確かです。ジャパンカップにおける快進撃は「納得のいく結果」といえそうです。

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